1話「魔力持ちですが、婚約者に嫌われています」
「ローゼマリンさん、素晴らしき魔力を持つ貴女を我が家にお迎えできて光栄ですぞ」
思えば、最初からずっと、国王は温かく接してくれていた。
「いえ……。でも、本当に良いのでしょうか? 私などで」
「ああそれはもうもちろん! 息子にもきちんと伝えておりますよ、貴女は偉大なる魔法使いだと」
「ありがとうございます」
「では、息子と仲良くしてやってくだされ! よろしくお願いしますぞ」
そう、国王は、私が王家に嫁ぐことを嬉しく思っていたのだ。
でも当事者である王子ルミッセルはというと――。
「なんだ、お前が婚約者か? ちんちくりんだな」
一回目に対面した時から感じが悪くて。
「初めまして……ローゼマリン・ドミトラスと申します」
「お前、本当に魔法が使えるのか? それも凄い魔法? ああ、呆れる、嘘まる出しじゃないか」
挨拶をしても、冷ややかな視線を向けられるだけ。
彼には人の心なんていうものはなさそうで。
「嘘ではありません」
「はぁ? 馬鹿か? 笑わせる女だな。まぁいい、ならここでやってみせろよな! やってみせられたなら信じてやってもいい」
「私が魔法を使えるというのは事実です。ただ……少々威力がありすぎるので軽い気持ちでは使えません」
「ほら嘘だ!」
彼は私の心など少しも気にかけず言いたいことばかり言う。
「どうせ、嘘を言って父に取り入ったのだろう? ま、我が父は少々お馬鹿なところがあるからな、嘘でも信じたかもな。けどな! 俺は騙されない! 言っておくが、俺はそこまで馬鹿じゃない」
そして。
「ま、いいさ。いずれ捨ててやる」
初対面にしてそんなことを吐き捨てるように言ったのだった。
「ローゼマリン様、あの後一度もルミッセル王子に会ってもらえていないんですって」
「酷いわね、ルミッセル王子」
「そんな酷いことをするなら最初に断れば良かったのにねぇ」
私は彼との婚約を機に王城に住むようになったけれど、ずっと放置されていた。それこそ、侍女らが気の毒がってくれるほどに。私は存在のない存在としてそこに放置され続けていたのだ。
一日のほとんどの時間を自室で過ごした。
することなんて特になくて。
それで、仕方なく、鏡の前で銀髪をくしでとかしたりして時間を潰していたのだ。
そんな時ルミッセルが何をしていたのかというと。
彼はずっと愛している女性と共にいちゃいちゃしていた。
ルミッセルは元侍女だという女性カサブランカを愛していて、たびたびその女性を自室へ呼んでいるのだとか。で、いちゃつくそうなのだが、そういった時には見張りの者さえ部屋から離れるように言われるほどらしい。よほど中でのことを知られたくないのだろう。
「カサブランカ、また入っていったわよ!」
「ええ……ないわー……」
「ローゼマリン様の方がお美しいのに、やっぱりあの女がいいのねぇ」
廊下を歩けば、すぐに噂話が聞こえてくる。
それはいつものことだ。
もはや日常。
そういったことがない方が違和感があるほど。
それにしても、婚約者がいる身でここまで豪快に他の女を連れ込み続けるとは――ルミッセルは少々変わった人だと思う。