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友人契約  作者: マリーゴールド
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夏の終わりに花火を見れば(2)

 駅を行き交う人混みの中に、浴衣姿のカップルがちらほらと見える。

 天宮との待ち合わせの時間まで、もう間も無くだ。夕陽に染まる空のピンク色は、徐々に群青色に変わっていった。

 和樹は摩耶駅の駅前で、ぼんやりと空を眺めていた。

 気がつくと、この時間は暑さも控えめになっているし、蝉の鳴き声も、いつのまにか聞かなくなっていた。もう夏も終わりだ。


「一ノ瀬、お待たせ」


 声をかけられて、和樹は遠くにいっていた意識と視線を戻した。

 天宮は、藍色に白の花が咲いた浴衣を着ていた。髪は丸めてお団子にしている。なるほど、昼に和葉に髪型を作ってもらっていたのは、このためだったのか。


「ほら、一ノ瀬。何か言うべき言葉があると思わない?うん?」

「ああ、いいね、浴衣。天宮は色白だから、落ち着いた色の浴衣がよく似合うよ」

「ま、まあね!ほら、私って可愛いから、何でも着こなしちゃうのよ、あはは」


 言って、天宮は照れている様子だ。自分で言って照れるくらいなら言わなきゃいいのに。

 まあしかし、満足そうではあるのでよかった。

 褒める時は服だけじゃなくて中身も褒めろ、とは和葉の言葉だ。

 和葉の買い物に付き合う度に感想を求められ、ダメ出しをくらい続けた日々は無駄ではなかったらしい。


「浴衣で来るなら言ってくれればよかったのに。俺、普通の格好で来ちゃったよ」

「え、別にいいよ。一ノ瀬の浴衣姿なんて誰も期待してないし」


 酷い言われようだった。思わず苦笑いを返す。

 まあ、そりゃそうか。


「行こっか」



 ――――――――――――――



 みなと海上花火は、いくつかスポットとなる場所がある。花火は海の上に打ち上がるが、地理的に神戸の港は山の近い場所でもあるため、見ようと思えば山の上や高いビルの中からでも見ることが出来た。

 人気は、やはりメイン会場となるハーバーランドのモザイク周辺だ。しかし、今回はもうひとつの人気スポット、ポートアイランドの北埠頭から見ようと考えていた。理由はいくつかあるが、まずモザイク周辺は人気もあって人混みが物凄いことになるのだ。自分ひとりや、友人グループで行くならそれも祭りの一興として、良しとすることもできるが、天宮にあまり大変な思いはさせたくない。

 また、海を挟んで対岸からあがる花火は、迫力こそ劣るが、港の夜景を背景に全容を美しく眺めることができるため悪くないのだ。


 ポートライナーに揺られて海の上を渡る。

 日も沈みライトアップされた観覧車の辺り、モザイク周辺はここから見ても人混みが蠢いているのがわかる。京都、大阪と並んで関西の主要都市にあがる神戸だが、この街は他の二つと比べれば小さな街だ。イベントで同じように人が集中すれば、当然、その混雑の具合は酷いものとなる。


「私、こっちから花火見るの初めてだわ」


 天宮が夜景を眺めながら呟いた。

 自分は一度だけ見に来たことがあるが、埠頭は公園になっていて、ちょっとした出店なんかもやっており、それなりに賑わっていたはずだ。

 そのことを告げると天宮は、ますます楽しみに期待を膨らませたように、夜の海へと視線を注いだ。


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