勘違いとお仕事中の旦那様 3
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「あれぇ……?」
眼下には薔薇の庭園が色鮮やかだ。テラスに置かれたテーブルの上には、色とりどりの果物が盛り付けられたスイーツがのっている。
お茶会の席に座る二人は、どちらもキラキラと動く度にきらめくようなドレスと装飾品を身にまとっている。
「あら、どうしましたの? ステラ」
「……あの、レイレア様、これはいったい」
そう、お茶会の席に座っているのは、私と第三王女レイレア・ロレンス殿下だ。
あいかわらず美しい金色の髪と同じ色をした金色の瞳をもつレイレア様は、お美しい。
なぜか、幼いころから私に関心を示して仲良くしてくださっている。
「お茶会を開きたいと、言ってきたのはステラよ? しかも、開催場所まで指定して」
「それは……。そうなのですが」
ドルアス様のお手並みは、鮮やかだった。
ドレスに着替え、化粧を施された私は、あいかわらず少し幼い印象を残しながらも、可憐に変身した。
そして、その準備が整ったときには、すでにレイレア様に手紙が送り届けられて、返事も手に入れていたのだ。
「……ラーベル公爵家の執事長であれば、当然ですって言っていたけど」
「どうなさったの?」
「いいえ、こちらの話です」
私たちからほんの少し距離を置いて佇んでいるのは、ラーベル公爵家の騎士服に身を包んだレザン様と、いつもの黒いスーツ姿のドルアス様だ。
無表情なまま直立不動のレザン様と、柔和な微笑みを浮かべたドルアス様は、まるでお嬢様を守る騎士と、完璧な執事のようだ。
「──ほら、ジェラルド叔父様が会議しているところがよく見えるわよ?」
「……のぞき見して良いのでしょうか」
そう言いながらも、手渡された双眼鏡をのぞき込む。
遠目には、仲の良い私たちがお茶会をしているだけに見えるだろう。
けれど、本日の目的は……。
「っ、ジェラルド様が、眼鏡をしている!!」
そう、ジェラルド様が軍法会議にかけられているのではないかという疑念。
もし、そうであれば、私はどんな手を使ってでも、ジェラルド様をお助けしようと思っていたはずだ。
しかし、双眼鏡越しに見たジェラルド様は、不敵な笑みを浮かべていて、顔色が悪いのは、むしろ周囲の人たちに見える。
……正装姿のジェラルド様は、それだけで素敵なのに、眼鏡をかけたジェラルド様は、いつも以上に渋くて素敵だ。むしろ眼鏡姿が好きかもしれない。いや、大好きだ。
「……楽しそうね」
「楽しいです!!」
そして、ジェラルド様の隣には、王立騎士団の正装を完璧に着こなしたバルト卿がいる。
野性味あふれた姿も素敵すぎたけれど、正装姿は頼りになる騎士団長を具現化したようだ。
端正な容貌の二人が並んでいる様を見ているだけで幸せを満喫できる。
「……っ、バルト卿がジェラルド様の肩に手を置いた! やはり、あの噂は……!!」
「気を許した相手の前にいるときのあなたって、本当に社交界にいるときと違って可愛くて面白いわよね」
「……失礼致しました。レイレア様」
「楽しいからいいの。これからも、こうして時々お茶会をしましょう。この秘密の席で」
「っ……よろしいのですか!?」
優雅に頷いて、紅茶を傾けるレイレア様に、キラキラした瞳を向けてしまった私。
彼女は、ある意味、貴婦人と令嬢の戦場でもあるこの王宮で、唯一心許せる大切な友人だ。
「それにしても、ジェラルド様が追い詰められている様子は、全くないわ。考えすぎだったのかしら……」
「あの叔父様が、誰かに追い詰められるなんて、想像もできないわ」
「いや、油断は禁物よ!」
双眼鏡をもう一度のぞき込む。
そのとき、なぜか双眼鏡越しに、金色の瞳と目が合った。
その瞳の持ち主は、もちろんジェラルド様だ。
なぜか、ジェラルド様は眼鏡を外すと、軽く首を傾げて不敵な印象を崩さないまま微笑んだ。……気がした。
「あれ、目が合った……!?」
驚いて双眼鏡を外し、もう一度覗いてみる。
すでに、ジェラルド様は、会議に参加した貴族たちに何かを話しかけていた。
微笑んだジェラルド様に何かを言われる度に、見る間に青くなっていく貴族たちが、少し気の毒にすら見える。間違いなくあの場の指揮権はジェラルド様が握っている。
────だから、たぶん目が合ったなんて気のせいだったに違いない。
会議をしている部屋から、このテラスまでは、相当距離がある。
双眼鏡を覗いて、故意に見ようとしなければ、きっと気がつくはずなんてないのだから。
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