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【ユレイシア貴族連合王国】邂逅(2)

「……なるほど、どうもほんまみてーじゃなぁ。おめぇはそねーな嘘を吐く人じゃねえ」


 元々の性格ゆえか、サトルの想像以上に簡単に、ヘイキチは自分の状況を受け入れた。


「信じてくれてありがとう。君が物分りの良い人間で助かったよ」

「いんやぁ、単に難しいこたぁよう分からんだけだぁ。けんど、今はそねーなこたぁどねーでもええ」


 ヘイキチがサトルに向き直り、丁寧にその頭を下げた。


「遅うなって、すまん。ありがとござんす」

「はは、感謝するのはまだ早いよ。傷を見せてくれるかい?」


 そう言うとサトルは酒瓶を片手にヘイキチの背中に回る。


「そりゃなんか?」

「酒を沸騰させた蒸気を集めたもの……ああ、まぁ要は、僕特製の凄く強いお酒さ。これで傷口を洗う。かなり沁みると思うから歯を食いしばってくれ」

「なんじゃ分からんが、わかった」

「ああいや、未知の痛みだと思うし、前とか腕とかは自分でやったほうが良いかも知れない。これで上から傷口を拭くだけでいいから」


 そう言ってサトルは酒を染み込ませた布を手渡した。


「おう、任せい」


 ヘイキチは布を受け取ると、躊躇うことなく自分の傷口を拭き出した。


「なんと……」


 相当な激痛を伴っているはずなのだが、ヘイキチはまるで普段通り濡れタオルで身体を拭くかの如く、平然と眉一つ動かさずに傷口を消毒してのけたという。


「……実はね、君が気を失っている内にこれ幸いと、既に一度、全身の傷を沸騰させた水とこの酒で洗い流したんだ。しかも急ぎだったとはいえ、勝手に傷まで縫ってしまった。すまない」


 サトルが腕の縫い跡を指差しながら、ヘイキチに謝罪する。


「何を言よーる。おめぇが謝る必要なんかねえ、ありがとの。ところでサトル殿……」


 突然ヘイキチが神妙な顔で、サトルに向き直る。


「……なんだい、急に改まって?」

「ワシはこの後どうなる?」


 そして静かに問を投げかけた。その顔は一種の覚悟が宿った表情をしていたという。


「……気づいていたのか」

「戦場で過ごした身じゃけぇなぁー。こねーな深手を負うて、生き残った仲間などおらん。初めは話せる元気があってもな、三日も経つとみーんな駄目じゃ。傷口が腐って、広がって、蛆湧いて、病に罹って、苦しんで、そんでコロッと死んだ」

「そう、か……」

「ワシもそうなるんじゃろ?傷たぁ関係のう、さっきからなんぼーにも身体の具合が良うねえ」

「……さっきの措置は、そうなる可能性を減らす為のものだった」


 観念したかのようにサトルが口を開く。


「すぐに汚れた傷口の処置が出来ていれば、まだなんとかなったかも知れない。でも、時間が経ちすぎていた。特にあの矢、まずいことに糞尿が塗りたくられた毒矢だった」

「そりゃ、念入りなことじゃなぁ」

「傷口表面の毒は洗い流せたかもしれない……。でも、君の身体には既に大量の毒が染み込んでしまった。この後どうなるかは、もう君の運次第だ」

「そうかぁ」

「いや……君相手に誤魔化すのは、むしろ失礼か……。はっきり言おう。絶望的だ。近い内に君は生きながら腐っていくことになるだろう」

「そりゃ残念じゃ……」


 ヘイキチは全てを悟り、そして静かにため息をつく。


「一飯の恩ぐれーは返したかったんじゃけどなぁ……」


 ――翌日、ヘイキチの体調は急変した。

 それはまるで、死神が覚悟が出来るまでの時間を待ってくれていたかのようだった。

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