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【ユレイシア貴族連合王国】城主(7)

(戦時とは思えない盛況ぶりだ。これほどまでに活気に溢れた市場は、今は中央の都市ぐらいか……)


 改めて村内を見回し、ハオランが感心する。どこもかしかも活気に溢れ、笑顔で人々が行き交っている。


「わざわざ代理を立てた理由もわかるな。この規模の街の長となると、毎日忙殺されていることだろう」

「……申し訳ありません、レイ様」

「うん?」


 独り言に対してユーハンから謝罪され、ハオランが首を傾げる。


「本来であればアスカイ先生自ら来られたかったようなのですが、あいにく今は授業中でして。手が離せないのです」

「授業?」

「はい。ご自身のお屋敷でアスカイ先生自らが教壇に立ち、老若男女問わず読み書き計算を教えているんです。授業料がとても安く、教え方も上手いので、他所の村から授業を受けるためだけに来る人もいるぐらいです。今では生徒に対して授業が追いつかなくなってしまい、毎日開校しています」

「なるほどね。アスカイ自ら学校を開いているなら、この異常な光景にも納得できる」


 ハオランの目線の先では、ユーハンより更に幼い子供達数人が、木の枝で地面に落書きをしている。だが、その落書きの内容はハオランの知る子供のそれではなかった。


「よーし、出来た。この答えはなんだ?」

「ちょっと待って、えーと、うん167だ!」

「違うよ、177だよー」

「177が正解!じゃあ、こっちは何だ?」


 驚くべきことに子供達は、地面に数式を書き、それをお互いに出題しあっていた。

 これは貴族階級でもない、年端もいかない子供たちの間ですら、読み書き計算浸透してるということであり、都市全体の教育水準の高さの現れだ。※1


「あ、シュウせんせー!」

「ちょっとこっちに来てー!」


 問題を出し合っていた子供達がユーハンに気が付き、手を振ってきた。


「あ、えーと……。みんなごめんね、今はちょっと……」

「いいよ、私も気になるから一緒に行こう」

「……すみません、すぐに終わらせます」


 困った顔をするユーハンを気遣い、ハオランが子供達の方へ歩を進めた。


「うん?どうしたの?」

「どっちの計算があってるー?」


 そう言って、地面に書いた数式をユーハンに見せる。


「うん、これはリューの方の答えがあっているね。ほら、ここで繰り下がりを忘れちゃってる」  


 そう言って、木の棒を使ってユーハンが間違っている箇所を訂正する。


「あ、ホントだー」

「ありがとう、せんせー!」

「うん、じゃあね――」

「すまん、シュウ先生ちょっといいか?」


 間髪入れずに今度は、木簡を持った男がユーハンを呼び止めた。


「あ、えーと……」

「いいよ、聞いてあげなよ」


 チラリと申し訳無さそうにハオランの方を見るユーハンに、気にするなと手で合図を送る。


「この文章なんだが、この男の言葉の意味がわからなくて。どういう意味か教えてくれないか?」

「ああ、これですね。これはいわゆる慣用表現というやつで、直訳しても意味が通りません。この台詞ではこれ全部を『台無しにする』と読み替えて――」


 大の大人からの質問にもスラスラと答えるユーハンに、ハオランは驚愕する。


(凄い子供だな。子供の頃のガルグを思い出す。大人を差し置いて、アスカイが彼を自分の代理にしたのも分かる)

「す、すみません。長くなってしまって……。すぐにご案内しますので……」


 質問に答え終わったユーハンが申し訳無さそうに、ハオランのもとに戻ってきた。


「いいさ、どの道アスカイはまだ授業中なんだろ。ゆっくり行こうじゃないか。それより、その歳で大人からも先生と呼ばれてるなんて、凄いじゃないか」

「い、いえ……。これはその……。アスカイ先生の授業のお手伝いをしている内に、いつの間にか皆さんそう呼ぶようになっていただけで……。一応、最初は止めてと言ってたんですよ?自分なんてまだまだですから。アスカイ先生の足元にも及ばないのに、先生を名乗るなんてとても……」


 褒められた事が恥ずかしかったのか、ユーハンが凄い勢いで首を振る。この辺りは、歳相応の子供らしい反応だ。

 そしてしれっと、サトルの授業の手伝いができるという、とんでもない事実が飛び出していた。


「実に面白いなこの村は。ますます興味が出てきたよ。せっかくだし、屋敷に行く前にもう少し村を案内してくれるかな、シュウ先生?」


 からかうような口調でハオランが『シュウ先生』に案内を依頼する。


「う、うぅ……。わ、わかりました……。ご案内します……」


 その言葉にユーハンは顔を真っ赤にしながら、案内を再開した。


※1 当時の識字率は国全体で三割程度であったと言われる。しかも、その殆どが上流階級の知識人に偏っていたため、庶民の、しかも子供達には全く縁のないものであった。また、そもそも書物が高価であり、庶民にはおいそれと手が出せる物ではなかったので、彼らは文字を読む機会も、その必要性も殆どなかった。必要としたのは、精々が仕入れや、損得勘定の計算や記録が必要になる商人ぐらいだった。そんな中、読み書き計算が子供達の間で当然のように行われていたのだから、ハオランがその光景を『異常』と思うのも無理のないことだろう

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