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真・バレンタイン

「せ、戦争……?」

「えぇ!陸空海どこからでもかかってきても、どのような戦術を用いてもかまいませんよ!我がティファニー辺境伯家にも我が領民達にも死角などありませんから!」


流石はティファニー辺境伯領だ。

レベッカ嬢や辺境伯本人だけでなく、領民までもえげつない戦闘力をお持ちという訳か。

レベッカ嬢、そろそろフェリシア隊に入らないかい?

我が隊は君のような戦えるけど常識人だけを絶賛募集中だよ?


「そもそも、フェリシアと僕の二人っきりって訳でもないよ」

「エドワード様!?あ、いえ、ご機嫌よう」

「やぁ、レベッカ嬢。顔をあげてくれて構わないよ」


騒ぎを聞きつけたらしいエドワードが部屋から出てくると、レベッカ嬢はポッと顔を赤くした。けっ。

エドワードの顔が良いのは前世から分かってるけど、レベッカ嬢を取られるのは何か面白くない。

いや、レベッカ嬢には是非とも好きな人と幸せになってほしいけども。


「それで、二人っきりではないとはどういう意味ですか?」


親しい訳でもないのに、しかも目上の人間であるエドワードに挨拶をしようともしないミレーヌぱいせんには、エドワードも呆れているようだ。

ミレーヌぱいせん、スキャンダルをでっち上げることが出来たら後はどうにでもなると思っているのか、成果を焦っているのか……。

だとしても、あの部屋には私とエドワードしかいなかったからまだ焦る時ではないと思うけど……?


「ふっふっふ!私達を忘れてもらっちゃ困ります!」

「……どうも。私達です」


いや、絶対いなかったよ?

リゼとリズなんて部屋にいなかったよ?

どこから湧いてきたの?


(ふむ、我輩は通気孔とみたぞ!)


あっ、おはようございます。いや、おそよう?

どちらにせよ、話がややこしくなりそうだから、もうちょい寝ててもよかったんだよ?


(うむ!おはよう、なのじゃ!でも我輩はおそよう、でもよいぞ!)


相変わらず、都合の悪い話を聞いてくれないナツメに私は思わずため息をついた。

どうかややこしいことになりませんように。


「なっ、メイドが!?いつの間に!?」

「さぁ?」


エドワードがそれっぽく誤魔化して、さも二人が実際にいたような雰囲気が流れるが本当にいつの間に部屋にいたんだろうね?

それは私も知りたい。


「いえ!そんなものいくらでも捏造できますわ!」


確かに。王家専用サロンに入れる場所は何も扉だけじゃない。

二人ならナツメの言う通り、通気孔とかからでも部屋に入る事は可能だろう。


(残念!二人は窓から入ってきたようじゃな!)


え?そんな気配も音もしなかったよ?

さすがに窓から入ってきたら気づくと思うけど。

……気づくよね?


「何せ、何でもありのフェリシア隊のメンバーなのですから!」


ぐうの音も出ないくらいの正論だ。

今回に限ってはミレーヌぱいせんの方が圧倒的に正しい。

でも、『眠り姫の毒』を持ってるんだよなぁ。


「じゃあ、精霊に証言してもらおうか?」

「くっ!」


自信満々なエドワードだけど、本当に二人っきりだったような気がするんだよね。

ただ、私が気づかなかったって可能性もあるっていうのが怖い。


「……何かあったのか?」

「か、カイル様!」


乙女ゲームの攻略者ってくらい、ものすごく良いタイミングで現れたカイルに、ミレーヌぱいせんは目をキラキラさせた。

ますます厄介な事になりそう。いや、なる!


「……フェリシア、ここにいたのか」

「はぁ、カイル様、どうかなさいましたか?」

「ハッピーバレンタイン」


は?今?よりによって?今?

手渡しされた小さな箱は綺麗なラッピングがされていて、チョコレートのような甘い匂いが微かに漂ってくる。

高そうな代物だということは言うまでもない。


突然のことだったため、逃げる事すら出来なかった。

正直、バレンタインなんて忘れてたよ。


(してやられたな!あの王子に!)


え?エドワードに?


(大方、お主にバレンタインを忘れてもらうために『眠り姫の毒』の話をして、ミレーヌぱいせんを誘き寄せたのだろうな!)


いや、まさか。さすがに『眠り姫の毒』とミレーヌぱいせんを親友のバレンタインのために布石として使うなんて。


「成功したみたいだね?」

「……あぁ」


だとしても、それは今じゃないのでは?


「……フェリシアさん、どういうことなのかしら?」

「えぇと、私にもさっぱり」

「しらばっくれないで!カイル様に気がないのはフリだけって分かっていましてよ!本当に嫌な女!」

「とりあえず、落ち着きませんか?」

「うるさい!貴方さえいなければ!カイル様は絶対に私のものになっていたはずなのに!」


そういうと、ミレーヌぱいせんは私を突き飛ばした。

だから、何で私を攻撃するのか。

カイル自身にアタックすればいいのに。物理的にも精神的にも。

あっ、卒業式みたいなことは金輪際だめだよ?


「貴方さえいなければ!……えぇ、そうよ、貴方がいなくなれば。カイル様はきっと……」


ミレーヌぱいせん?何か様子おかしくない?

恐怖を感じて思わず後ずさるが、ミレーヌぱいせんはポケットから小瓶を取り出したかと思えば中の液体をかけてくるだけだった。

やけに甘い匂いがする。香水か何かだろうか?


「ふふっ、これでカイル様は私の物よ。大丈夫、ただちょっと勘違いしていただけ。だからこいつを殺せば私の元に戻ってくるはず……ふふっ、あはははっ!」

「っ、フェリシア!」


あれ?それって確かゲーム内のフェリシアの最後の台詞だったような?

カイルの反応もヒロインとして画面越しに見たのと同じだ。

……これは何?


しかし、私はそれ以上何かを考える事は許されなかった。

何故なら、そこで私の意識は途切れてしまったからだ。

不思議なことにその瞬間、いつかヒロインが言っていた『お菓子のような甘い匂い』という表現を思い出した。

小瓶の中から香る香水みたいなこれにぴったりな表現でもあるなって。

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