【真正ユレイシア帝国】指揮(9)
――帝国軍後方陣地
「――ただいま戻りました」
「おお、ルドウィッグ!マクフォール!無事だったか!」
ルドウィッグ、マクフォール両名帰還の報に、ルシエス自ら彼らを出迎える。
「ルシエス様も、ご無事なようで何よりです」
「ああ、お前たちのおかげだ。ありがとう」
「臣下として、当然のことをしたまでです」
両者敬礼をしながら、お互いの無事を祝う。
「ルシエス様それよりも、こちらを……」
「む?」
そう言ってマクフォールが、自分の背後に目を向ける。
そこには、一人の将が腕を組み、目を閉じ、無言で地面に座していた。
「……」
「彼はファン・シュイン。我々を追撃していた追撃隊の隊長です」
「そうか、彼が……」
ルシエスはファン・シュイン近づくと、一言を声を掛けようとする。
「殺せ」
だが、それより早く釘を差すようにシュインが呟いた。
「む……」
「卿等に話すことは何もない。早々にこの首を刎ねるといい」
「待て、ファン・シュイン」
その言葉にたまらず、ルドウィッグが割って入った。
「勘違いをするな、我らは卿の死を望んでいるわけではない。卿はあの時、私に対して情けをかけたな?その必要もないのに、わざわざ降伏することを勧めた。そのことを忘れるほど、私は恥知らずではない」
「そうだ、我らはお互いの立場の違いから、敵としてぶつかっただけだ。卿を憎んでいたわけではない。卿とはあくまで対等の好敵手だったと思っている」
マクフォールもルドウィッグに続いてシュインの説得に入る。
「どうか、ルシエス様。かの者の助命をお願いいたします」
ルドウィッグ、マクフォール両名がルシエスに頭を下げる。
「そうか、私はお前たちがそう言――」
「ご両名、顔を上げられよ」
だが、その言葉に答えたのはルシエスではなかった。
「卿等のご厚意、痛み入る。だが、私は結論を変えるつもりはない」
ファン・シュインだ。
「……何故だ?せっかく拾った命だぞ。そう死に急ぐこともあるまい」
ルシエスのその問いに、それまでとは違う、どこか微笑を浮かべた表情でシュインが答えた。
「卿等が今の私と同じ立場になったのなら、寝返りを打ちますかな?」
「!」
その言葉に三人の表情が変わる。
「ルドウィッグ将軍の言葉を、そのままお返ししましょう。私には誇りがある。仕える故国も主も、生涯において一つのみ。変えるつもりはない。ここで逃せば必ず、私は再びあなた達の敵となりましょう」
「……っ」
「それがなくとも、私はレン将軍の輝かしい勝利に泥を塗ってしまった。このような醜態、とても主には見せられぬ。もし、私を哀れんでくださるのであれば、一思いにここで首を刎ね、卿等の誇りにして欲しい。謹んでお願い申し上げる」
「……わかった」
その淀みない言葉に、ルシエスが深く頷いた。
「ルドウィッグ!」
「ハッ!」
「彼の処遇は君に任せる。望むようにしてやれ」
「承知しました」
返事をすると、ルドウィッグは彼の前に立ち、敬礼のポーズ取った。
後方ではマクフォールも、そして周囲にいた兵士たちもシュインに向けて敬礼をしている。
「部下に一筆したためる用意をさせよう。卿の身体は必ず故郷に送り届ける。卿の首は……私が直々に刎ねよう」
「重ね重ねのご厚意、痛み入る。卿に討たれるならば本望である」
――こうして、ファン・シュインは首を刎ねられた。
その遺書と遺体はルドウィッグによって、丁重に王国に送り届けられたという。
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