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第一話 卒業の日
「やっぱり、ここの風は気持ちいいなぁ……」
風を肌に感じながら、境直人は別れ行く仲間たちを屋上から眺めた。
今日は3月9日。中学生の境直人は卒業を迎えた。卒業生は皆あっさりと帰っていく。だが直人は三年間過ごしてきた学校で一番落ち着く場所に来ていた。
それが、屋上だった。気持ちよい風を直接感じることが出来る。
「麻衣と優子は何処いるんだろ?」
二人の幼馴染を脳裏に思い浮かべながら直人はフェンスに背中を預けた。
―泣いて別れるより、笑って別れよう。
さっきはあんなこと言ったけど、実際いつでも会えるんだよな。
中学校の美術室。その美術室という名の空間に二人の少女がいた。二人は並んで机に乗り出し、傍らには卒業証書が置かれている。
「それにしてもすごいよね。私たちの幼馴染がいまやTVで見る日はないっていうぐらいの大人気アイドルになっちゃったんだから」
「そうだよね。なんか実感ない」
二人の少女は幼馴染の話題に華を咲かせていた。
1人の少年と12の少女。その3人を軸に、物語が動き出す。