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第三章 Fallen Angel 19

「十年前殺し損ねた分、たっぷりいたぶってから殺してやる」

 那鬼なきは片手で印を形作り、もう一方の右手を愛美まなみの方に向けてかざした。愛美も一応は、防御結界が張れる。しかし、〈明星あけぼし〉抜きでどこまでできるか、不安でもあった。

――来ルゾ

 愛美は、左手で自分の身体を庇うように身構えた。那鬼の唇が微かに動き、刹那、

「ぐは・・・うっ・・・」

 一瞬の浮遊感の後、愛美の頭の中が真っ白になり、そして次の瞬間目の前が真っ赤に染まった。那鬼の右手が発した衝撃波をまともに浴びた愛美は、ビルの壁に叩きつけられていた。

 砕けたコンクリート片が辺りに散らばり、地面に崩れ落ちた愛美の身体の周囲のアスファルトの上に、血溜りが広がっていく。

「何と言うことを・・・」

 目の前の出来事が信じられず、紫苑しおんは茫然としたままそう口走った。愛美は、息絶えたかのようにピクリとも動かない。

 紫苑の顔から普段の温和な表情が消え、眉は吊り上がり目には異様な光が宿っていた。怒りの為か、その白い頬が紅潮している。

「他人を平気で傷付ける、あなたのような人間ひとは許せない!」

(紫苑さん・・・? 一体、何を怒って・・・)

 顔を上げた瞬間、全身を貫いた激痛に、愛美は自分の身に何が起こったのかを悟った。

「それで夜久野やくのの末裔を名乗るとは、温いわ。二人まとめてあの世に送ってやる」

 紫苑の色素の薄い髪が、風もないのに巻き上げられる。愛美は全身の痛みも忘れて、目を見張った。紫苑が水平に伸ばした指の先で、電気のようなプラズマが発生している。パリパリと空気が震える音がする。

 那鬼もそれには驚いたようだった。微かに眉を顰めて、紫苑を睨んでいる。それが現れたのは突然だった。紫苑の前に、燐光を発する大きな円が浮かんだのだ。

 大小の円が組み合わさった二重円。その円の内側には、奇妙な図形が散りばめられている。那鬼が両手を組み合わせて印を作った。

「魔法陣?」

 愛美の呟きは、紫苑の声に消された。

「我は汝のまことの名を知る者。我が御名みなにおいて汝を召還す。我が名は・・・」

「やめないか、紫苑」

 その声は静かだったが、抗えない強さを持っていた。紫苑は正気を取り戻したらしく、小さく呻いてその場に膝を折った。寸分の隙もない足取りで、一人の男が近付いてくる。

 目が見えないなんて嘘みたいだ。どうしてここに綾瀬あやせがいるのだろう?

 綾瀬は、いつものように高級なツィードのスーツを着こなし、お洒落な赤いネッカチーフを結んでいた。サングラスは勿論かけたままだ。

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