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【ユレイシア貴族連合王国】城主(18)

「――しかし、本当に何があったというんだ?」

「全くわからないな……」


 設営が終わり、兵士たちに周辺の警戒をさせながら、サトルとヘイキチが話し合う。


「親父殿、もしやこれは全て罠だったのではないか?」

「罠だとしたら、考えられるのはおびき寄せてからの待ち伏せだが、それにしたら行動が遅すぎる。我々はもう陣地の設営が終わった上、この異常事態を前に厳戒態勢だ。待ち伏せで隙を突くタイミングは、完全に逸している」

「確かに、ここまで来るまでに伏兵の一つもいなかった。で、あれば……む?」

「うん?」

「誰だ!?」


 後ろの茂みからガサリと音が聞こえ、ヘイキチが慌てて剣を構え、サトルを庇うように立ち塞がった。


「そこにいる奴、出てこい!」


 揺れる茂みに向けて、ヘイキチが声を上げる。


「……俺だ。剣を下げてくれ」

「その声は!」

「やぁ」

「レイ!」

「レイ殿!?」

「いやぁ参った」という顔してレイ・ハオランが茂みから姿を現した。



「――たくっ……あいつら。本当に周辺をちゃんと警戒しているのか?」


 ハオランに飲み物を出しながら、ヘイキチが溜息をつく。


「こんな簡単に自陣に侵入されやがって。相手がレイ殿だから良かったものを……」

「まぁ、相手は一人だし、この土地については俺のほうが一日の長がある。流石に、今日来たばかりの連中には負けないさ」

「関係ない。訓練を積んだ兵士がこのザマで、親父殿を守れるか。明日からの訓練は倍にしてやる」

「はは……手加減してあげてくれよ」


 本人はシレッと言っているが、この場合、厳戒態勢の中侵入できたハオランの方がむしろおかしい。

 商人として、危険な場所を避けながら国中を放浪してきた経験が活きたのかは不明だが、この男も大概とんでもない男である。


「それで?わざわざ、雑談をしにきてくれた訳でもないんだろう、レイ?説明を頼めるかな」

「おう、もちろんだとも。元よりそのつもりだ。まぁ理由を聞いても、くだらなすぎてあくびが出ちまうと思うけどな」


 心底、つまらなそうな顔でハオランが二人に事の顛末の説明を始めた。



「――あぁーつまり、その、なんだ?城主がビビっちまった、と。そう言いたいのか?」

「一言で言えばそうなる」

「あのよ、レイ殿……。その、きすとらっつー奴は子供か何かか?」


 ヘイキチが怒りを通り越して呆れる。


「子供だよ。身体だけが大きくなった、ね。バカ息子で有名なツァオ家当主を見下してるみたいだが、俺からすればどっちも似たようなもんだ」

「それは、なんとまた……」


 あまりの事態に、流石のサトルも頭を抱える。


「そんなわけで、俺は君等にお引き取り願うために送られた、哀れな平民の協力者というわけだよ」


 やれやれ、とハオランが肩をすくめて、お手上げのポーズをする。


「そういうわけでだ。お願いします、どうかお引取り願えないだろうか?」

「無理だ」


 サトルが口を開くより先に、ヘイキチが即答した。


「というか、ふざけるな。俺たちがここまで来るのにどれだけ大変だったか。それが分からないレイ殿じゃあないよな?こっちは三千もの人間を動かしたんだぞ?」

「ああ」

「そもそも、ここに来ることを村の奴らに納得させるのに、親父殿がどれだけ苦労したことか。どれだけ惜しまれたか。皆を説得して回って、村のためならばと諦めてもらって、後任の者まで立てて、引き継ぎまで行った人間に、ここにきて帰れと言うか」


 話す内に怒りが更に込み上げてきたのか、ヘイキチの顔がみるみる歪んでいく。


「ここにいる兵たちだってそうだ。第二の故郷のためならば、と村を捨てる覚悟で親父殿に付いてきてくれたんだ。そんな理由で納得などさせられるか!」

「返す言葉もないね」

「そのきすとら?だか、なんだか知らん城主がどれだけ偉いのかは知らないが、これ以上、親父殿の厚意を無駄にするなら、ただではおかんぞ。あの城壁よじ登って、城内の兵士もろとも、その首をねじ切ってくれる。そのお子様に、世の中何でも思い通りにいかないことを教えてやる」


 全く冗談には聞こえない、というよりもヘイキチならば実際にそれが出来てしまうだろうから、冗談ではないのだろうが……言葉が飛び出し、ハオランが冷や汗をかく。 


「だが、レイ。ヘイキチの言う通り、今更そんな理由では帰れないよ。あまり物騒なことを言いたくはないが、そんなに長旅をするつもりもなかったから、兵糧はもってあと三日だ。余裕的にも、明日状況が動かないなら、申し訳ないけど、こちらも動かざるを得ない」

「向こうは俺たちを脅威に思って締め出した。つまり、自前の戦力に自信がないってことだろ?領主に兵を取られたばかり、と言っていたもんなぁ?」


 サトルのここで言う動くとは、つまりそういうことなのだろう。ヘイキチにいたっては、もはや隠す気もなく、やる気満々だ。


「わかった。城の連中にはそう伝えるよ。それでももし、明日中に状況が動かなかったのなら、その時は構わない。君たちの好きに動いてくれ」

「……随分とあっさり受け入れるんだな」


 想像以上にあっさりと引き下がったハオランに、ヘイキチが意外という顔をする。


「どう見たって、これは君らの言い分の方が正しいからな。俺は根っからの商売人だ。まともに売り出せる商品もない交渉なんぞ、真面目にやってられるか」

「どおりで始めから、君のやる気がなかったわけだ……」


 交渉は当然のように決裂(?)し、不機嫌そうにハオランは城に戻っていった。 



「――レイ・ハオランだ。今戻った。門を開けてくれ」


 その声に、ギギギ、という音を立てて門が開いた。


「ガルグに急の報告がある。急いで……どういうつもりだ?」


 入城した途端、ハオランが城内の兵から槍を向けられた。


「申し訳ないがレイ殿。貴方を拘束させていただく」

「……は?」

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