【ユレイシア貴族連合王国】城主(14)
「俺自身の保身という点を除いても、君はこの話に乗るべきだと俺は思ってる。奴らには早々にこちらから、従順の姿勢を示した方が良い」
「……確かにね。攻め込まれて従わされるのと、こちらから従順の意思を示すのとでは、その後の扱いに天と地程の差が出るだろう。配下になることが避けられないのならば、後者の方が良いに決まっている」
そして、話は戻り再び徴兵の話へと戻る。
「俺が言うのもなんだが、最初に君を勧誘したのがクァンリー城だったのは不幸中の幸いだと思ってる。キストラはともかく、ガルグは優秀な男だ。それにガルグ相手なら、俺が間に入って仲を取り持つことも出来る。悪いようにはされないはずだ」
「確か、レイ殿とガルグ殿は幼馴染だと言っていたな」
「ああ。もっとも、美しい友情とは程遠い腐れ縁って感じの仲だがね。だが、だからこそ保証できる。奴は信用は出来る男だ」
「分かった。レイがそこまで言うのならその彼を信じよう。この村の安全と公認を引き換えに、僕は君たちに力を貸すよ。サトルはどうかな?」
「親父殿が決めたことなら、是非もない。俺は従うだけだ」
「ありがとう」とサトルがヘイキチに礼を言う。
「だけど一週間だけ時間が欲しい。村長として引き継がないといけない仕事が山ほどあるんだ」
「もちろん、構わないよ。頼んでいるのはこちらだしね。ありがとう、二人共。不本意とは言え、こんな脅迫じみた……いや、脅迫そのものか……な交渉に応じてくれて」
ハオランが二人に頭を下げて礼を言う。
「仕方ないさ。こうなってしまったのは、残念ながら君の言う通り、僕の自業自得なんだから。自分の始末は自分でつけないとね」
「それに結果として、レイ殿を巻き込んでしまった責任もあるしな」
「ありがとう、二人共。僕は実に良い友を持ったよ。ではアスカイ、これに署名をしてくれないだろうか」
ハオランが鞄の中から、誓約と思われる内容が書かれた羊皮紙と筆を取り出し、サトルに渡す。
「ああ、分かった」
サトルはそれらを受け取ると、スラスラと羊皮紙にサインをした。
「――じゃあ僕は一足先にクァンリー城に戻って、ガルグにこの事を報告するよ」
羊皮紙をカバンに仕舞い、ハオランが立ち上がる。
「ああ、頼む」
「……今更だが、本当に嫌ならばヘイキチ殿を連れて逃げろ、アスカイ。村の人間も俺たちも、君等が身を犠牲にしてまで守る義理は本来ないんだから」
「君も意地が悪いな。僕がそれを出来る人間ではないことを知った上で、そういう事を言うんだから。大丈夫、気が変わったりしないよ」
「バレてたか。ま、本当に今更な話だわな。じゃあなアスカイ、また会おう!」
こうしてハオランは一つの朗報を持ってアスカイ村を発った。その朗報がさらなる波乱を生むことになるとは、この時の彼はまだ知る由も無い――。
なお、多くの文献で、この話はサトルとハオランの友情を再確認できる良い場面として書かれる事が殆どだが、ハオランは予めディリップから村や自分たちの状況について情報を得た上で、説得方法を組み上げていた事も忘れてはならない。
そのハオランの組み上げた説得の方針も、サトルの性格を知った上で、初めから最後まで情に訴え続けるという邪道なやり方であった。そのことを考えるとハオランの発言は、若干白々しく思える箇所がある。真実は歴史の闇の中だが、もし全てが彼の演技だったとしたなら、彼は中々に食えない男である。
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