第三章 Fallen Angel 12
『あの子は、何と言われようと私達の娘だ』
『お姉ちゃんを、悪く言うな!』
大和が殺めた少女の家族。大和だって何も感じなかった訳ではない。憎しみが生み出すものなど何もないことも、人の命を奪うことの重さも知っている。それでも、復讐せずにいられなかった。
大和と瑞穂の未来を変えた夜久野の人間に!
もしあの少年が言った通り、彼女には何の関係もないとしたら・・・? 大和の犯した罪は、決して償うことはできないだろう。いや、違う。
(那鬼様は、僕達兄妹に本当によくして下さってきた。利用されてる筈がない)
「俺に、何を確かめるって?」
大和はハッと顔色を変えて、声のした方を見た。
「那鬼様」
那鬼。
東大寺が言っていた、神坂兄妹を利用していると言う人間か?
校舎の壁にもたれるようにして、一人の男が立っていた。男は、二十代の後半ぐらいだろう。その男は背広にネクタイをきっちりと締めていて、まっとうなサラリーマンのようだった。愛美が大和の顔を窺うと、彼は顔を強張らせていた。
「那鬼様、お聞かせ下さい。我ら兄妹の育ての親を、那鬼様が殺めたと言うのは真実にございますか」
遠すぎて男の表情は伺えない。だが、男は狼狽した様子ではなかった。静かな、そして棘のある声が響く。
「誰に聞いた?」
それはまるで、大和の問いを肯定しているかのようだった。
「そんな筈ありませんよね。那鬼様が僕達を利用してるなんてこと、ある訳ないですよね」
大和は必死の形相で那鬼にすがる。愛美は突然大和がとても哀れだと感じた。藁をも掴む思い。大和にとっては那鬼と言う男が、最後の砦なのだろう。那鬼は僅かに愛美の方に顔を向けた。
「そう言うことか。ネタが割れているなら仕方がない。両親が死んだのも、自分の所為だと知った気分はどうだ?」
含み笑いを洩らす那鬼に、愛美は嫌悪感を覚えた。大和が、愕然とした顔をして膝を折る。肩を貸していた愛美も、つられて座り込む。
「どうして・・・」
そう呟いた大和の声は震えていた。信じていたものが、音を立てて崩れ落ちる瞬間。人はただ愕然として、それを否定して欲しいと願うだけだ。
「瑞穂はどうした?」
那鬼は、大和の精神状態にもお構いなしでそう聞いた。大和は俯いたまま、瑞穂は病院に運ばれたが助からないかも知れないと言った。那鬼はそうかと相槌を打ち、冷たく言い放った。
「ちょうど良かった。死んでくれると手間が省ける。あの娘の身体にも飽きてきたところだ」




