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10 エピローグ

 複数の人間に押さえつけられて地に顔を付けているジーク。

 力いっぱい暴れようとするも、ただの人間になった彼は動くことすらままならない。

 だから彼は視線だけを動かして、アンディを睨めつけるように見る。

「アンディ! そいつらを殺せ! 俺に惚れていたんだろう!」

 王子としてここに立っていた時とは打って変わって、ジークはみじめと呼ぶに相応しい表情で叫んだ。


 そんな言葉を聞いてアンディは目を細めて、優雅に笑う。

「あら。一度惚れただけの男がずっと好かれると思っているのね。私も随分と頭の悪い男に惚れてしまったものね」

 その言葉を聞いて、ジークは激しく地面を何度も殴った。

「くそう。くそう……! そうだ! サウジ! サウジはどこに行った! こいつらを全員殺せ!」

 ジークを取り押さえる人達は、名を呼ばれた男を探す。


 しかし、誰も返事をしないため、誰を捕まえるべきか迷っている様子だ。

 そんな中、ふらりとジークに近づく男が一人。

 顔を知る私達だけが分かる。サウジだ。

 サウジはジークの目の前でしゃがみこんで、にこりと笑う。

「なんでこの状況で従うと思っているんすかジーク様。無様に倒れるあんたなんかの言うこと、聞くわけないでしょう」

「貴様……!」

「それにほら、俺様。強い人間の味方なんで」

 つらつらと言葉を並べたあとサウジは、こちらに振り向いて笑いかける。


 名を呼ぶ人間は分かったものの、自分達と敵対する意思のないサウジの姿に、ジークを取り押さえている人たちも捕まえるか迷っている様子だ。

 私はサウジを見て鼻で笑う。

「今更ジークの敵って面してもあんたがやってきたことが許されるわけないでしょう。ヴァリーも殺されかけたし、私だってあんたのせいで死ぬかと思ったわ」

「はい。許されざる事をしたと考えております」

 サウジはいつものチャラついた口調とは打って変わって丁寧に喋りだすと、膝をついて右腕を自分の心臓にあてて、私を見つめる。

「今までの事を謝罪します。俺は強い人間の味方ですので、貴方を裏切ることもありません。それに俺は……役に立ちますよ? 俺を部下として置いてくれませんか?」

 真っすぐと私を見た。


 その表情は真剣そのもので、これからは軽々しく裏切ることはないだろうと分かる瞳だった。

 確かに、魔法を使えるジークの元で、魔法を使えやしないのに働いていたんだ。役に立つことは間違いない。

 だから私は言う。


「いやだ」

「っ……!?」

「悪いけど、あんたが思うほど私ってお利口さんじゃないの。私を……私の大切な人間を殺そうとした奴を傍に置きたいと思うほど、割り切っていないわ。……というわけでタリク! あ、今は王子って呼んだ方がいいかしら? サウジを捕まえて頂戴!」

「ふっ。今はまだタリクでいい。どうやらそっちの方が慣れてしまったようだ」

 タリクはいつものように洗礼された動きで髪をかき上げて、周りの兵士にサウジも捕まえるように命令した。

「くそ……」

 サウジは小さな声で呟く。

 そのままサウジとジークは兵士に連行されていく。


「ルフさん」

 背後から私に声をかけたのは、ヴァリーだ。

「……何よ」

「どうして魔法を消してくれと願ったんですか?」

「……あんたと離れたくなかったからよ」

「えっ……」

 私が素直に言うのは予想外だったそうで、振り返らなくてもヴァリーは相当驚いていることが分かる。


 私は凄く恥ずかしいけれど、ゆっくりと振り返って、視線だけヴァリーと合わせる。

「……悪いかしら?」

「いいえ。悪くありません。そういうルフさんが、大好きです」

 ……まったく。

 よく堂々とそういうことが言えるわねこの小僧は。

 私は、私の表情を悟られないように、咳払いをしてごまかした。




 拝啓

 前世の私へ。

 

 それからの話をしよう。

 私達は無事に屋敷に帰ることができ、今までの生活が戻った。

 朝起きればモップで床を拭くロセに出会い、ジャスが作った朝ごはんを食べる。

 パンをかじりながら窓の外を見れば、ミニルが庭を弄っており、フレディが壁に寄り掛かりながら辺りを見回している。

 クロウは何をしているんだか、せわしなく屋敷の中を歩き回っていた。

 そんな当たり前で、愛おしい光景を見て、私は静かに笑う。


 ヴァリーも私の使用人にならないかと誘ったが、なんと断られた。

 主従関係としてではなく、私とは友達として接したいらしい。

 ヴァリーは今、タリクの働いていた美容室の元で、下働きをしている。

 タリクは……いや、今の王子は、混乱する国を治めるために働きまわっている様子だ。




 私の平穏な日常が訪れてから数日後の朝。を超えて昼。

 柔らかいベッドですやすやと眠っていると、突如顔に柔らかいものがのしかかる。

 重くはない。重くはないけれど……。

「うっとうしい!」

 私は目をぱちりと開くと、顔の上に乗っかっていたぬいぐるみ。リリポを掴んで思い切り投げた。

 と、ちょうど投げた方向にヴァリーがいて、思い切りヴァリーの顔にリリポがあたった。

「ギニャ」

 ヴァリーは変な声を上げて、リリポは床へと落ちた。


「せっかくサプライズでリリポを持ってきたのに、また雑に扱って……」

「何しに来たのよ」

「そりゃあ完勝パーティですよ。皆さん揃っていますよ。もしかして忘れたんですか?」

 そう言えば、私の家に集まってパーティをするという話をしたんだった。すっかり忘れていた。

「こ、この私が忘れるわけがないでしょう」

 ごまかしてみるも、ヴァリーはじーっと私を見ている。ごまかしていることに気が付いているような……。

「まあいいですけど。早く広間に来てくださいね」

 軽く手を振りながら、ヴァリーは去って行った。




 着替えてから広間に行くと、ジャスが作ったであろう色とりどりの美味しそうな料理が乗った机があった。

それを囲むように、皆が座っている。

ロセ、クロウ、フレディ、ミニル、アンディ、ヴァリー、今回王子に戻ったはずのタリクもここにいる。


 現王子が護衛もつけないで何をしているんだという感じだが、かなり無理を言って私の屋敷までやってきたらしい。

 そのため屋敷の外には、兵士が見張りのためうろちょろしている。

 ジャスは部屋の奥から最後と思わしき料理を持ってくると机に置き、自分の席に座った。

 そして皆こちらを見る、私が座るのを待っているようだ。

 攻略を始める前はこんな大人数でご飯を食べる日が来るなんて思っていなかったな。なんて考えていると、クロウが私に声をかける。


「ルフさん。乾杯を」

「じゃあ、その……乾杯!」

 私が声を上げると、皆も同じように「乾杯」と言ってパーティが始まった。

 パーティが始まると、各々が自由に話を始める。

 今回の攻略のこと。これからどうしたいか。ジークのこと。

 成人している人間はお酒も飲む。するとお酒を飲んでいない人間すらもテンションが上がっている。

 こんな楽しいパーティも中盤になったとき、アンディが放った一言で、静寂が訪れることになった。


「それで、ルフは誰を選ぶの?」

「……へ?」

 先ほどまで騒がしかったのに、皆黙って私の言葉を待っている。

 選ぶって、選ぶって、伴侶。つまり恋人の事よね。選ぶと、選ぶと言われても……。

 そこで声をあげたのはタリクだ。

「ふっ。勿論私だろう? 今回の件があり有耶無耶になっているが、元婚約者はこの私だ」

 当然と言えば当然とも言える答えに、皆が納得しかけたが……それで納得しないのはミニルだ。

「嫌。ルフは俺を守ってくれた。今度は俺がルフを守りたい」

 ぴり。と緊張した空気が場を支配する。


 ロセが便乗して小さな声をあげる。

「じゃ、じゃあ、あの……」

「ルフちゃん僕とデートしたよね!」

 フレディがロセの声を遮った。次はタリクが鼻で笑う。

「もしかして、王子と争う気か? 面白い。受けて立とう。ちなみにデートなら私もした」

「その王子と婚約者って言うのもさ、親同士が決めただけだよね? だったら断然僕にもチャンスがあるってわけじゃん。ちなみに僕は何回もデートした」

 変なところで張り合っている二人に対して、ロセはまた声をあげようとする。


「あの、僕も……」

「待てよ! 王子ならともかく! フレディにだけはルフと付き合って欲しくねぇ! それに、俺だって……俺だってルフは本気で恋愛感情抱いた相手だからな!」

 今度はジャスがロセの言葉を遮った。

 アンディ。アンディよくも……この空気どうしてくれるのよ。という視線でアンディを見ると、アンディはくすくすと笑うばかりだ。

 と、今度はヴァリーが口を挟む。

「確かに、リリポの力を使って攻略を終えた後は、一人を選ぶのが習わしですね」

「何よそれ……!」

 と、言いかけたが、ここで思い出す。


 確かに、確かに前世のゲームでは……全員を攻略した後、最後に選択肢が出てくるんだ。

誰を伴侶として選ぶか。それを選ばずに先に進むことは、できない。

 聞いたアンディは、ほくそ笑み挑発するようにヴァリーに言う。

「あら。ヴァリーは自分を選んで欲しいのね」

 その発言を聞いたヴァリーは、頬を赤く染めて机を叩いた。

「そ、そんなわけないじゃないですか! ……選んで欲しくないわけでは、ないですけど……」

 私はこの状況について行けずに、素っ頓狂な声をあげる。


「い、いや、急に選んでって言われても、困るんだけど……」

 それを聞いたアンディは微笑む。

「あら、別に私を選んでくれてもいいのよ?」

「はあ!?」

 いや、これはからかっているだけ……よね?

 そんな状況が面白かったのか、クロウは「ははは」とだけ笑った。


「ルフさん」ロセが精一杯声をあげて、泣きそうになるのをぐっと堪える瞳を向ける。

「ルフさん」クロウが困っている私をからかうように、頬杖をつく。

「ルフ」ジャスが怒っているのだか照れているのだか、睨むような視線を送る。

「ルフちゃん」フレディが照れを誤魔化しているのか、冷たい声で言う。

「ルフ」ミニルが私以外目に入っていないかのように、真剣な表情をする。

「ルフ」アンディが冗談めかしてほくそ笑む。

「ルフさん」ヴァリーがどことなく自信がなさそうに、頬を赤らめる。

「ルフちゃん」タリクが自分を選んで当然と思っているのか、はたまた選ばなくても構わないと思っているのか、堂々としている。


 皆が私を見ている。

 私が誰を選ぶかを待っている。

 私は……私は……。




「エンディング確定後に、前世を思い出すなんて聞いていない!」

 大声で叫んだ。


 あなたなら。……前世の私なら、いったい誰を選ぶ?

 敬具

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