冬に咲く花火(4)
「あ、天宮……!」
駆け出した天宮を追いかけようとした。
しかし、腕にしがみついた宮地が手を離してくれなかった。
「宮地、離してくれ。俺、天宮のこと追いかけないと」
「……嫌です」
「嫌って……宮地、悪いけど今はお前に構ってる暇はないんだよ」
「先輩。誰よ、あの女」
「そんな修羅場みたいな言い方。天宮は、同じ学校の、同じクラスの……『友達』だよ」
天宮の去ったほうをチラリと見る。
人混みに紛れて、もうその姿を確認できない。
宮地は目を半分にして、ジト目で俺を睨んでいた。
「ふぅん……ただの『友達』ですか?」
「いいや。特別に大事な『友達』だよ」
言葉にすると、自然と笑みが溢れた。
それで宮地は俯いて、ゆっくりと手を離してくれた。
「……一緒に観るって言ったのに」
「悪かったって。いつか、ちゃんと埋め合わせするからさ」
「もういいです。今日のところは引いてあげます。でも先輩。私、諦めたわけじゃないですからね」
そんなにルミナリエが観たかったのか。
宮地には悪いことをした。
でも、今は。
俺は天宮の去った方向に駆け出した。
突然で驚いたけど、久しぶりに天宮と会話した。
不安にさせた、と和葉が言ってた。
俺はもう、天宮に嫌われてしまったのかもしれない。
でも、そんなの関係なかった。
俺は俺の伝えたい気持ちを伝える。
それをどう受け止めるかは、天宮が決めればいい。
コロコロと表情を変えて、笑いかけてくれた天宮。
学校では見せない、天宮の楽しそうな姿。
繋いだ手、そっと握り返してくれた感触。
立ち聞きした言葉ひとつなんかより、信じなきゃいけないものが、たくさんあったんだ。
駅とは反対方向の、人通りの少ない道の端にしゃがみ込む天宮の姿を見つけた。
俺は近づいて、荒くなった息を整えてから声をかける。
「天宮」
声に気づいて振り返った天宮は、泣いていた。
……俺のせいだ。
「ごめん、天宮」
「……違うよ。私が聞きたいのは、そんな言葉じゃない」
……そうだよな。
俺が言いたかった言葉も、そうじゃない。
そうじゃなくて、俺は。
「天宮、好きだ」
どん、と体当たりするみたいに、天宮が抱きついてきた。
心臓が、すぐ隣にあるんじゃないかってくらい、耳元でバクバク言ってる。
ギュッと、腰に回された腕に力が入って、天宮を抱きしめたい衝動に駆られた。
顔を上げる天宮。
「……私、も……」
震える声で、それだけ言って天宮はまた、肩のところに顔をうずめてしがみつく。
その言葉だけで、充分だ。
俺は腕を回して天宮を抱きしめた。
心には形がないと言うけれど、それはたぶん液体みたいなものなんだと思う。
だって、こんなにも温かく、満たされるのだから。