【ユレイシア貴族連合王国】再編(6)
――古びた寺院にて
二人に案内されながら歩くこと数十分、周辺を森に囲まれた古い寺院の境内に案内された。
「寺院と言うより、これはもはや廃墟だな」
落ち葉と木の枝で境内は荒れ放題であり、辛うじて敷石が見えることを除けば、人の手が入っているかも怪しい有様だ。
「ここだ」
案内された場所は境内の一番奥。
そこには、かつての本堂だろうか。古ぼけた建物と、その脇に否が応でも目につく、巨大な岩が置かれていた。
「その岩はな『鬼転がしの岩』と言ってこの寺院が作られた時から、ずっとここにあるらしい」
そして、その岩を指差しながら、ヴェルマンが語りだした。
「寺院に伝わる伝説によると、かつてこの本殿を建てた時、鬼が二つ向こうの山からここまで運んできたんだそうだ」
「鬼がねぇ……。それで?俺はどうすればいいんだ?まさか、昔話を聞いて欲しいわけでもあるまい?」
「なぁに、ちょっとした余興さ。ある日、この近くの村で一人の娘が生まれて、大層美しい女性に成長した。娘の評判はあっという間に広がり、その噂を聞きつけた男たちが村内外、昼夜問わずやってきては、娘に求婚をしたそうだ。だが、娘の答えはいつも『いいえ』だった。だが、それでもめげずに求婚してくる男たちに、娘はいい加減うんざりし、自分の出すお題を達成できた者と結婚する、と言ったそうだ」
「ほほう、奇遇だな。俺も故郷でそれに似た話を聞いたことがある。こういう話というのは、どこにでもあるものだな」
「それは興味深い話だが、後にしよう。その娘のお題と言うのが『この岩を動かすこと』だったそうだ。誰一人、達成することは出来なかったがな」
「ほう」
ヴェルマンの意図を理解したヘイキチが、口に手をやりニヤリと笑う。
「アスカイ・ヘイキチ。お前にもそのお題をやってもらう」
「なんだって!?」
アクシェイが驚愕する。
「力を見せると言ったんだ、まさか文句はあるまい?文字通りお前の『力』を見せてもらおうじゃないか。この岩を動かせたのなら、お前の要求を飲む。部下にでも何でもなってやる。どうだ?アイリシュ」
「よかろう、グリシャ。その時は私も共に従おう。だが、駄目だった時は、無事で帰れると思わないことだ。それでもやるか?」
「無論だ。お前達こそ、その言葉に嘘はないな?」
即答し、逆にヘイキチが二人に問いかける。
「我ら、今は野盗に落ちた身なれど、騎士の誇りまでは捨てていない。一度交わした約束は、決して違えん」
「そうか」
その言葉を聞き、ヘイキチが笑みを浮かべながら岩の前に立った。
そして、岩に両手を添えて、腰を曲げ、足に力を入れる。
「ふぅぅぅぅ……」
そして深く深呼吸し、足腰に力を込める。
「一つ言っておこう。その岩は別名『豪腕泣かせの岩』とも言ってな、先のおとぎ話を聞いた、何人もの力自慢が試しに挑んでは、敗れてきたのだ。大の男二人がかりで挑んでも、ピクリとも――」
「ヌン!」
「な!?」
ズズズ、という音と共に岩が奥にズレた。
「そ、そんな馬鹿な……」
見間違いかと思い、再度確認しても地面には確かに、岩がズレた跡が残っている。
湿った土の上にいる虫たちが、慌てて岩の下に潜ろうとしていくのが、今まさに岩が動いた証左だ。
「どうだ?」
ヘイキチが二人に確認するも、二人は驚愕のあまりパクパクと口を動かすだけだ。
「なんだ、見ていなかったのか。仕方ないな……」
「!?」
ヘイキチは今度は裏に周り、岩を押し出した。再び岩は鈍い音と共にズレ、元の場所に戻る。
「さて、もう一度やるから、今度こそよく見ておけよ?ふぅぅぅぅ……ヌン!」
岩が再び奥にズレる。
「戻すぞ」
ヘイキチが裏に回り、再び岩を押し出し元の位置に戻した。
「どうだ?」
「……っ」
簡単な作業をこなすかのように岩を動かすヘイキチに、二人はもはや絶句するしか無い。
「ついでだ」
何を思ったか、岩の下にヘイキチが手を差し込んだ。
「一度しか出来ないから、瞬きせずによく見ておけ」
そしてヴィッターマンとヴェルマンに不敵な笑みを向ける。
「ぬうぅぅぅぅぅ……」
「ま、まさか……」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!」
気合を入れた掛け声と共に、岩が大きく傾いた。
「どっせえええええぇぇぇぇぇいいいい!!!!」
岩は更に傾き、バランスを崩し、勢い良く地面を転がる。
そして横にあった本堂にまで転がり、壁を突き破り、中の柱にぶつかり、それを細枝のようにへし折った。柱が失った本堂が、音を立てて崩れ落ちる。
「……っ!!」
「ふぅぅぅ……どうよ?」
崩れる本堂を尻目に、ヘイキチは振り返って二人に顔を向ける。
「……って、どうしたお前ら?」
そこには恭しく跪く、ヴィッターマンとヴェルマンがいた。
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