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【ユレイシア貴族連合王国】邂逅(3)

「はぁ……はぁ……ぐっ……」

(やはり、こうなってしまったか……)


 ヘイキチが高熱に倒れ、早三日が経とうとしていた。


(あれだけの傷を負った上、山中を半日も放浪していたんだ。感染症にならないほうがおかしい……)


 既に食事もまともに喉を通らなくなり、吐き気と倦怠感に体力を奪われ、ヘイキチはみるみる衰弱していった。


「ヘイキチ殿、起きているか……?」

「あぁ……」

「これを飲んでくれ。先日のスープを更に具材の形がなくなるまで煮込んだものだ。噛む必要はない。辛いと思うが、なにか栄養を取らねばますます体力がなくなってしまう」

「か、かたじけねぇ……」


 ヘイキチは震える手で皿を掴むと、ゆっくりとスープを飲み干した。


「ああ、すまんが……サトル殿……うつ伏せになったもええか?どうも、昨日から背中の具合が良うねえ……」

「え?ああ、うん。それはもちろんいいけど……背中だって?」


 サトルがハッとする。


「すまない。うつ伏せのままで構わない。ちょっと背中を診させてもらうよ」


 そう言ってサトルが背中の服を慌てて捲くりあげた。


「うっ……!」


 まず初めに漂ってきたのは腐敗臭。


「傷口が……っ」


 そして次に飛び込んできたのは、白と黒に変色した矢傷だった。


「肉が腐っている……」


 その矢傷から毒々しい真っ黒い血と、悪臭を放つ膿が滲み出ている。明らかに傷が悪化していた。


(やはり背中の矢傷から悪化を始めた……一番傷が深くて不衛生な箇所だ。頭ではわかっているつもりだったが、人糞とはかくも恐ろしいものか)

「ふふ……つまり、いよいよってこと……か……」


 ヘイキチが苦笑いを浮かべる。


「待ってくれヘイキチ殿!すまないが、今すぐ全身の傷を診させてもらうぞ!あと、包帯も新しいものに変えさせてもらう」

「うん?あ、あぁ……」


 サトルはヘイキチの全身の傷をくまなく確認し、酒で傷口を拭き、包帯を変えると一先ず安堵のため息をつく。


(……不幸中の幸いか。腐り始めたのは、背中の矢傷だけ。他の傷は、確実に良くなってきている。驚異的な回復力だ。これならまだ、間に合うかもしれない)

「サトル殿……?」

「君の身体はまだ、生きることを諦めてはいない」


 そう言うとサトルは台所より一つの瓶を持ってくる。


「……そりゃ?」

「こんなこともあろうかと、育てていた蝿の幼虫……つまり蛆虫だ」

「……蛆ぃ?」

「うん」

「……蛆って、あの蛆か?」

「あの蛆だ」

「……なんじゃって?」


 流石のヘイキチも困惑の声を上げた。

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