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帰省(2)

「怒涛の展開すぎて処理が追いつかない」


 エルゥはあうう、と珍しく狼狽を見せている。

 ギルドの受付嬢はハードなことで有名だが、数多の冒険者を捌いてきた彼女の処理能力を持ってしても次から次へと出てくる濃いエピソードに混乱しているらしい。


「騒がしいと思ったらラース! 帰ってきたのかぁクノヤロー!」


 廊下の奥の方から軽やかな声と足取りでやってくる少女……らしきもの。

 ぴょこんと跳ねたアホ毛に、幼い顔付き。俺と同じ金髪は腰あたりまで伸びており、一見して可憐な少女に見える。

 久々なその姿に、俺は年甲斐もなく嬉しくなって歩み寄ろうとする。

 が、先に出たのは何故かエルゥだった。


「ふむ」


「らっ、ラース! なにこのガールは!?」


 エルゥは不躾というか大胆というか、少女らしきものと背丈を比べて同じぐらいだということを確認すると、俺の側に戻ってくる。


「ラース、今度はわかった。彼女も妹でしょ」


 そう言わんとするエルゥの気持ちは分からんでもなかったが、俺は隣まで歩いてきた少女らしきものの肩に手を置き、紹介をする。


「紹介しよう、俺の母さんだ」


「母だクノヤロー!」


 ちんちくりんの割には膨らんだ胸を張って、母カルアは声を張り上げた。

 母は妹扱いされたことに怒っている様子はなく、なんであれば誇らし気な表情である。ただ、ひたすらにテンションが高いだけなのだ。

 実年齢は御年四〇……一か二のおばちゃんで、俺の歳を考えれば孫が居てもおかしくない年齢。

 もう少し落ち着いて欲しいものだが、これが彼女のアイデンティティなのだろう。


「なるほど」


 衝撃という域を通り過ぎたのか、あるいは衝撃のあまり混乱の中にいるのか。

 エルゥは把握しました、とばかりにうんうん頷くと、一礼した。


「失礼しました。私はラースのパーティーメンバーのエルゥ・グランダーソンです」


「同じくパーティーメンバーのシトラ・アルコットですわ」


 エルゥとシトラが並んで頭を下げると、母さんはにこやかに笑う。


「ご丁寧に有難うございます、こちらこそ息子がお世話になっております……どうぞ、ゆっくりしていってください」


 という社交辞令が交わされ、空腹だということを伝えるとすぐに部屋に案内される。

 帰ってきて母さんの容姿が全く変わっていない驚きや妹が出来ていたという波乱の中、俺としてはエルゥの礼儀正しい姿を見せられることが一番困惑する出来事だった。


「この子は妹とは聞いたが、名は?」


 食事を行うためのみに設けられた部屋に着き、椅子に腰を下ろす。

 すると何故か俺の膝にちょこんと座る妹。

 まだ「勝負勝負!」と言いながら俺の膝の上ではしゃいでいる。

 母のテンションに、父の気質を受け継いでいる感じだ。俺としては非常に面倒というか、天敵というか。


「そっか、ラースは会ってなかったか。

 その子はフィルア。フィルア・ゼーノルト。おめーの代わりに騎士団の次の世代を牽引する有望だぜっ」


 ぐっ! と指を立てる母とフィルア。

 おめーの代わりとは逃げ出した俺に対して非常に効く言葉である。

 それはともかく、父と母の子なのだから戦いの資質はあるだろうが……。

 騎士には向いてない。騎士とは自警団に近く、法のもとに動き、自らを律することができる者が務めるべきだと俺は思うわけだ。


 それが、父のように戦闘狂であったりトラブルの種であったりすれば周りからはみ出してしまう。

 会って数分だがフィルアは父に似ていると思うので、騎士には向いていないと思うわけだ。

 いや、父は長年騎士として勤めているワケではあるのだが。


 ちなみに、俺は父にも母にも性格的には似ていないが、生憎全盛期の暴れ回る父と母を見て育ってしまったせいで達観してしまったからだ。

 周りの友達もヴァインやアンとかだったし、必然的にストッパーにならざるを得なかったのだ。


 ま、だからといって騎士向きの性格と言われればそうでは無かったから今こうして冒険者をしている。

 俺も自分を何かに縛り付けるのが性に合わず、逃げ出した一面もあるので人のことを強く言えはしない立場ではある。


「ラースが帰ってくるのを楽しみにしてたんだ、ご飯食べ終えたら勝負に付き合ってやってくれよっ」


「ラース、勝負だっ!」


 母に勝負を促されて俺は少し困るが、膝の上ではしゃぐ妹の姿が妙に可愛らしく見えて「分かった」と答えた。

 父の娘だと思うと戦闘狂具合に辟易するが、俺の妹だと思うと許せてしまう。


「ただ、一つ約束してくれ。勝負して俺が勝ったら名前じゃなく……そうだな、お兄ちゃんとか呼んでくれ」


「それは気持ち悪い」


 俺が条件を提示するとエルゥのツッコミが入り。


「ロリコンか?」


 母譲りの口の悪さでフィルアに罵られる。

 これは俺が悪いのだろうか、と思いつつ母とシトラに視線を向けてみると二人はにこにこと、いやニタニタと笑っている。


「ま、今の言い方はちょっと気持ちわりーわ」


 母に追い打ちをかけられ、俺は肩を落とした。

 しばらくして料理が運ばれてくると、妹を膝の上から退けて食事を始める。

 母も妹も食事はまだだったようで、父はまだ帰ってきていないがやや早めの晩食ということで食事は始まる。

 母自身も家事は出来るが、基本的にはお手伝いさんに任せている。


 懐かしの味に、俺は実家に帰ってきたことを改めて再確認した。

 この味、コック長のフレスカーもまだ残っているのだろう。

 彼も父の稽古相手の一人で、また猛者である。

 この家の使用人は基本的に戦える人間しか居ないので、下手な軍隊より凶悪な組織だ。国に問題視されないのが不思議なぐらいだが、家の長が国を守る立場だからな。


「ラース! 庭に行くぞっ!」


 いち早く食べ終えたフィルアが椅子から飛び上がると、俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

 俺はまだ食事中なのだが、小さな体に似合わぬ馬鹿力で椅子から下ろされてしまう。


「ラース!」


 そのまま連れ去られそうなその時、エルゥに呼び止められる。

 パーティーリーダーであるエルゥ。彼女は冒険者としてひたすら高みを目指している。

 こんなところで負けるな、と激励でもしてくれるのだろうか。そんな淡い期待は、砕かれる。


「残り、もらう。美味しい」


 風魔法を上手く使い、俺の食べ残しがある皿を長いテーブルの上を滑らせていく。

 自分の手前まで持ってくると、バクバクと食らいつくエルゥ。

 俺はがくり、と再び肩を落とすが落胆を知る由もないフィルアに連れ去られていった。

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