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女神テザリーン(2)

「長かった」


「立て込んでな」


 ラースが一枚の紙を抱えて出てくる。

 かかったのは十分ほど。テザリーン様の査定が長引いたのか、なんなのか。


「私もいってくる」


「ん、行ってらっしゃい」


 彼のギフトは気になったが、私もギフトを確認しようと思って中に入る。

 テザリーン様と椅子。一部分だけ派手だが他は落ち着いた基調の部屋になっている。


「ようこそ人の子よ、私はテザリーン──」


「っ!?」


 定型の自己紹介の途中でテザリーン様が静止し、再び“中身”が入ったかのごとく……稼働する。

 その双眸は私を見つめており、引き寄せられるように歩き出す。


「君はラースの新しいパーティーメンバー、エルゥ・グランダーソンだな」


 手すりに頬肘をつき、いつもの機械的な言葉とは違ってまるで、テザリーン様本人が喋っているかのような感触。

 私は驚きのあまり声を失うが、答えねば失礼と思いこくりと頷く。

 するとテザリーン様はにこりと微笑み、自分の太腿をぺちぺちと叩き……私を招く。


「では失礼して」


 テザリーン様の太腿に座ると、優しく抱えるように腹部に手を回してくる。

 豊満な胸に頭を埋め、リラックス。神様の膝の上はとてつもなく気持ちがいい。


「た、躊躇いが一切ないな、君は」


「それが取り柄です」


「うむ、よきことだ」


 頭をよしよしと撫でられるが、ラースのように文句は言えない。

 それに、不思議と心地は良い。ラースの撫でも心地は良いのだが、あれは子供扱いされているので抵抗したくなる。

 テザリーン様には子供扱いされても構わないのだ。年齢的にはまだ子供だし。


「ほら、ギフト・スキルが載った紙だ。良い成長曲線を描いている。ラースのおかげもあるが、君の頑張りは凄まじいものだ」


 ぎゅっと抱きしめられつつ、テザリーン様は私にギフトの記された紙を渡す。


「あの、もしかして分身ではなく本物のテザリーン様ですか?」


「私の意識、思考のままに話していることを本物だと定義するなら本物だろうな」


 テザリーン様に言われ、膝の上に乗るという無礼な態度を取っている重大さに気付いたのもあったが……それより先に感動が勝る。

 口を開けばラース。つまり彼女は、ラースという才覚に期待を抱いているのだろう。

 とすれば私の目付けは間違っていなかったということ。ラースが誇らしいと同時に、自分の眼力も誇らしくなる。


「私から君に伝えたいのは一言、今のまま突っ走ればいい。考えるのは後の二人がやってくれるから、好きなだけ君の武器を生かせばいいさ。“野性”がきっと、君の道を導くだろう」


 ギフト紙に記された〈野性〉という見慣れぬ文字。

 これは私が昨日、ダンジョンに潜った時に時折助けてくれた勘や本能のことを指しているのだろうか。

 私はテザリーン様の助言に力強く頷くと、膝の上を降りた。


「ありがとうございます……!!」


「うむ、日々精進をな」


 私に手を振るテザリーン様に深くお辞儀をし、部屋を後にした。





「シトラも行っておいで」


 扉が開くと出る直前、そして出た後に一礼とらしからぬ礼儀の正しさでエルゥが出てくる。

 彼女も普通の人より長めに居た気はするが、どこか嬉しそうな表情のエルゥと関係するのだろうか。


「はい、それでは少々お待ちを」


 扉を開き、一礼しつつ「失礼します」と口にして部屋に入る。

 入った時点で異質な雰囲気に気がつく。テザリーン様が手すりに頬杖をつき、私を見ている。

 いつも通り凛とした姿ではあるが、私を見て優しく微笑むと手招きした。

 私は過去に二回テザリーン様のもとを訪れたことがあるが、「ようこそ人の子よ、我が名はテザリーン。汝のギフトを教えよう」という定型文から入るものだとばかり思っていた。


「よく来たな、シトラ・アルコット。まあ私の膝に腰掛けたまえよ」


「そっ、そんな無礼は私には!」


「いいから座りたまえ。ラースもエルゥも同じことをした」


「二人も……」


 唐突に出た個人名に狼狽しつつも、それならと私はテザリーン様の太腿にお尻を乗せた。

 遠慮がないエルゥはともかく、ラースさんが同じことをしているというならば良いのだろう。


「君は……独特だな」


「そ、そうでしょうか」


 言われて何がおかしいのか、と頭が混乱する。

 テザリーン様に対面するように座ったのだが……いや、この時点で混乱しているのだろう。普通は背を向けるのかもしれない。

 とはいえ、背を向けるのも失礼だ。あぁ、何が正解なのか分からない。私にはまったく、分からない。


「ま、構わないさ。ではギフト・スキルの記された紙だ」


 いつも通り紙を手渡され、下を覗き込む。

 すると紙よりテザリーン様の高貴な匂いが鼻腔をくすぐる中、私のと同等のビッグサイズの胸が目に入る。

 二つは……いや、四つの胸は張り合うようにくっ付いており、それが私の高揚感を引き出す。


「発情してないで、目を通したまえ」


「しっ……! しししっ、失礼しました!」


 私の思考が読めるのだろう、テザリーン様は少し呆れつつも、それでいてにこやかに私に言った。

 慌ててギフトの記された紙に目を通すが、特段以前と変わっていない。

 ギフトのレベルは若干伸びているが、誤差だろう。


 何が増えているわけでもなく、紙を見て心配になる。

 ラースさんもエルゥも満足気な表情で出てきた。それはテザリーン様の太腿効果なのかもしれないが、おそらく着実な進歩を実感したのだろう。

 私は彼等に追い付けるのだろうか。ラースさんは元より上を言っているが、エルゥには先の戦いで置いていかれたような感覚で、不安に苛まれる。


「それほど心配がらなくてもいい、君はまだ開花していないだけだ。君の持つ能力はラースやエルゥにとって絶対に必要なものだし、君自身役立てることができるものだ」


 心が読めるだけではなく、私の全てを理解しているのだろう。

 有難い言葉を頂き、止めどなく嬉しさに溢れる私。

 しかし、テザリーン様のトーンは急に落ちる。


「しかし、ラースを見て“目的”を達成するために使おうと決めた先見の明は立派だがあまり巻き込んでやるなよ。“それ”は君が解決するべき問題だ」


 見透かしたような言葉に、汗が噴き出る。

 エルゥやラースさんに言ってないことで、二つ大きなことがある。

 一つは私が冒険者になるために国を出てきたわけではないこと、二つは……。


「ま、“それ”も彼にとっても君にとっても良い試練かもしれないな。なんにせよ、いずれやってくる未来より、今の問題だ。彼の決闘のサポートでも考えてやるといい」


 テザリーン様に促され、私は礼をして部屋を出る。

 私の決断の時は、いつか来るのだろう。その時に私の“目的”をラースさんに押し付けるか、私自身が解決するのか。

 なんであれ乗り越えなければならない壁であることは確かだ。


「頑張れよ、王女サマ」


 そう、“エルフの国の第一王女”としての問題を……。

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