【ユレイシア貴族連合王国】城主(16)
――クァンリー城にて
早朝、一人の兵士長より投声符から報告が入る。
受けているのは城主補佐官ガルグ・ディリップだ。
「――報告は以上です。ですが恐らく、これは例の件かと思われます」
「ああ、多分間違いないだろう。報告ありがとう。引き続き、巡回を頼む。何かあったらすぐに連絡を」
「承知しました」
プツリと投声符からの通信が切れる。
「いよいよか……」
報告を受けたディリップが、城主の執務室に足を運び、部屋の扉をノックする。
「誰だ」
「ガルグ・ディリップです。一点ご報告事項がございますのでお伺いしました」
「入れ」
「失礼します」
ガチャリと扉を開けて、ディリップが入室した。
「なんだ?手短に要点だけ報告しろ」
そこには『いつもどおり』にクァンリー城城主キストラ・プラデーシュが、不機嫌な顔して椅子に座っている。
「先程、周辺巡回中の兵士から連絡がありました。不明の軍勢がこちらの城に向かって行軍しているとのこと。恐らく、北の賢者の手勢だと思われます」
「なに!?それは本当か!」
その報告に不機嫌だった顔が一転、プラデーシュが久しぶりの笑みを浮かべた。
「はは!ついに来たか!なんだあの商人、本当に話をつけていたのか!」
どうやら、署名まで貰ってきたというのに、プラデーシュはハオランの報告を疑っていたようだ。
領主に兵を奪われて以降、プラデーシュは常に不機嫌であった。部屋にいれば物にあたり、城内をうろついては兵士にあたる。
人の話など、当然まともに聞くはずもなく、正論を言われれば自身の立場を盾に、更に激高する有様だ。
その様子はまさに子供であり、毎日のように繰り返されるプラデーシュの八つ当たりに、城内の人間はいい加減辟易していた。
「恐らく、もう間もなく到着するかと思います」
「そうか。こうしてはいられないな」
プラデーシュは立ち上がると、いそいそと部屋を飛び出した。ディリップもその後ろについていく。
二人が向かった先は城周辺の様子を一望できる、城壁にあるやぐらだ。
「報告通りなら、アスカイ村とやらはこちらの方角だな?」
「はい」
二人は早速やぐらに登ると、アスカイ村の方角を確認する。
「報告通りなら、もうそろそろ見えて――あ、来たみたいですね。あれです!」
ディリップが地平線の彼方に、薄っすらと見えた人影を指差した。
「おお!本当……か……?」
プラデーシュもディリップが指差す方向に目を向ける。
「……っ!?」
そして絶句した。
「な、なんと……」
目に映ってきたのはしっかりと隊列を組んで進軍している、正規軍もかくやという軍隊だった。
ただの寄せ集めの武装集団ではない。良く訓練を積んだ『軍』であることが、一目でわかる。
流石に兵士全員に、王国正規軍並にしっかりした装備を支給しきることはできなかったようで、みすぼらしい装備を身につけている者も多数いる。
だが、逆に言えば足りないのはそれぐらいのものだ。仮に、今すぐにあの軍勢が敵軍と一戦を交える事になったとしても、決して遅れをとることはないだろう。
「おい……。まさか、あれが北の賢者の……」
「はい、おそらくはアレが北の賢者の保有する戦力かと。あの様子ですと、兵の数は大体三千人ほどでしょうか。件の『大蛇殺し』も一緒でしょう」
約三千人――その数は今現在、クァンリー城を守護している兵士の数よりも多い。
「あの全てが北の賢者の手勢だとぉ!?」
プラデーシュが突然、怒り混じりの叫び声を上げた。
「……今すぐ、城門を閉めろ」
「……は?」
「すぐにだ。ネズミ一匹通すんじゃない」
「キストラ様、一体何をおっしゃって……」
「閉めろと言っているんだっ!!」
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