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第二章 March of Ghost 36

 愛美まなみの脳裏に、死んだ父と母、弟のつよしと優子・クラスメイト達の顔が浮かんでは消えた。

 瑞穂みずほと、大和やまとに操られていた父が言ったではないか、愛美の所為だと。そして山犬神の右近うこん左近さこんには、全ては序の口だと。

 そして、それが闇に生きる陰陽師の運命だとも・・・。

(これ以上、私の目の前で誰も死んで欲しくない。誰も死なせはしない)

(私が夜久野やくのの家に生まれた所為ならば、その運命を覆すほどの強さが欲しい。私の所為で誰かが死ぬのならば、その人を守れるだけの力を下さい)

 強く願った愛美の手の中に、白木の鞘に収まった〈明星あけぼし〉が握られていた。肌身離さず持っておけと右近に忠告されて以来、愛美は小刀を通学鞄の底に忍ばせていた。愛美は今それを出した覚えはなかったから、〈明星〉が愛美の心に感応したに違いない。

(私は、夜久野真名だわ)

 ビルとビルの隙間に潜む闇が、ざわざわと騒ぐ。愛美は〈明星〉を強く握り直した。

(闘える)

 愛美は直感的にそう感じていた。

  *

 紅梅の芳醇な香りが、名残雪のちらつく中で、強く匂い立っていた。

 足袋に草履と言う格好も、小児から慣れ親しんだものだけに、寒風吹きすさぶ中でも大して苦にはならない。白装束に身を包んだあきらは、少し先を歩いていた兄に走り寄った。

『我ら上月こうづきが滅ぶと言うのですかっ!』

 晃の声が大きいと、兄が嗜める。

『託宣はそう告げた。お前も先から言っていたではないか。陰陽師の時代はとうに終わったと』

『しかし、それでは・・・』

 言うべき言葉が見つからず、晃は口ごもった。

『上月、夜久野のどちらが犠牲になってどちらかが残るよりも、共に滅びるのが理に適っていると私も思う』

 兄は決して振り返らない。晃は取り残されそうな不安を覚え、兄の袂を掴んだ。

『もし夜久野が滅べば、上月は在続するのですね』

 晃の声色が変わったことに、兄はやはり気付かなかった。袂を引かれたことにも気付かぬ素振りで、相変わらず飛び石の敷かれた庭を、母家へと向かって歩いている。

 兄は、決して晃を見ない。

『夜久野が滅べばな』

 晃は立ち止まり、掴んでいた兄の袂から手を放した。兄はそのまま歩いて行ってしまう。晃はその場に立ち尽くしたまま、静かに拳を握っていた。

(夜久野が滅べば・・・)

  *

 那鬼は、寝覚めの悪さを振り払うかのように、ベッドから下りるとキッチンで水道の蛇口に直接口をつけて水を飲んだ。

 寝覚めの水は身体の中を浄化し、悪夢を忘れさせてくれるような気がするが、今の那鬼の胃の中に鉛でも入れられたかのような不快感を、消すことはできなかった。

 那鬼が毎夜見るのは、十年前の過去にまつわる夢ばかりだった。彼に悪夢を運んでくる憎き鴉は、ベランダか街路樹に潜んでいるのだろう。

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