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各々の不安

ブクマ&評価感謝感激なのです。一章もそろそろ終わりなので頑張っていきます!

 なんとか乗り切った。四日の訓練を終え、そんな様子で眠る二人。

 疲労は想像以上に激しいようで、いびきをかいて寝るエルゥ。

 そのせいで俺は目が覚めたのだが、相当ハードな四日間だったのだ。

 仕方があるまいとし、相変わらず俺を抱き枕(というか抱かれ枕)にしているエルゥの拘束から逃れる。


 時刻は朝の六時過ぎ。ほぼ定時といったところで、俺はベッドを降りた。

 顔を洗う、歯を磨く。いつものルーティーンの後、着替えを始める。

 しっかりと鍛え上げた彼女達に比べて俺はというと、実のところ完璧に探索しきったわけではない。


 二日目に八階を探索して回り、九階へのルートは確認した。

 気をつける点も、魔物の概要もバッチリ。

 しかし三日目に八階まで行ったところ、前パーティーで全滅危機となった原因の氷竜が復活していたのだ。

 魔物の死体は消え、どこからともなく復活するダンジョンの謎多きシステム。

 狩るだけなら良いが、攻略には些か不利になる。


「あら、お出かけですの?」


 出かける為に着替えている俺に話しかけてきたのはシトラ。

 物音で起こしてしまったのだろうか、タイミング悪くパンツ一枚の時に目が合うが、向こう側は特に気にしていない様子。


「あぁ、ちょっと散歩をな」


 俺はシトラの問いに応じつつ、そそくさと着替え終える。

 向こうが気にしていないとはいえこちらは恥ずかしい。


「そうですか」


 シトラが布団から脚を出すと、生足が見えて少しどきっとする。

 彼女が着ているのは薄いネグリジェ一枚。エルフと人間では恥の概念に相違があるのか、それとも彼女自身それほど気にしないのか。

 ベッドを下りたシトラはゆっくりと向かってくる。その様が艶かしく映り、更に心拍数が加速した。


「鍵はどうされますか?」


「ん、置いていくよ。悪いが閉めてくれるか?」


「了解致しました」


 あまりにも無防備なシトラから目を背け、硬貨の入った袋を持つと俺は部屋の出口へと歩き出す。

 心臓の高まりも戻り始め、ドアノブを握ったその時だった。


「胸、お好きなんですか?」


 俺の肩越しにシトラが顔を乗り出してくると、核心をつくような疑問を投げかけてくる。

 そりゃ見るでしょう、そこに谷間があるなら。

 視線を向けるでしょう、例えそこから目を背けようが視界の端に、入れるでしょう。


「か、からかうんじゃ……!」


 二つの柔らかな感触も背中に当たり、絶句する。

 隣にはすぐシトラの顔があり、悪戯な笑みを浮かべている。


「先輩をからかうんじゃないっ」


 なんとか正気を保ちつつ、扉を開く。

 動揺していたのは事実だし、バレてはいるだろう。

 シトラは微笑みつつ、「すみません」と謝罪の言葉を述べた。


「では、行ってらっしゃいませ」


 手を振るシトラ。俺は出口を向くと、口を噤んだまま後ろ手に振り返す。

 お淑やかで、小悪魔。“アイツ”とは真逆の人間だな。

 あ、エルフか。





「ふうむ」


 俺がやってきたのはギルドだった。

 鎧も着ていない件も携帯していないと、ダンジョンに行く気のない格好の俺がギルドにやってきたのは単に飯のためだった。


「どうしたよ、悩ましい声出して」


 飯を前に食が進まず、腕を組んで思考に耽る俺に声をかけてきたのはカッツだった。

 周りを見ると少し離れたところに彼のパーティーが居るのを確認し、会釈をする。


「いやぁ、八階攻略の目安は立ったんだが唯一対策に困っている場所があってな」


「聞こうか」


「氷竜だ」


 聞いてカッツは氷竜? と首を傾げる。


「竜種はたしかに厄介だが、お前達なら十分に倒せる相手じゃないか?」


「マトモにやればそうかもしれない。ただ地形的な問題があって、そいつはいつも決まって細い通路の先の部屋に居るんだ。

 以前八階に踏み込んだ時は通路に入る前にこっちに気がついて、ブレスを放ってきた。

 そうこうしている間に魔物に囲まれ、劣勢を強いられてしまったんだよ」


 そう、それで前パーティーは崩壊した。とはいえきっちり対策を立てていけば問題ないのかもしれないが、ただ一方的に暴力を押し付けられる状況なので対策の仕方が難しいのである。


「シンプルだが厄介だな。じゃあラースがブレスをせき止めるとか」


「無茶を言わんでくれ」


 流石の俺でも無理だ、と首を振って食事を始める。

 カッツ達のように盾役が居て頭数も居て、といったパーティーならばひとまずブレスを止めることは出来るが……。


 そうだ、彼等から盾役のディクソンをレンタルするのは?


 そんな考えが浮かぶが、まずエルゥが許可しないだろう。

「私の選んだ人材しかダメ」という彼女のこだわりに却下されるのが目に浮かぶ。


 となれば俺が盾役になるとしても、そもそも氷竜のブレスに耐え切れる盾はどこに?

 そう考えて昨日一日街を回ったのだが、さすがにそれ程の氷耐性を持った盾は無かった。

 ドリアン・ゲデル氏を尋ねてもみたが、多少なりとも防げてもやはり竜種のブレスたなると厳しいらしい。

 ブレスを耐え切れる専用の物を作るのも多少時間がかかるということで、その線は諦めたのだ。


「〈気配遮断〉はどうなんだ?」


「あの二人は持っているが、如何せん心配で」


「フッ」


「……なんだよ、笑って」


 どこか小馬鹿にするような笑いで、俺は眉間にしわを寄せる。


「あの二人はよくやってるぜ。そりゃ、お前とかに比べりゃまだヒヨッコレベルかもしれないが、世間的に見れば立派な冒険者だ。もう少し信頼してやってもいいんじゃないか」


 カッツはそう言って俺の鶏肉の唐揚げを一つかっさらっていく。

 べつにひよっこだと馬鹿にしていたわけじゃないが、相手はあの竜種だ。


「べつに倒させることもねぇ。時間だけ稼がせて、その間にお前が通路を突っ走っていってとどめを刺せばいいんだよ」


「……うーん」


 五階、六階に置いていった俺が言うことではないが、やはり心配は拭えない。

 こんな時にエルゥ本人が居れば「そのぐらい問題ナシ」と強気に言ってくれるのだろうが、一人では心配が積み重なるばかりである。


「やるしかないか」


 悩んでいても仕方がない。俺も彼女達も覚悟を決めるしかないだろう。


「その意気だ。まっ、無事ダンジョンを攻略出来たら宴が待ってるからよ。昨日バリスさんが頭捻って計画してたぜ」


「余計なことを言うな、カッツ」


「あだっ?!」


 どこからともなく現れたバリスさんがカッツの頭にゲンコツを落とす。

 一応ギルドに入った時にぐるりと眺めて居ないことは確認していたのだが、こういう話には敏感である。

 あまりにも神出鬼没すぎて寿命が縮みそうになるので是非止めていただきたいところだが、こういった所が娘が持つギフト〈気配遮断〉に繋がっているのかもしれないと考えると、ある種感謝しなければならないのだろう。


「宴、ですか」


「あぁ、俺はお前等がダンジョンを踏破して帰ってくることしか考えていないからな」


「……」


 バリスさんは卓に着いて俺の目を真っ直ぐに見据えてくる。

 完全に逃げることのできない包囲網である。エルゥ本人もハードルを上げるし、周りもこぞって期待を寄せてくる。

 中々辛い立場だなと自分に同情をかけつつ、食事を終えた。


 ……〈バーサーク〉を制御する目処は立っていない。

 〈ワーウルフ〉のイレギュラーシフト以来そんな兆しもないが、この先に待っているであろう激戦でああなったり使う可能性はある。

 それを危機と呼ぶのか好機と呼ぶのか。

 いずれにせよ無事に帰還して宴をハッピーな気持ちで迎える。


 いや、迎えさせる。そのぐらいの心持ちで挑もう。

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