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ミリカの受難(2)

「ん……」


 意識が戻り、目を薄く開く。

 ブン、ブン、と何かを振るうような音。あまりにやかましいその音に目を見開くと、そこには素振りを繰り返すレナさんの姿があった。

 ただの素振りだというのに空気の振動がこちらまで伝わってくる。


 一振り一振りが仮想敵へと目掛けているのだろう。様々な角度、体勢で木剣を振っている。

 訓練や戦闘、というよりは一つの芸術。美しい太刀筋に見惚れていると、私の目覚めに気が付いたレナさんは剣を止める。

 

「や、目覚めはどうだい?」


「良好です。今すぐにでも訓練! と言いたいところですが、お腹の空きが……」


「ハッハッハ、腹が減っては戦が出来ないというのはどこでも同じみたいだね。昼食に行こうか」


 昼食、ということはもうお昼らしい。

 訓練できるのは今日と明日だけ、時間が惜しいというのに私はなんて無駄な時間を……。

 そんな後悔に苛まれつつもお腹は減るもので、街に戻って飲食店に入る。


 私もよく通ったザ・街の食堂といった店だ。貴族の出なので幼い頃は家や高級店が多かったが、シトラフィア様が意外にも庶民的な料理を好むので付き添いでくることが多かった。


 味が良いので誰彼問わず人気の店。時間も時間だからか、ほぼ満席。

 唯一の空席に座り、注文を待つ。その間私達は周囲の視線に晒されていた。


 国では私達の立場というのは良いものではない。ラース・ゼーノルトに限らず、彼の一味として扱われている私達は悪役である。

 主に街中で啖呵を切ったエルゥのせいかもしれないが。


「まだ慣れないかい? 悪役は」


「そ、そりゃもちろん。何でレナさんはそこまで平然としていられるんですか」


「ボクは慣れてるからね。没落貴族の出で、しかも女が騎士団の長を務めるってのは国の上層部から見れば目障りなものさ。

 それに、騎士として罪人を斬りに行くのが仕事だし当然たくさんの敵意は浴びてきたよ」


 やはり平然と言う内容では無いのだが、彼女のように強い人間であれば大した障害でなかったのかもしれない。

 私は水を飲みながら笑顔で語るレナさんを眺めつつ、自分の過去を振り返る。


 エルフの国の治安は良い。貧富の差も激しくないし、貴族制度はあるが貴族は高貴な者に相応しい立ち振るまいを常日頃心がけているので、下の者に横柄な態度を取ることもない。

 つまるところ、表面的には平和な国だ。人間達の世界と比べると改めてそれを実感する。


 それでもシトラフィア様が高位同士の付き合いに辟易していたのを見ると同じような面はあるのかもしれないが、私は環境に恵まれたから。

 でも、思い返すとウチの姉は結構裏で愚痴を溢していた気がする。どこの派閥だとか聞くだけでもうんざりしたものだ。


 昔を思い出しつつ、やはり慣れぬ視線にそわそわとする私に、レナさんは優しくはにかむ。


「その内慣れるさ。パーティーリーダーが“アレ”だし、この先パーティーの一員としてやっていくなら悪役を買う機会はたくさんあるだろうからね」


 アレ、というのはエルゥ・グランダーソンのことだろう。

 何故彼女がパーティーの指揮権を握っているのか、というのは私はイマイチまだ分かっていない。

 道中で野盗に出くわした時も馬車でゆっくりしていたし、疲れていない筈なのにいつもマッサージを受けている。


 発言力はずば抜けているが、実力は如何程のものなのか。

 今のところ普通の、ワガママな子供にしか見えない。


 昼食を食べ終わると、私達はダンジョンへ向かう。

 やることは単純、魔物を倒すだけ。


「それじゃ、今日も一人から始めようか」


 レナさんの指示に私は頷くと、剣を抜く。

 ダンジョンはBランクの認定を受けている場所だが、油断は出来ない。

 浅い階層の魔物でも一般人であれば武器を手にしようが太刀打ちできないものばかりだ。殺傷力も十二分にある。


「甘い! 今のは一撃で仕留められただろう!」


 魔物と戦っていると、後ろから怒号が飛んでくる。

 私の剣は性質上、斬るより突くことがメインだ。

 手数はどうしようもない時に出す攻撃パターンであって、基本は急所への一撃で必殺するべきなのだ。


 なので、一撃で仕留められない場合は怒られる。

 昨日は散々怒られたので拗ねた私が彼女に剣を渡してみたが、私とは違って無駄な動きは見せなかった。

 練度は当然普段から使っている私の方が上のはずだが、動きの中で急所を的確に叩けるかどうかは実戦経験の差らしい。悔しい。


「はぁ……はぁ……! ぜえっ…………くっ、苦しい……!!!」


 一、二階は魔法を使わずに剣のみ。三階は魔法も交えて戦い、何とか踏破。

 このダンジョンは塔のような形状になっており、出る魔物は主にスライム、バット、ガーディアンと呼ばれる機械の魔物といった三つの系統に分かれる。


 スライムは触手を伸ばしてきたり体液を飛ばしてきたりする。体液は酸性のものだったり毒性のものだったりと、いずれも被弾してはならないものだ。

 バット系は噛み付いてきたり、魔法を使ってくる。天井に張り付いてひたすら魔法を飛ばしてくる時は本当に厄介な敵だ。


 そして一番面倒なのはガーディアン系だ。

 威力のある光線などを遠方から放ってくるので他の魔物との交戦中であろうとも油断できない。

 外殻が丈夫で生半可な魔法攻撃も通らないし、生物ではないので心臓となる魔核を確実に射止めなければ止まらない。


 地形としては部屋は多いが、基本的に道幅がある。

 元から明かりがついているので光源の心配はいらないし、動きやすい。

 そんなダンジョンをBランクに押し上げている要因は、間違いなくコイツだろう。鬱陶しいことありゃしない。


「ここからはボクも戦おうか」


 四階でようやくレナさんが剣を抜く。ここまでは個人での戦闘における経験値を蓄えていただけ。

 本題は作戦行動をこなせるか、どうか。昨日は彼女の指示に私の反応が遅れてばかりで、苦戦も苦戦。


 スライムもバットもガーディアンも、そのどれもが放置していると遠距離攻撃をしてくる魔物だ。

 互いに敵の位置の報告をしたり任された範囲の敵を迅速に殲滅することが大事になってくる。


 連携などは訓練でやった筈なのだが……実戦に出たことがない者など所詮知れているのだと思い知らされた。

 魔法書を読んで魔法を使える気になっている奴等と一緒なのである。


「さ、行くよ」


 昨日を思い出して若干不安な私の背中をレナさんは「気を引き締めて」と言って叩いた。

 いけない、こんな弱気では彼等には到底着いていくことはできないだろう。

 気を引き締めて、いざ……!

メンタル壊して執筆に至りませんでした。立て直してきたのでまた書いていきます

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