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【ユレイシア貴族連合王国】賢者(4)

 それは、ハオランとの宴会の数日後のこと。


「サトル殿ー!こっちは終わった――」


 その日も、畑仕事を済ませ、普段と変わらぬ一日が終わるはずだった。


「――なんだあいつらは?」


 家の玄関でサトルと、見知らぬ男が四人の兵士を引き連れ、話し合いをしていた。


「何故だ?北の賢者殿よ。この待遇の、一体何が不満だと言うのだ!?」

「待遇の問題ではありません。何度も言っておりますが、とにかく、私は王宮に仕えるつもりはないのです。お気持ちは嬉しいですが、どうぞお引取りください」

「待て、理由ぐらいは言ったらどうなんだ!?王宮に価値などないと言いたいのか!?我々を愚弄するつもりか!?」

「……ならば、まず言わせて頂きますが、これが仮にも賢人に力を貸してもらおうとする、人間の態度ですか?兵士を引き連れ、これ見よがしに力を誇示し、高圧的な態度で従わせようとする。それで私が、あなた達に力を貸したくなるとお思いですか?」


 しかもどうやら、穏やかな雰囲気の話し合いという訳ではないようだ。もはや、口論と言っても差し支えない。

 ただ、自分が割って入れば余計に話がややこしくなると思ったのか、ヘイキチはすぐには飛び出さず、まず遠巻きにその様子を窺うことにした。※1


「この持参品についてはお返しいたしますので、どうかお引取りを」

「そうか、成程……」


 にべもないサトルの返答に、男の様子が変わった。


「……つまり、貴様は王への叛意があるというわけだな」

「なんですって?一体何を言って――」

「何としても北の賢者を連れてこい、と仰せつかっている。悪く思わないで貰おう」


 男の合図と共に、後ろにいた兵士たちが、サトルを囲み一斉に槍を構えた。


「……これは一体、どういうおつもりか。フォウ殿」

「そのままの意味ですよ、北の賢者殿」


 フォウと呼ばれた男が、嫌らしい笑みを浮かべた。


「私は王の勅命を受け、ここに来ている。ならば私の言葉は王の言葉に同じ。その言葉に逆らうということは、即ち、偉大なるヴェルマール・イーシェン・フォム・ユレイシア王に逆らうのと同じことである」


 そして勝ち誇るように、王の名前を盾にサトルに詰め寄る。


「ヴェルマール王への反逆の疑いで、貴方を拘束させてもらう」

「……やっぱり、こうなってしまうのか」


 サトルが諦めの感情がこもった声で呟く。


「やはり私には始めから、選択肢など用意されていなかったというわけだ」

「ふふ、流石は北の賢者殿、話が早い。理解しているのなら大人しく我々に――」

「――お前たち、一体誰に向かって槍を構えている?」

「うわぁ!?」

「ぎゃあ!?」


 突然、槍を構えた兵士二人が宙に浮かび上がった。


「なん……なっ!?」


 兵士に目を向けたフォウが絶句する。いつの間にか自分の背後に、頭一つ以上抜けた、大男が立っているのだ。


「ヘイキチ殿!?」


 鬼のような形相をしたヘイキチが、文字通り女性の胴程もある両巨腕で、兵士二人の襟首を掴み、宙吊りにしていた。


「ぬうぅん!!」

「うわぁあ!?」


 ヘイキチが腕を勢いよく振り上げる。大人の兵士二人が、まるで木の葉のように宙を舞い、大地に叩きつけられて、動かなくなった。


「な、なんだお前は!?」


 残った二人の兵士達が慌てて、フォウを守るように立ち塞がる。


「それはこっちの台詞だ……」


 そんな兵士たちを無視し、ヘイキチが猛獣のような低い声でフォウに尋ねた。


「――なんだお前は?」


※1 彼の持つ逸話の多くが戦い関連であること、また知識方面での逸話は、周囲の人間の方が目立つためか、ヘイキチという人間は、創作物などでは脳筋な人間として扱われがちである。確かに、ヘイキチはそのような一面も持ってはいる。だが、この逸話や、すぐに異国の言葉を覚えたことなどからも分かるように、本来はなかなかに聡明かつ、冷静な文武両道の武人だった。実際にこの後も、度々ヘイキチの聡明さが発揮される場面がある

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