【ユレイシア貴族連合王国】決起(6)
「いやぁ、蛇の卵ってのも、意外といけるもんだな」
「もう少し変な味がすると思ってたよ。ハハハ、想像以上に普通の卵だったな」
「んなことより、このキノコどうよ。うまそうじゃね?こいつも焼いて食ってみようぜ!」
「馬鹿野郎、どっからどう見ても毒キノコじゃねーか!?」
「アハハハハハハ!」
宴もたけなわ、肉もすっかり食べ終わり、最初に出会った時の暗い雰囲気は何処へやら、男たちは皆で談笑できるまでになっていた。
「すっかり日も落ちてしまったな」
「ああ、今夜はここで野宿だな」
そんな彼らを、サトルとヘイキチが少し離れたところで、お茶を飲みながら眺める。
「それにしても、あいつら随分といい顔をするようになったな」
「そうだね、初めに会った時は、誰も彼もが死んだ魚のような目をしていたというのに。やはり食事は、人の心を豊かにするね」
サトルが苦笑する。
「今、いい顔をしてるのは別にいいんだがね。あいつら一体、これらからどうするのかねぇ。こんな所で豪快に時間を潰しちまって、期限には間に合うのか?」
「そもそも、もう彼らにはラオロンに行く意思なんてないんじゃないかな。元々間に合う雰囲気ではなかったし」
「じゃあ、あいつらどうするつもりなんだ?上からの招集を無視した以上、もう村には帰れないだろうに」
「どうなるんだろね。他の村に知り合いがいる者なら、そこを頼りにできるだろうが……。そうでない人間は……」
「盗賊か、追い剥ぎか……。やっぱり、そういうものになるしか無いよなぁ……うん?」
そんな話をしていると、男たちがサトルとヘイキチのいる場所にぞろぞろと集合を始めた。
「ん?どうしたんだい?」
「北の賢者アスカイ・サトル様とその息子ヘイチキ様に、私達から折り入ってのお願いあります」
その中でリーダー格と思われる男が二人に頭を下げながら、口を開いた。
「お願い?」
ヘイキチが首を傾げる。
「はい。私達をあなた達に同行させていただきたいのです」
「……はい?」
「……うん?」
その提案にサトルもヘイキチも思わず、ぽかんと口を開けてしまった。
「我々はもう、定められた期限でラオロンには到着はできません。行っても、待っているのは重い罰則です」
「仮に許されたとしても、その先にあるのは死ぬまで休めない、重労働。ラオロンに行く限り、私達に希望はありません」
「しかし、だからといって村にも帰れません。役人に捕まって、殺されてしまいます」
進むも地獄、戻るも地獄。まさに八方塞がりといった感じだ。
「だから、俺たちと一緒に行きたいと?」
「はい。サトル殿の知識と、ヘイキチ殿の武力。そこに更に、我々という数があればきっと――」
「――お前たちは、親父殿に……北の賢者に野盗の頭目になれと言うのか?」
ヘイキチが厳しい目つきで男達をにらみつける。
「い、いえ、そうではなく……」
「必要以上にお前たちに踏み込んだ俺たちにも非はある。だがこれ以上、親父殿の性格に付け込むような事は看過はできない。親父殿はお人好しだからな。助けてと言われれば、助けようとしてしまう。それが親父殿だ」
「……」
「だが、親父殿にこれ以上、厄介事を背負わせる訳にはいかない。勿論、お前たちの不幸には同情するさ。お前たちは悪くない。だがそれでも、俺たちには関係の無いことだ。これ以上、親父殿がお前たちの面倒をみる義理はな――」
「――ヘイキチ」
「親父殿!?」
「僕のカバンから地図を取ってきてくれないか?」
「駄目だ、親父殿!」
ヘイキチが慌ててサトルを諌める。
このサトルの雰囲気を、ヘイキチはよく知っているからだ。そして、こうなったサトルが次に何をするかも。
「彼らを引き止めて、時間を使わせてしまったのは僕たちだ。その責任は果たさないといけないと思う」
「……っ!!」
予想通りの言葉が出てきて、ヘイキチが絶句する。
「親父殿!まさか本当に野盗の頭目になるつもりか!?北の賢者の名が泣くぞ!?お人好しにも程がある!そもそも、俺たちだって国から追われてる身の上だ!なのに、堂々と討伐される理由を作るのか!?」
ヘイキチがサトルに掴みかかる勢いで激高する。
常にサトルの意思を尊重してきたヘイキチでも、流石にこれは無理だった。自らの身を滅ぼしかねないお人好しは、サトルのためにも賛同できない。
「大丈夫。つまり、北の賢者の名に恥じない行いで、彼らを導けばいいんだよね?」
「……は?」
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