夏の終わりに花火を見れば(3)
北埠頭の駅を降りる。
人の流れに従って進めば、海に臨む公園に辿り着く。
公園内はすでに人だかりが出来上がっていて、りんご飴や焼きそばなんかを売る出店もいくらか見られた。
以前に来た時と同じように、やはり埠頭はそれなりに賑わっていた。
「へえ、こんなに人が集まってるんだね。私、いつもモザイクからしか見てなかったから知らなかったよ」
天宮は、お腹でもすいてるのか今にも屋台のほうへ駆け出しそうな様子だった。
花火が始まるまで、まだ一時間ほどある。
屋台を回ってから座る場所を探してもよさそうだ。
「そうだ、一ノ瀬。これ、返すね」
そう言って、天宮は右手の拳を差し出した。
疑問に思いながらも手を出すと、天宮は何かを渡してきた。見ると、それはいつか天宮の部屋で見た、自分の中学の校章だった。
「天宮、これって……」
「ん。ちゃんと返したからね。ほら、私、実はお腹ぺこぺこなんだよね。早く行こ!とりあえず焼きそばと、たこ焼きと、あとはー、なにあの店、ケバブ?もう何でもありよね……」
ほら、早く。
そう言って、天宮に手を引かれて屋台のほうへ誘われる。天宮は校章について、一切説明する気はないらしい。返す、と言うからには、この校章はどうやら自分の物らしかった。しかし、なぜ自分の中学時代の校章を天宮が所持していたのか、まったく思い出せない。
咄嗟に掴まれた手を見やる。こうして手を繋いでいると、側から見れば恋人同士に見えなくもないのだろうか。
とりあえず、校章はポケットに入れて今はお祭りを楽しむことにした。いずれ機会があれば思い出せるかもしれないし。
――――――――――――――
屋台の並ぶ公園から少し離れた海岸近くの階段には、恋人たちが等間隔に並んで座っていた。
自分たちは、別にカップルではないが、空いているところに並んで腰を下ろすことにした。
「天宮、あそこ空いてるから座ろう」
「あー、でも私、浴衣だし汚れるとちょっと……」
「そういうと思って、これ持ってきたんだ」
和樹は、持っていたリュックの中からレジャーシートを取り出した。
いつだったか花火を見に来た時に、あれば便利だなあと思って買っておいた物だ。その後、一度も使う機会は訪れなかったわけだが。しかし、こうしてようやく役に立つ日がやってきたわけだ。
「へえ、一ノ瀬。意外と気がきくじゃん」
「まあね。人事は尽くすほうなんだ」
「まあ、そういうとこがオタクっぽいんだけどね」
「上げて落とすよな、お前は……」
和樹が二人分だけレジャーシートを広げると、天宮はそこに腰を下ろした。
その両手には、焼きそばやたこ焼きの入ったビニル袋と、なんか牛肉の串焼きとかとうもろこしとか、とても二人でも食べ切れそうにない量の食料を携えていた。
「天宮、これ食べ切れるの?」
「あはは、まさか。ちょっと調子に乗って買い過ぎちゃったから一ノ瀬も手伝ってよね」
「まあ、いいけど」
いつのまにか、緊張も解けていつも通りの空気になっていた。こんなやりとりも、いつからか二人の間では定番となっていた。そのことを、ふと不思議に思う。
天宮なんて、自分とは無縁の生き物だと思っていた。それがなんの因果か、こうしてちゃんと友達になってしまっている。案外、自分から別世界の人間だと決めつけて遠ざけていただけなのかもしれない。ここは学校の外だ。学校から一歩踏み出せば、クラスカーストも、オタクもないように思える。
天宮から受け取ったたこ焼きをひとつ頬張りながら、和樹は夏の夜空を見上げて、そんなことを思った。
都会の夜景の灯りのせいか、星の光は届かなかった。




