夏の終わりに花火を見れば(4)
ドゥンという音に遅れて、夜の空に火花が咲いた。
会場で今か今かと楽しみに待っていた人だかりが、わっと湧いた。
赤や青の光を煌めかせては、消える。
音が止んだと思えば、今度は柳のように光を垂れ下げて、夜の海に灯を落とす。
ほんの一時間足らずで一万発以上あがる打ち上げ花火は、開幕からハイペースで開いては消えていった。
「わあー!すごーい!」
隣を見れば天宮が、見たことないような無邪気な笑顔で花火を目で追っていた。
あんまりはしゃいでいるので、こちらが驚くほどだ。
まあ、綺麗だとは思うけど、花火なんて毎年この時期になれば見られるだろうに。
しかし、来年は自分たちも受験生だ。進路次第では天宮ともクラスが分かれるかもしれない。そう考えれば、ここでこうして天宮と見られる花火は、もしかすれば、これが最後かもしれない。
派手な花火の炸裂音に再び視線を空に戻すと、先程までよりほんの少しだけ、花火の煌めきは切なさを宿しているように感じられた。
――――――――――――――
打ち上げられた一万発以上の花火は、あっという間に時間を経過した。
夜空を派手に彩るフィナーレと、会場に湧いたまばらな拍手は、祭りの余韻をわずかに残しながら花火大会の終わりを告げた。
「終わったねー、花火」
「そうだな」
「来てよかったなあ。なんか、夏休み満喫したぞーって気分だよ」
まあ、なんか言いたいことはわかる。
花火を見に来ると、ちゃんと夏休みしてたんだなあって気持ちになる。天宮は、実際のところプール行ったり実家帰ったり色々と充実してたんだろうけど。
「それじゃ、帰ろうか」
そう言って立ち上がり、レジャーシートを畳んで鞄にしまった。
周りに座っていた観客たちも、順に駅のほうに向かって行く。
実は、ひとつだけ懸念があった。モザイクほどではないにしろ、それなりの人数がこの場所には集結している。このポートアイランドから本土に帰る方法は限られていて、主に来る時にも使ったモノレールで帰るわけだが、今この時に観客たちが同時に駅に向かえば、おそらくかなりの混雑が予想される。
人の波に乗って駅近くまで来てみると、案の定かなりの人数が駅で並んでいた。
「天宮、どうする?この列に並んで帰ってもいいけど、時間、遅くなるかもしれない」
「うーん、そうよね」
見ると、人の流れは主に二つに分かれていた。
ひとつは駅に向かうもので、もうひとつは神戸大橋に向かうものだ。ここから橋を渡って歩いて三ノ宮まで向かうのは、それなりの距離を歩かなくてはならないが、駅で待つ長蛇の列に並ぶよりも早く帰れる可能性は高い。
「天宮、ちょっと大変かもしれないけど、俺たちも歩くか?」
「そうね。私は大丈夫だと思う。歩こっか」
そうして、神戸大橋に向かう人混みについて行った。
まあ、途中でへばっても最悪タクシーを呼ぶこともできる。高校生が夜間遅くまで出歩くよりはマシだろう。




