死すも成すも
毎日更新途切れさせたのは普通にストック切らしてました…出来るだけ毎日更新できるよう精を出します!
決戦の朝。
体調、準備、覚悟、俺達は三つとも充実していた。
俺は上下に軽い鎧と、ドリアン・ゲデル製の長剣を背に、鞄は荷物として手で持っている。
エルゥはいつもの受付嬢スタイル+足や手を覆う装備。それと〈プロミネンス〉担いだ状態となる。
シトラは身軽なショートパンツに、特に冒険者向きでもないシャツ。
弓と矢筒を背負ってなお狩りに向かう格好には見えないが、彼女にしてみればこれが最適らしいのである。
鞄の中は食糧と水。あとはポーションと解毒薬。
それでも空きはあるので本来ならばランタンだとかロープなど、役に立ちそうなものを持っていくがこのダンジョンでは必要なさそうなので空きはそのままだ。
日数的には今日明日と二日間攻略にかける時間はあるが、念のため日付が変わる可能性もケアするという目論見なので、今日が本番の気持ちである。
かくしてダンジョンの前に降り立った俺達は、出発の前に円陣を組む。
攻略して当然。エルゥに言わせてみればそうらしいが、初のダンジョン攻略だ。多少気合を入れてもバチは当たらない。
「ここは冒険者として歴の長いラースが一言、どうぞ」
三人が輪になって肩を組んだ状態。これから士気をあげようというところでエルゥが無茶振りをしてくる。
俺は困るが、冒険に出たあの日のことを思い出しつつ一つ咳払いをした。
「冒険者にはこういう言葉がある。死すも成るも一瞬」
「冒険者の辛さと幸せを説く言葉ですの?」
シトラの問いに俺は頷きつつも半分は、と答える。
「命を落とすのも名誉を得るのも一瞬だという冒険者の現実を表す反面、日々のたゆまぬ努力や心構えが大事だということだ。
怠ればあっという間に死ぬし、強くあれば案外容易く富や名誉は手に入る。
短い時間だったが、俺達の積んできたものは裏切らない。
俺はそう信じ、この言葉を冒険の門出として添えよう」
「期待してなかったけど、わりといいこと言った」
とことん失礼な奴で、エルゥは肩組みを解いて拍手をする。
この言葉は冒険者として旅に出る俺に父が言ったものだ。
同じく戦場に出る身としては似たような体験はあるらしい。容易い死に、容易い名誉。
『俺はたまたま棚ぼたで敵将の首を取って武勲を得たぞ、ガッハッハ』と笑っていた。それは流したが。
「フッ」
意気込む俺達を嘲笑するような、笑い声。
目を向けてみると、そこにはヴァイン一行が居た。
待ち伏せしていたのだろうか、ご苦労な事である。
「精々足掻くといい。貴様等のそんな装備で攻略など、出来るはずもなかろう」
ぐうの音も出なかった。俺だって俺達の装備や人数を見れば攻略できるのか? という疑問を投げかけるだろうからだ。
「言ってなさい」
嘲笑には嘲笑を。鼻で笑うエルゥはヴァインへた視線を向ける。
「ダンジョンを攻略するのは装備じゃない、私達。才能なしは装備が必要かもしれないけど、心・技・体が揃った私たちには要らないの。
貴方達は今回の悔しさをバネに、更なる高級装備でも揃えておきなさい」
既に攻略したも同然、そんな態度のエルゥは最後に、
「成金お坊っちゃま」
そう言い捨て、ダンジョンへ行こうと促した。
エルゥの連続攻撃をくらったヴァインは、悔しそうに地団駄を踏んでいる。
つくづく口では敵に回したくない、そう思いながらも俺はあらかじめ決めていた隊列通り先頭に立った。
ここ数日、道中で〈威圧感〉を連発していたおかげか一階の魔物は俺達を避けていく。
それは植え付けられた恐怖なのか、はたまたギフトのレベルが上がったのか。
〈威圧感〉は分類でいえばギフトである。しかし、スキルとして使用することも可能だ。
自動能動と二つの使い道があるギフトは能動的に使えばレベルは上がり、自動的に発動する〈威圧感〉の効果も増す。
だからヴァインやバリスさんは何もしなくても圧を感じるのだろう(バリスさんに関しては偏見だが。
一階は難なく踏破し、二階。
──魔物の“湧き”というのは魔物自体のサイズや強さに比例している。
なので浅い階層の魔物は倒しても復活が早く(大体一日)、氷竜は数日してから八階に出現していたワケだ。
だが、どういうわけか今日は浅い階層での魔物を見かけること自体少ない。
わざわざ〈威圧感〉の効果を発揮する必要もなくスイスイと進めている。
「今日は私達が円滑に進めるよう他の冒険者が総出で魔物を狩ってくれているらしい。私って人望ある」
ふんっ、と胸を張るエルゥ。否定してやりたい。
だが毒舌な人間だというのに人望があるというか可愛がられているのは確かだ。
きっと顔が可愛いという点と一五という年齢が寄与しているに違いない。
や、こう見えて可愛げがあるのはそうなのだが、あまり認めたくない部分があるので。
「ヴァインさんに不信感を抱いている方々が多いというのもあるでしょうね。暇を持て余してただひたすらギルドの卓に座る日々の中で彼の気性の荒さというのは度々耳にしましたから。
同じぐらいラースさんの悪口も聞きましたが」
シトラは笑いながら付け加えるように話す。
意外と彼女も変わった日々を送っていたらしいが、それ程俺の悪評が広がっていたとは。
広がっていたこと自体は知っていたが、出来る限り耳に入れるまいとはしていたので俺の居ない所でどこまで、という実態は掴めていなかった。
気になった俺は「例えば?」と尋ねてみると、シトラは顎に手を当て思い出すような仕草で「そうですね」と口にする。
「やはり精神的に参って仲間に斬りかかったというのが多かったですが、中にはラースさんの私生活に関するものもありましたね。
流石に実力的なものは疑う余地がありませんし、そこらのだらしなさを突いたのでしょう」
「なるほど」
思い返せばそうだ。実力に関しては派手に暴れていたこともあってか触れられることは無かった。
しかし王都時代は泣き虫だとか、おねしょをよくしたとか、訓練から脱走してばかりとか。
俺の過去を知っているヴァインはそういった痛いところを突いてくるのである。
泣き虫やおねしょに関しては相当年齢の低い時ではあるが、訓練に関しては冒険者になる前日辺りまで脱走を重ねていたので、特に度し難いものがある。
幼馴染みと共に時間を過ごすのが嫌だというのもそうだったが、そもそも日々の積み重ねだとかそう言ったことをエルゥ達に語る割には大嫌いだったのである。
そんな経緯もあって父は俺に『死すも成るも一瞬』という言葉を説いたのだ。
ま、幸い訓練は嫌いでも“戦うことは大好き”だったからSランクパーティーの前線として頑張れたが。
「娼館通いだとか、投獄された経験があるとか、はたまた」
「止めておいた方がいいんじゃない」
語るシトラを、何故かエルゥが制止した。
そこらはあまり耳にしたことがなく、今だから知っておきたいと思いつつ振り返ってエルゥの制止を訂正しようとする。
すると、何故か汗だくのエルゥがそこには居た。
まだ二階を歩く最中、しかもこの冷気といった環境でだ。
「……シトラ、続きを聞かせてくれ」
「え、えぇ。ですから女癖や素行の荒さですかね。パーティーメンバーのアンさんやクレアさんを強姦したといったものも耳にしたり……エルゥが嘘だと言っていましたし、実際会って誠実な方だというのは私も知っていますけど」
「ほう」
俺は足を止め、一体なんだその噂はと目を細めながらエルゥを見つめる。
パーティーメンバーを強姦したという噂をヴァイン自身が流す訳もない。
根拠の一つとしてアイツはアンの事が昔から好きというのもある。
それと、多大なる盛り癖はあっても嘘をつく事自体は好きじゃないのだ。
だからある事ない事流されているのはやや違和感があったし、噂が経由している地点で話が捻じ曲がったり膨らんだりしてそうなったのだろうかと思っていた部分もあった。
が、エルゥの様子を見るに違うらしい。
「その辺の噂はエルゥが流したのか?」
「…………」
顔をそっぽ向け、控えめな口笛を吹く。
あまりにも分かりやすい態度というか、誤魔化す気があるのかと問い正したい程のリアクション。
「なんでそんなことを?」
俺は彼女を犯人確定だと断定した上で話を進める。
根も葉もない噂が流れたことに怒りは無かったが、思いもしなかったことだ。
単にその心中が知りたかった俺は怒らないから、と背中をぽんと叩く。
「や……ラースが早くパーティーを脱退するための工作を色々と重ねてたら、その、なんか口にしてました」
普段反省の見られないエルゥもこれに関しては一〇〇%の悪事だと認めざるを得ないのか、消え入りそうな声で自白した。
「そうかそうか」
「怒ってないの……?」
「それだけ俺をパーティーに欲しかったんだろ」
“良い風”な返しをすると、エルゥはうるうると目元に涙を溜め、俺に抱き着いてくる。
──正直なところ、コイツなら調子に乗ったら言いかねないなと納得してしまったからである。
つまり怒りを通り越し、呆れたのである。人間、前もって頭にあることであれば感情の波はさほど立たない。
二度読んだ小説は一度目ほど感動しないし、そこにあると分かっている罠などは発動してもおどろかない。
彼女がそれまでして俺をパーティーに組み込みたかった気持ちに心が揺らいだのも事実ではあるので、それが全てではないが。
「ラース、私……あだあぁっ!!!」
何かを訴えかけようとしてきたエルゥだったが、とてつもないリアクションで上書きされる。
ゴチンッ、と頭部に下された鉄拳。エルゥの後ろには笑顔のシトラが立っていた。
「ラースさん、いけませんわよ、ダメなことはダメだとはっきり言いませんと。
一度ぐらい痛い目を見なければエルゥは心の底から反省しませんわ」
まったくもってその通りである。正論であるし、エルゥに甘い俺の代わりに鉄拳を下したシトラは正しいのだろう。
しかし、それにしても力のこもった鉄槌。やり過ぎではないかと。
「いつもの虚勢や大見栄は構いませんが、次に同じようなことをした場合にはお尻に矢を刺しますわ」
思いはしなかった。喉奥に引っ込んだ。いや、そもそも口にする予定も、無かった。
逆に恐怖を感じさせる満面の笑みで「おほほ」と笑うシトラに俺は何も言えなかったし、何も言うつもりも御座いません。
同じくしてガクブルと震えながら壊れた人形のように首を縦に振るエルゥの頭を撫でつつ、俺は彼女には逆らわないでおこうと心に誓ったのであった。
あと、鉄槌は本音を言えばスッキリした。




