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港町(3)

「おや、賑わってますね」


 歩いて数分、喧騒が外まで聞こえてくるギルドに到着。

 ただの酔っ払いの賑わいではない。何か祭りでも開催されているような、そんなレベルの賑わいだ。

 先行するシトラがギルドの中を覗くと、何故か中には入らず無言で戻ってくる。

 その表情は珍しく呆れているような気もして。


「エルゥが何かやっていますわ」


 いや、呆れているのだろう。声のトーン、仕草ともにやれやれといった感じだ。

 最早エルゥという単語ひとつでロクでもないことが催されているのは分かる。

 俺はある程度の覚悟を持ってギルドの中を覗いてみると、何やらある場所を中心に輪が作られている。

 人と人の合間から見えるのは積み上げられた皿。それと、目にも止まらぬ速度で食べ続けるエルゥ。


「なんの騒ぎだ?」


「ん? あそこの嬢ちゃんがメニュー表を順に頼んで食べていってるのさ。もう少しで完食だぜ」


 輪の端に居た男に尋ねると、頭が痛くなるような返答をされる。


「それよりアンタ、どこかで見たような……」


 男を無視して輪の中を進むと、そこには妊婦かというぐらいお腹を膨らませたエルゥが居た。

 げっ歯類かと言わんばかりに頬袋はパンパン。大層ご満悦そうな顔で飯を食べているが、俺とシトラの顔を見た瞬間手を止め、困惑したのち……はぐらかすように親指を立てた。

 ぐっ、じゃねえよぐっ、じゃ。


「すまない、止められなかった」


 開口一番謝罪のレナに、俺は首を振る。


「仕方ないよ、俺達でも止められない。シトラが引っ叩けば別だが」


「わ、私だってエルゥが馬鹿みたいに食事を始めたぐらいじゃ引っ叩きませんわ。この憎たらしい顔を見てると叩いてやりたい気持ちはありますが」


 おぉ、怖い怖いと肩を竦めるエルゥ。頬と腹がパンパンの姿も相まってか凄まじい煽り性能となっている。


「おいっ、アレ……〈鉄壁要塞〉のラースだぞ!」


 エルゥが食事を再開したところで観衆の中の一人が声を上げた。


「最近Sランクのダンジョンを一人でクリアしたっていう、あの?」「ってことは周りはラースのパーティーか……」「ら、〈雷鬼姫〉のレナ・ギルフィまで居るぞ! 豪華すぎるだろ!」


 沸き立つ観衆に、俺やレナは戸惑う。

 王都のダンジョンを攻略したのはレナの手腕によって俺、ということで処理されたらしく、どうやら一躍有名人になってしまったらしい。

 元々Sランクパーティーの人間だったし、そこそこの知名度はあったが……〈ボイストン〉まで届いていたとは。


「ぷっ、〈鉄壁要塞〉ですか。随分とセンスの足りない二つ名ですねえ」


 名を聞いて吹き出し、煽ってくるのはミリカ。

 俺が名乗ったわけではないし、センスがない事には同感である。


「ラースはだっさい名前で妥当でしょ。他に何があるの? 〈脳筋狂戦士〉とかにしておく?」


「やめろ」


 〈鉄壁要塞〉を上回る酷さの呼称をエルゥが提案するが、一瞬で否定する。

 とはいえ他に何があるかと言われれば、無い。

 だがゼーノルト家は代々剣に関する二つ名が付くことが多いので、出来れば絡めて欲しいものだ。

 騎士になっていれば別の呼び名もあったかもしれない、と初めて冒険者になったことを後悔する俺だった。


「あの大食いの女の子は〈小さな巨人(リトルオーガ)〉とか、どうだ?」


 ふと、そんな言葉が囁かれる。

 オーガは人型の魔物だ。その背丈はゆうに3mは超え、強靭な肉体を持つ。

 デカいからって大飯食いなわけじゃなかろうが、凄まじいパワーを持っているエルゥにはぴったりの名前かもしれない。

 と、思ったがどうやら一人、賛同していない人物が居るようで。


「わ、私の二つ名は〈火と風の精霊〉とか〈神踏(しんとう)金舞姫(きんぶひめ)〉とかそういった爽やかで可愛らしくて、シャープなものが付くべき。そんなゴツゴツとした名前はノーセンキューなのに……」


 エルゥ本人としてはあまりにも図々しい二つ名が欲しかったようだが、〈小さな巨人(リトルオーガ)〉の呼び名は浸透。

 卓上の料理もあと僅か、ラストスパートといったところで「頑張れ〈小さな巨人(リトルオーガ)〉!」という声が飛んでくる。

 それを皮切りに、〈小さな巨人(リトルオーガ)〉のコールが飛び交う。


 それを受け、納得がいかないと怒りに打ち震えながら完食しきるエルゥ。

 歓声と共に、ガクンと項垂れた。

 それは胃の容量の限界を迎えた疲労からではなく、自分の思惑にそぐわない呼び名が付いたショックから来たものであることは、言うまでもないだろう。


「気にするな、エルゥ。二つ名なんて本人の希望通りにはいかないものだ」


 経験者からの慰め、と肩を叩くとエルゥは俺の手を叩くように払った。


「うるさい〈鉄壁阿呆馬鹿甲斐性なし要塞〉っ!」


 怒声を浴びせ、駆け出してゆくエルゥ。

 切迫した顔で駆けてゆくエルゥを、俺はすぐに追いかけ…………はしない。

 何故ならエルゥの行き先はトイレのマークが描かれた部屋だからだ。

 どうせ漏れそうだっただけだろう、と顔に飛んできた唾を拭きつつ、俺は席に着く。


「さて、バカは放っておいてゆっくり飯でも食うか」


 平静を装って言うが、甲斐性なし要塞という言葉は少し効いている俺であった。

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