エピローグ・答え合わせをしてください
嘉門君改め尚悟君と両想いになってからさらに1年。告白のきっかけになった恋愛映画が公開された。
ほんの1年前は『殺戮人形』の異名を取っていた尚悟君の初の恋愛ものは『嘉門の色気がヤバい』『進化が止まらない』と大評判だ。
映画の宣伝のために放映された街頭インタビューでも
「嘉門となら道ならぬ恋でも落ちちゃうよね! あの切なげな目で「あなたが欲しい」って懇願されたら、秒で身を捧げるわ!」
「むしろ捧げたい!」とファンは大興奮だ。
以前の尚悟君は世界3位の美男でありながら、意外と『恋人にしたい』とか『抱かれたい芸能人』的なランキングはトップじゃなかった。SNSでの露出が増えた今も、世間にはミステリアスなイメージを持たれているので『恋人にしたい』は3位だけど、映画公開後の最新の調査では見事に『抱かれたいランキング1位』に躍り出た。
そのくらい尚悟君の恋愛の演技は素晴らしかったのだけど、実際に彼と交際中の私は、なんだか恥ずかしくて直視できない。
久しぶりに2人の休日が重なった日。私の部屋で、ソファに並んで腰かけながら尚悟君にそんな話をすると
「俺も少し恥ずかしいです。ああいう演技をする時は、いつも朝日さんのことを想いながらしているので。演技じゃなくて本気の欲情を、人に見せているようなものですから」
恥ずかしいと言いながら、ムードたっぷりに私の髪を撫でる尚悟君に
「しょ、尚悟君。さっそくお色気がヤバいです」
もう付き合ってから1年なので、人並みに色んな経験をさせてもらった。お互いに忙しい割には少なくない回数をさせてもらっていると思うけど、私は付き合う前よりも尚悟君にドキドキしてしまって、未だにこうして狼狽えてしまう。
一方の尚悟君は、慣れや無感覚とは違うけど
「だって休みが合うの、久しぶりですし。仕事は以前より手応えが出て来て楽しいけど、朝日さんに触れたくて死にそうでした」
意外と素直な尚悟君には照れとかはあまり無いようで、大きな体で私を抱きしめると耳に唇を寄せて
「もうベッドに行きませんか? 早く朝日さんが欲しいです……」
「ふぇ……」
『あの切なげな目で「あなたが欲しい』と言われたら秒で身を捧げる』とファンに言わしめた禁術を私に使って来る。いや、いいんだけど。嬉しいんだけど。ときめきの分だけ心臓に重大なダメージがある。
尚悟君に懇願されたら秒で身を捧げてしまいそうなのは私も同じだけど
「ご、ゴメン。でもこの番組は絶対に見たい。尚悟君がこの番組に出るのを楽しみにしていたから」
「録画して後で見るとか……」
「録画はすでにしているよ! でも尚悟君の情報を皆より後に知るのは嫌だから、なるべくリアルタイムで見たいの!」
尚悟君の1ファンとして他の子たちに後れを取りたくない。本命の余裕とか全く無い。そんな私に、尚悟君は嬉しそうに目を細めて
「じゃあ、もう少しだけ我慢します」
その代わり折衷案として尚悟君に抱っこされながら見ることになった。意味深なムードを出されるとドキドキしてしまうけど、こういう触れ合いはただ嬉しくて温かくて好きだ。世界一贅沢なテレビタイムだなと思いながら、楽しみにしていた番組がスタートする。
それは当たると評判の占い番組で、芸能人やアスリートだけでなく時に一般の人も占う。尚悟君は今回、公開中の映画の宣伝のために呼ばれたのだった。
この番組の占い師さんは本当に当たるので、尚悟君の性格や人生について何を言われるのか楽しみだ。
けれど占い師さんが最も言及したのは、尚悟君の性格や才能ではなく
『エロスの気がすごい』
その一言に私はギクッとした。だけど先生の占いは止まらず
『不特定多数じゃなくて、本命の子に全集中する感じ。こりゃ嘉門君と付き合う子、大変だ』
面白そうに言うと、さらに続けて
『でもプロ並みに上手いから、どんな女でも骨抜きにできるよ。キスも上手いって出ている。キスだけで相手トロトロでしょ?』
ちょうど恋愛映画の宣伝で出ているのだし、最近の尚悟君は「色気がヤバい」と評判だ。だから視聴者サービスでその方面を掘り下げてくれたのだろうけど、実際に尚悟君と付き合っている私は気まずさが半端無かった。
当たっていなかったらいいんだけど、心当たりしか無いから恥ずかしい……。
尚悟君に抱っこされながらテレビを消すこともできず、恥ずかしさに悶えていると、先生は最後に尚悟君の対人関係について
『滅多に人と打ち解けないけど、その分特別な人は本当に特別だから。嘉門君から別れたり裏切ったりすることはない。何があっても護ってくれる』
広く付き合うタイプでは無いけど、薄情なわけではなく、むしろ誠実な人だと言ってくれた。
私は先生の言葉がとても嬉しくて
「先生すごいね。本当に当たる占い師だね」
「当たっていると思っていいんですか?」
自分のことなのに自覚が無いのかなと尚悟君を振り返ると
「プロ並みに上手いとか、キスだけでトロトロとか、当たっていると思っていいんですか?」
とんでもない質問をされた私は真っ赤になって
「ひや、だってそれはその、言われなくても分かるんじゃ?」
同じく恋愛初心者同士なのに前にやったホラーゲームと同様、あっという間にコツを掴んだ尚悟君と違って、こっちは終始たじたじだった。
けれど尚悟君は、美しい紫の瞳でジッと私を見つめて
「思い違いということもありますから、占いが当たっているのか聞いてみたいです」
「キスどころか、見つめられるだけでトロトロです……」
「じゃあ、良かったです。あの先生が本当に当たるなら」
尚悟君は嬉しそうに私を抱きしめると
「放送ではカットされましたけど、先生、俺の恋愛についても占ってくれて。結婚するなら、今付き合っている相手がいいって。その人以外には、そもそもその気になれないだろうって」
「えっ? ほ、本当に?」
彼は私の問いに笑顔で頷きながら
「俺は占いについては半信半疑ですけど、その部分だけは当たっていると思いました。俺も結婚するなら絶対に、今付き合っている人がいいので」
髪に額に頬にと落とされた口づけは、やがて唇に触れた。一度で済むかと思いきや、すぐに深くなる。当たる占い師お墨付きのキスに、身も心もトロトロにされている横で番組が続く。
『これから嘉門君は、日本だけじゃなく世界で活躍する俳優になるよ。30歳までには海外の大きな賞を受賞して、ご両親を越える役者になるね』
最後までご覧くださり、ありがとうございました。
連載中にいただいたブクマや評価もとても嬉しかったです。
こちらのお話はこれで終わりですが、『華麗なるサファイアは悪役令嬢の汚名を着ない』という短編があります。悪役令嬢ものと見せかけて、主人公が幼い頃からの初恋を叶える、ほのぼのピュアピュア恋愛です。興味のある方は、そちらもご覧いただけましたら幸いです。




