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ミリカの受難(5)

「ふうー」


 決戦を明日に控え、陽も落ちた。もう時間の猶予はなく、新たに何か開拓するということは出来ない。

 いや、新たにというと何か数日で得たものがあったような言い草だ。


「遊び尽くした」


 隣で満足げな表情をしたのはエルゥ。

 シトラが情報を得るため奔走し、レナとミリカは修行の日々。

 俺とエルゥはというと、特に得たものは無かった。何の成果も得ず帰還し、他が帰っていないのを確認して宿の前で待っているところだ。


「お、あの情けない姿は」


 エルゥが遠くの影に気が付き、さり気なく馬鹿にする。

 帰ってきたのはいつも通りボロボロのミリカ。

 レナに肩を借り、疲弊しきった顔で近づいて来る。

 その様は冒険者を始めたてのエルゥのようだ。自分にも似たような時期があったというのに、酷い言い草である。

 まぁ普段から訓練を重ねているであろう騎士と受付嬢といった観点で見れば、ミリカの地の体力の低さはエルゥの言う通り、情けないかもしれない。


「へへへ、やってやりましたよ」


 ミリカはボロボロにも関わらずたしかな手応えを感じたのか、親指を立てる。


「Bランクのダンジョンをなんとか攻略、といったところ。戦闘力には問題ないけど、とにかく体力が無いね。

 頭の方は思ったより悪くない。最初はからっきしだけど、順応能力があるから徐々にって感じだね」


 多少褒められてえへんっ、と胸を張るミリカ。


「これからの私達は最低でもAランク以上のダンジョンを中心に回っていくと思うけど、どう? 連れていけそう?」


 エルゥの質問に、レナは「うーーーーん」と長い唸りの後、そうだなぁと投げ捨てるように言って。


「居ても居なくても、そんなに」


 レナは言い切りはしなかったが、充分に伝わる。

 つまるところ要らない。居ても居なくても変わらないというのはそういうことである。

 それを受けてミリカは口を開けて唖然とする。自分は受け入れてもらえるものだと思っていたのか、「だ、ダンジョンは攻略したのに!」と抗議とも取れる言葉を口にする。


 ただ、エルゥは判断に迷っているのか腕を組んで首を捻る。

 居ても居なくてもいいという言葉をポジティブに受け止めれば、足は引っ張らないということ。

 つまり、最低限の自衛が出来るなら回復魔法が使える(らしい)分連れていく価値が生まれる。


「明日の気分が良ければまあ、仕方無しに入れてあげる」


 ミリカはその言葉に「がーん!」と口に出してショックを表した。

 ショックを受けるのも仕方がない。自分の未来がその日の“気分”で決まるなど、あまりに可哀想だ。


 とは思いつつ、実際必要か否かと言われると俺も首を傾げるので、やはり彼女の気分に任せて問題ないだろう。

 照れ屋のエルゥのことだから一日判断する時間をくれ、と言えなかったのかもしれないし。


「ん?」


 レナに肩を借りながらぷるぷると震えるミリカ。

 怪訝な視線を向けるレナから離れ、勢いよくエルゥを指差す。


「見てもいない貴女に私が何が分かると言うのです! きっちり努力をして確かな上積みを得てきたのです! 共にしたレナさんならともかくご飯を食べて寝ての貴女にそんな辛辣な言葉を投げかけられるいわれはありません!」


 怒りが爆発。怒涛の反論を繰り出すミリカに、エルゥの視線は俺に。

 肩をすくめ、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 いや、馬鹿にしているがごもっともだと思います。

 食っちゃ寝、食っちゃ寝のエルゥに「気分で決めるわ」なんて言われたら誰だって怒る。


 とはいえ、彼女も(多分)陰で努力をしている。

 決して何もしていないわけでは(多分)ないと思うのだが、はたから見れば口だけの番長という印象が拭えないのだろう。


「私がミリカの努力の背景を知っているとしても同じことを言うと思うけど。頑張ったって実を結ばなきゃ意味が無いでしょ。

 それに、数日頑張っただけで威張られても困る。成長があったとしてもレナに首を傾げられた時点で、ダメ。

 怒る前に怠惰な過去の自分を省みなさい。むしろシトラの側にいて、どうしてダメな子になってしまったのかと私は小一時間問い正したいよ」


 ただ、反論したところで上回る正論をぶつけてくるのがエルゥである。

 ミリカは歯軋りをしながら、やり場のない怒りから体を震わせる。

 決闘の時に感じたミリカの威圧感。あれは決して嘘ではなかったし、何か持っているものはあると思うのだが……。

 彼女の言う通り、レナが首を傾げた時点で俺も要らないと同意する気持ちだ。


「け、結果を出しゃあいいんでしょう!」


 それでもミリカの怒りは止まらない。


「例えば貴女と戦って勝ったりすれば、力を示すことになるのでは!?」


 びしいっ、と指を差すミリカ。


「いや、止めておいた方がいい。これでも戦闘に関しては天才的だぞ」


「これでもって」


 制止する俺の言葉に含みを感じたのか、睨んでくるエルゥ。


「ま、やってもいいけど私に勝ったところで冒険者として有能かどうかは別の話でしょ」


 冷静なエルゥの分析に、言葉に詰まるミリカ。

 懸念とされていたのは知識や冒険における注意力集中力であって、タイマンにおける強さではない。

 頭に関しては思ったより悪くはないとレナは言ったが、総合的に見て出した結果がうーん、ということなのだから最早逆転の一手は無いだろう。

 と思ったが、エルゥは「だけど」と態度を返す。


「その戦いで何かを示せたのであれば、考えてやらないこともない」


 相変わらず上から目線で放たれるが、それでもミリカは僅かに見えた光明に笑顔を見せる。

 このツンデレに人々は堕とされていくのだと眺めつつ、一人口角を上げる。

 なんだかんだいって優しい奴だ。多分。


「……しかし、シトラが帰ってこないね」


 数分して、レナが辺りをきょろきょろと見渡す。

 既に陽は落ちてきている。何かと手間取っているのだろうか。


「とりあえずご飯、行こうか」


 エルゥの提案に皆が頷く。

 一向に帰って来る気配のないシトラ。明日には決戦を控えているのに、心配だ。

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