【ユレイシア貴族連合王国】邂逅(1)
(……地面がぼっけぇ柔らかいの。それにこりゃ……薪が燃える音……?)
「――まさか」
「……」
「やぁ、目を覚ましたようだね」
「…………うん?」
山中でアスカイ・サトルに発見されたヘイキチが目を覚ましたのは、それから二日後のことであったという。
「驚いたよ、本当に目を覚ますとは。ダメ元だったがやはり何でもやってみるものだね」
「…………??」
自分を上から覗き込む、知らない言葉を話す男にヘイキチが困惑する。
「ああ、ごめんごめん。言葉が通じないのか。えぇっと……」
この時、サトルは古東ユレイシア語※1で話しかけていたと思われる。当然、異邦人であるヘイキチには通じない。
言葉が通じないことを悟ったサトルは、自分を指差しながらゆっくりと自分の名前を言った。
「サトル」
「サ……トル?」
「うん」
「それが……おめぇの名前か?」
「え!?」
この時、サトルは飛び上がらんほど驚愕したという。なにせ偶然助けた負傷者が、同郷出身の者だったのだから当然だ。
「驚いた……その髪色、顔つき、服装……もしかしたら……とは思っていたが……本当に同郷の者だったとは」
「同郷……?」
「その言葉、君はニホン※2から来たのだろう?よかった、ならば何も問題ない。僕はアスカイ・サトルという。今は……あーそうだね、ただの農民をしている者だ」
「サトル……ほうか、こりゃどうも。ワシはヘイキチじゃ」
「ヘイキチさんか、名字は?」
「そねーな御大層なモンは持っとらん」
「ない……ああ、そうか。格好からしてもしやと思ったけどひょっとしたら時代※3が違うのかな?」
「??」
「ああ、いや、すまない。こっちの話だ。細かいことは後で話すよ。ところで、身体の具合はどう……って聞くまでもないよね。あはは……」
「こりゃおめぇがしてくれたんか?」
ヘイキチが自分の身体に施された処置を見ながら尋ねる。
「ああ、見様見真似でやった簡単なものだけどね。本当にひどい怪我だった。見たまえ、こんなものが背中に五本も突き刺さっていたんだよ?」
引き抜かれた矢を見せながら、サトルが苦笑いを浮かべる。
「幸い、内臓にまで届いてる傷はなかった。届いていたら今の僕ではもうどうしようもなかった。きっとその分厚い筋肉のおかげだろうね」
「そうか……う、ぅん……?ぼっけぇしんどいの……。地面がぐらぐらしよる」
「血が足りないからだろうね。ひどい出血だったから。とにかく、まずは食事にしよう」
そう言ってサトルが台所から皿に入ったスープを持ってきて、机の上に置いた。
「そりゃ……ミソシル※4か?」
「うん、猪の干し肉と自家製野菜のスープだ。今回は肉多め。とにかく肉を食べて血を補充しないとね。有りもので作った簡単なやつで申し訳ないけれど、食べてくれ」
「いんや、こがーなもん出してもろうて、かたじけねぇ」
ヘイキチが机に移動し、頭を下げて礼を言う。
「うん、召し上がれ。ついでにお互い初対面だし、色々話そうじゃないか」
「細かいことは後で話すと言ったしね」と自分の分のスープを用意しながら、サトルがヘイキチの正面に座る。
「おう、せっかくの食事じゃ。何でも聞きんせー」
「そうか、ありがとう。じゃあまずは――」
そしてヘイキチは語りだした。
戦で敗走したこと、仲間を助けるために囮になったこと、その時に致命傷を負ったこと、その状態で山中を彷徨っていたことを。
「――そうか、そんなことが……」
そしてサトルも語る。
ここがヘイキチの故郷ではない別の国であること、山中で偶然ボロボロになっていたヘイキチを発見したこと、そして親友に協力してもらい自分の家に運び、治療を施したことを。
「――信じられん……」
特に、ここが違う国であるという事実は、ヘイキチを傷が開きかねない程大いに驚愕させたという。
※1 当時のユレイシア貴族連合王国内で最も広く普及していた、現代で言うところの標準語
※2 アスカイ・サトルの故郷と思われる。ユレイシア大陸(現:アメイジア大陸)内外、都市、地方、国かどうかも含め詳細は全て不明
※3 『地域』あるいはそれに相当する言葉の誤植かと思われる
※4 ヘイキチの故郷の郷土料理。サトルの発言から食材を煮込んだスープのようなものだったと思われる
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