いざ王都へ
“ギフトのレベルを確認しにいく”。
そんな理由でエルゥとシトラに王都に行くと告げてから三時間。
何故か彼女たちも王都に向かうことになっていた。
「楽しみ。この田舎から出れるなんて」
「お洒落なカフェでも巡りたいですわね」
二人のモチベーションはマックスで、何故君達も行くことに? と水は差せない。
この街〈サージェスト〉も決して田舎ではないのだが、国で一番大きな都への憧れを持っているようで、ウキウキ遠足気分である。
どのみち次のダンジョンが近くに出現するまでに間隔が空く。
その間どこかしらに出かける予定だったらしく、丁度いいということで二人が着いてくることになったのだ。
シトラは構わないのだが、トラブルの種であるエルゥを連れていくのは少し躊躇いがある。
今回は大人しくしてくれていればいいのだが、そう思いつつ俺達は宿を出た。
◇
やってきたのはギルド。エルゥを連れて行く以上、どこへ行くにもバリスさんへの報告が必要なのだ。
「よおっ、どうした今日は?」
いつ来ても大抵飯をかっ食らっているバリスさんが俺達に手を振った。
朝のピークを過ぎたこともあるが、ダンジョンが攻略され消滅したことによって今日はいつもより冒険者の数が少ない。
「王都にいく」
「ふむふむそうか……………………って、なんだと!? それじゃあパパはエルゥに会えなくなるじゃないか!!」
「会えなくて結構。毎日むさ苦しい顔を私は見たくない」
「俺は見たいんだよ!! エルゥの顔を!!」
口の内容物を飛ばしながら、暑苦しく熱弁するバリスさん。
エルゥは俺を盾に父の唾などを避けるが、俺だってオッサンの咀嚼物の破片を受けたくない。
よって後退しつつ、「まあまあ」と落ち着かせようとするがバリスさんの怒りの矛先は何故か俺へ。
「おいラースッ! テメェの実家は王都にあったよな! まさか、エルゥを父親に会わせるつもりか!? 結婚の報告なんて言い出したらぶっ飛ばすぞ!」
あまりにも突飛的な発言に呆れつつも、俺は違いますよ! と強弁に否定する。
そもそも父親への挨拶なら目の前に居る人物の方が先だろうに。
そんなことは関係ないのか、バリスさんは本当か、本当かと怪しむような目で睨み付けてくる。
やれやれ、困った親子だ。俺がバリスさんの圧に押され気味になっていると、やはり助け舟を出してくれるのは彼に対して負ける要素が無い程優勢を保てるエルゥだった。
「ほんとうるさい。王都には観光に行くだけだし、黙ってて。大体、旅行にも連れていってくれたこともないくせに娘が遠出しようとするのを止めるな、ろくでなし」
無茶苦茶な言い様だが、旅行にも連れていったことがないという点はバリスさんにとってクリティカルだったのか、悔しそうに口をつぐんだ。
なんとかうるさい人物を黙らせた俺達は、早速街を出る。
定期的に王都行きの馬車が出ているので、賃金を払って乗せてもらうことに。
道中、馬車に揺られながらフルーツをかじる。
黄昏つつ、久しく見ていなかった草原の景色を眺めていると、エルゥがちょんちょんと俺の脇腹をつついてきた。
「王都に帰るのは久しぶりなんだっけ」
「かれこれ八年ぐらいは帰ってないな。本当は帰りたくないし、いつもギフトの鑑定をしてもらう時は少し遠出して東の国境の辺りまで行っていた」
エルゥは同じくしてフルーツをかじりつつ、へえ、と言った。
東の国境というと、〈サージェスト〉から見て王都とは真逆の方向である。
何故そんな回りくどいことをしていたかと言えば、勿論幼馴染みの顔を見たくないからだ。
父親も訓練の鬼というか、研鑽大好きおじさんなので出来れば顔を合わせたくない。
会えば、よっしゃ手合わせをしようか、となるだろうからだ。
「今回の帰省も、テザリーンに会って実家に顔を出したらすぐに帰るつもりだ」
「なんで? 今、王都に出現しているダンジョンがSランク級だって情報も流れてきるし、ちょっとぐらい滞在しよう」
「そうですわ、折角ですもの」
俺の気持ちも露知らず、二人は言う。
幼馴染の顔も見たくないし、親とも長く過ごしたくない。そんなことを言えるはずもなく、何か上手い逃げ道はないかと探す。
断固として長居したくないという俺の顔を見てか、エルゥは俺に顔を近づけてじっと見つめてくる。
「なにか嫌な理由でもあるの?」
ギクッ、と体が硬直する。
そんな心情を見透かされたのか、シトラが「図星ですわね」と言い切り、続けてエルゥが「何?」とシンプルな尋問を開始。
「や、ちょっと会いたくない奴が居るんだよ。出来れば顔も見たくない」
「鉄仮面でも被れば?」
「それは…………まあ、ありか」
エルゥのマジレスに完封され、俺は沈黙する。
最悪父の訓練に付き合わされのは構わないが、“奴”だけはどうしても会いたくない。
そんなもので誤魔化せるだろうか。一抹の不安はあったが、運良く行くことを祈ろう。
どの道、行くには行くのだから。
◇
「ご苦労」
世界が誇る武国、〈テルスタン〉の王都。
そこにそびえる王城の執務室で、大量の書類を持ってきた部下の騎士に労いをかけると、椅子へと座り直す。
来る日も来る日も仕事。“騎士団長”である自分の仕事はこの書類の山を片付けることが主で、気晴らしに近辺に出た魔物を狩りに行く程度。
この国の騎士団は優秀なので、わざわざ長である自分が出張らなくても魔物も犯罪者も片付いてしまう。
片付かないのはこの書類群だけ。こんなものは老いて体も元気でないジジババ騎士にやらせればいいことで、わざわざ自分がやる必要はどこに。
はぁと深いため息。頬杖を突きながらペラペラと書類をめくっていると、唯一心を潤すニュースが目に入る。
このご時世、魔法が発達して遠方からの報せを受け取ることができる。
伝達石と呼ばれる特殊な魔法石でやりとりをするのだが、それが馬鹿ほど高価なせいで一般には流通していない。
だが、軍は国内から情報を得るべく各地に伝達石と騎士団員を派遣している。
自分は騎士団長という立場を利用し、とある人物の行方を常に追っていた。
「君はボクに会いたくないのだろうが」
伝達石は遠方であろうと一瞬で伝えることができるし、勿論のこと馬の動きなどより格段に速い。
愛しの人物が王都行きの馬に乗ったという情報のみが記された書類を握りしめ、抑えきれない笑みを無理矢理引っ込める。
この笑顔は会うまで取っておこう、彼のために。
「王都に来る以上会わざるを得ないね、ダーリン」




