表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/160

第三章 Fallen Angel 11

 雲でも出てきたのかと思ったが、少女が自分の顔を覗き込んでいるのだった。目を開いた大和やまとに、少女は驚いたようだが、濡れたハンカチを差し出してくれた。

「良かったら、使って下さい」

 大和が手を出してそれを受け取った時に、少女の指に微かに触れた。少女が驚いたように腕を引っ込める。大和は切れた唇の端に、濡れたハンカチを押し当て痛ぅと呻いた。

「彼の拳は効いたよ。目が覚めたような気分だ」

 その言葉に少女は、大和の側に膝を折ると、地面に額がこすれるほど深く頭を下げた。

「ごめんなさい。私の所為です。私さえいなかったら彼女、あんな目に合わなくて済んだのに」

 少女は、小さく肩を震わせている。泣いているのだろうか。大和は呻きながら身体を起こすと、少しためらった後少女の肩に手を触れた。ビクリと少女が顔を上げる。

 泣いてはいなかった。唇を歪めて、泣くのを必死で我慢している顔だった。

「僕を憎んでるんでしょう。君の家族を奪ったから」

 少女は頷こうとしたが、涙が溢れそうになったらしく、ええと答えるだけにとどめた。

「とても憎いわ。あなた達さえ現れなければ、私は近藤愛美こんどうまなみとして、平凡と言う幸せな人生を送れた筈だもの」

 小さな一戸建ての気持ちのいい家。仕事一徹の生真面目だが、家族を心から愛している父親と、口うるさくも主婦業に専念し、子供の成長を楽しみにしている母親。

 そんな中で伸び伸びと育ち、思春期にありがちな親への反発を持ちながら、守られていることを理解している子供達。

 ありきたりで、平凡な日常の繰り返し。波風も、平凡な日常の範囲を越えることはない。平凡な幸せ・・・。

 大和の平凡な日々は、両親を失った七才のあの日に終わりを告げた。

「だからと言って、あなた達を殺しちゃ駄目なのよ。そんなことしたら、また繰り返しだわ。憎しみで憎しみを生むなんて馬鹿みたい。それなのに、私何も分かってなかった。人の命を奪うことがどんなことか、人を憎むことがどんなことか・・・」

 愛美は自分が嫌になる。

(私、十年前に夜久野やくのの一族とともに滅べば良かったのかな)

 夜久野真名やくのまなの頬を涙が伝ったが、少女はカーディガンの袖で拭うと、怒ったような顔で頭を反らした。気の強いところが瑞穂みずほに似ていると大和は思う。

「もし、人生をやり直すことができるなら・・・。君とはもっと別の形で出会いたかった。彼が言った真実を、那鬼なき様に確かめてみるよ」

 大和は、ふらつきながら身体を起こした。夜久野真名も立ち上がると、大和の腕を支えてくれた。無言だったが、少女の瞳には気遣いが溢れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ