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4:ヒュブリス族

「私の名前はサルサ。ヒュブリス族のサルサだ。観光客、お前の名は?」


 ラッコ男ことサルサの呼吸が落ち着くまで待ち、落ち着いたサルサが手錠を外しながら自己紹介をした。


「俺の名前はリヴェンだよ。そしてこっちの二人は」


「自分でします。私はこの方のお供で弟子のベヨネッタです」


「あたしはリイリ! よろしくね」


 弟子一号と二号も名前を名乗る。偽名じゃないよ。ちゃんとした本名だよ。俺がただ弟子一号と二号と読んでいるだけで、二人共ベヨネッタ・キャスタインと、リイリ・グラベル・イリヤ・デブレ・メラディシアンとの名前がある。うちの教会では、内部では本名で呼ぶのが厳禁なだけ。だから渾名で読んでいるのだ。


「リヴェン? リヴェン・ゾディアックか?」


「その名前を頂戴しただけのしがない男さ。神様が現実にいるわけないでしょ」


 半笑いで馬鹿にしてやると、サルサは眉を顰めた。実際にリヴェン・ゾディアックだけど、本名を名乗ったりすると、ややこしいことになる。今はややこしい事になっても徳が無いので、そういう体にしておく。


「確かに、異宗教の神がここを訪れることもないか」


 異宗教の神。その言葉に弟子一号と弟子二号も過敏に反応してしまう。ゴルゾーラ教はあくまで噂の宗教。その目で見聞きするまで信じるなと教えているので、今、この地には俺達の宗教を認知した上で、別の宗教が存在することが確定された。ま、俺は顔には出さないけどね。


 一応、後ろの二人の表情をさりげなく俺の身体で隠しておいてやる。サルサに感づかれていなければいいが。


 サルサの後を着いて行き、ようやく集落の本当の出入り口へと到着した。柵の奥にはアーチがあって、そのアーチの上にはラッコが逆さ吊りで吊るされていた。それを見て可愛い物好きな弟子二人が口を尖らせていた。そうそう、この顔が見たかったの。


「これは信仰と信頼の証だ。我々ヒュブリス族は猟海神ジィブン様を崇めている。ジィブン様は海獺の化身であらされて、我々の身を守る為に身を捧げてくださった。だからこうして、掲げている」


 サルサは弟子達の表情を見て察して、説明してくれた。


「どうして逆さまなの?」


 純粋無垢な弟子一号の質問にもサルサは嫌な顔せずに返す。


「ジィブン様はラッコの化身であるが、頭と尻尾が逆にあるのだ。この吊るされているのは、ジィブン様に選ばれたラッコであるからして、こうして吊るされている」


 自分たちの平和と安全の為の生贄の象徴ってことね。


「そうなんだぁ」


 憐憫な目線でラッコを見つめる弟子一号。お人好しだね。


「それで、どこへ案内してくれるのかな?」


「今から長の家に行く。私の許可は得たが、長の許可が無ければ、ここに滞在は許されない」


 小さい集落だから出入国管理と在留管理が別なのかな。俺も自分の意思では決定できるけど、出国するには許可がいるからな。神様なのに、事実上でも机上でも神様なのにだよ。変な世の中だ。


 外から見た通りに幾つもテントがあって、そのテント内から警戒心まるだしの視線が肌に刺さる。いつものことだけど、外からの人間はあんまり歓迎されないよね。俺みたいにニコニコしている人間はとっつきやすいと思うんだけどな。


 とりあえずテントの中から顔を覗かせている子供に手を振ると、手を振り返してくれた。


「長、サルサだ。認めた観光客を通したい」


 一際大きなテントまで辿り着くと、サルサは足を止めて声を張って、テントに向かって叫んだ。


「はいりんさい」


 逆に声に張りの無いほんわりとした声が返ってきた。その入室許可の声に頷いた後に、サルサは俺達に目線で、着いてこいと、合図して先にテントに入って、入り口の垂れ幕を持って、俺達を中に招き入れてくれた。紳士だ。


 テントの中は見た目通りで程よく広く、壁にはラッコの毛皮や、伝統的な網人形や、衣装箪笥が置かれた温かい空間だった。テントの真ん中に囲炉裏があり、囲炉裏の奥に好々爺のような人物が座っていた。


「儂はヒュブリス族の長、ハウリ。そちらは?」


「リヴェンだよ」


「ベヨネッタです」


「リイリだよ」


 自己紹介を互いに終えると、長ハウリの品定めのような目線が俺達を順番に見る。


「うむ。滞在してもいいっちゃよ。ちょっと物騒な時期だけど、羽伸ばしてっちゃ」


 ニカリと歯を見せて笑って軽く言った。検問の凄まじさの割に、見ただけで滞在が許されるのか。洗礼がそれだけ重きを置いていると考えておこう。


「では」


 サルサはそう言ってから、俺達を外へ出るように目線で促した。本当に顔合わせだけなんだ。何か郷土の食べ物でも振舞ってくれるのかと期待していたのに。


「俺たち以外に観光客っているのかな?」


「今はいないな」


「やっぱり観光客ってそんなに来ないもの?」


「前回来たのが四ヵ月前か。考古学者と民俗学者の夫婦だったな」


「ふぅん。研究熱心な人達だったんだね」


「そうだな」


 サルサは淡白に返すだけだった。


「ここが客人用のテントだ。集落内ならばどこを見て貰っても構わない。だが私の許可なく集落の外へ出ることは許さない。出るときは私と共にだ」


 普通のテントよりもちょっと質素なテントに案内された。口ぶりからするに、普段から観光客なんて来ないのに、張ってあるってことは、観光客以外に客と呼べる者が来るのだろう。


「先程、ハウリさんが物騒と仰っていましたが、どういう意味でしょうか?」


 あからさまな釣り得で、聞いたら後戻りできなくなりそうなので、聞かないでおいたのにリスクを極限までに減らしたい性格の弟子二号はサルサに訊ねてしまう。


「現在私達ヒュブリス族は戦争中だ」


「え!? 戦争してるの!」


 戦争との単語を聞いて不安を顔に出す弟子一号。


「ちょっとしたいざこざを戦争と読んでいるだけだ。相手も攻め込んでこないし、戦う時は集落の外でと決まっているから安心しろ」


 安心しろと言われても、戦う時があるのだし、俺達も駆り出される可能性が無きにしもあらずだ。まま、俺だけが戦闘に参加するならば何ら問題はないね。最低でも神官から説教を八時間ほどされるだけ。


「じゃあ安心だ」


「お、おう」


 弟子一号の変わり身の早さに言った本人であるサルサが戸惑っていた。弟子一号は何でも率直に信じちゃう可愛い子だから仕方ないね。


「では用がある時は私に申し付けてくれ」


「あ、ちょっと待って。ご飯はどうすればいい?」


「私のお・・・」


 と、話しているとサルサは言葉を止めて、集落の出入り口の方を向いた。サルサが気づくと同時に入口の方で魔力反応が増大した。サルサもそれを理解しているために、ため息交じりに言う。


「またあいつか・・・お前達はここで待っていろ」


 そう言い残して、俺達を残し、出入り口の方へと急ぎ足と怒り肩で行ってしまう。


「・・・師匠、楽しそうな顔していますよ」


「そう? 苦虫食べた顔してるよ」


「行っちゃだめだよ。サルサさんに言われたでしょ。めっ、だよ」


「リーの言う通りですよ」


 二人に止められるも、俺の心はもうサルサに奪われていた。だって面白い事の気配しかしないんだもの。行くっきゃないでしょ。


「俺達は観光に来たんだよ。地元のイベントがあるのに、黙ってテントの中で過ごすなんて無粋すぎるでしょ。それはこの地に対して失礼だよ。うん。失礼だ。と言うわけで行ってくるね」


「あっ! もう! 馬鹿師匠!」


 俺を制止させようと腕を掴もうとした弟子二号から逃げるように、サルサの後を追う。




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騙されたと思って試してみては如何でしょうか・・・何卒宜しくお願い致します。


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