さようなら、ミレーヌぱいせん
しかし、私はそれ以上何かを考える事は許されなかった。
何故なら、そこで私の意識は途切れてしまったからだ。
と、言いましたがあれは嘘です。
ただ、ミレーヌぱいせんが急に怖くなったから気絶したフリしてやり過ごそうとしただけなんです。
「あははは!やった!やった!」
何やら様子のおかしいミレーヌぱいせんはさておき。
不思議なことにその瞬間、いつかヒロインが言っていた『お菓子のような甘い匂い』という表現を思い出した、というのは本当だ。
まぁ、つまりミレーヌぱいせんが私にかけた液体は『眠り姫の毒』なんだろうな。
毒がまったく聞いていないのはナツメのおかげだ。
そう、ナツメによってとっくの昔に『眠り姫の毒』の解毒剤は完成していたのだ。
勿論、それは一部の人間しか知らない機密情報だ。
多分、エドワードが箝口令を敷いたのはミレーヌぱいせんへの温情なんだろうな。
もし、ミレーヌぱいせんが本当に自分の意思で『眠り姫の毒』の使用を止めたら罰を軽くしようっていう。
でも、エドワードの期待を裏切ってミレーヌぱいせんは越えてはいけない一線を越えた。
私を害する目的で『眠り姫の毒』を使った。
「フェリシア!?」
「カイル様!もういいのです!そいつはもう目覚めませんから!さぁ、こちらにいらっしゃって?」
「どういう事ですか!?フェリシア様に何をしたのですか!?」
「僕も知りたいな。教えてくれないかい?」
「あら、簡単な事ですわ。毒を浴びせたんですの」
「……何だと?」
「そ、そんな!?」
その結果、レベッカ嬢、いや皆を悲しませた。
「ふんっ!」
なのでとりあえず、平手打ちをした。
永遠の眠りについたと思った私が急に起きて、平手を喰らわせたのだから、当然ミレーヌぱいせんは驚いている。
しばらく目を白黒させていたミレーヌぱいせんだったが、状況を把握した途端、私に掴みかかってきた。
「何で生きているんですの!?確かに私は貴方に『眠り姫の毒』を浴びせたのに!」
「私が大精霊と契約していることをお忘れのようですね?それよりも自分が何をしたか分かっているのですか?」
「な、何を……あ」
みるみるうちに顔が真っ青になっていくミレーヌぱいせん。
やっぱり冷静な判断が出来ていないようだった。だからと言って、罪が軽くなる訳ではないけど。
「ナツメ、この人をどこか遠くへやって下さい。この人の家族も一緒にです」
「……あぁ、よいぞ。我が契約者よ。貴様がそう挑むならな」
「な、何をするつもりですの!?」
音もなく私の側に表れたナツメを見て、ミレーヌぱいせんは真っ青な顔で後退る。
恐らく、大精霊に関する伝承でも思い出したのだろう。
例えば、大精霊の機嫌を損ねたら時空の狭間という、人間には干渉すら出来ない空間に飛ばされる伝承とかね。
「■■■■■■■」
何を言ってるか分からないだろうが、私も分からない。
高位な精霊にしか分からない魔法の詠唱なのだろうと予想はつくけど。
そして、詠唱を唱え終わったのか、ミレーヌぱいせんの後ろには複雑な魔方陣らしきものが表れた。
わぁ、何あれ?初めて見た。
「きゃ、きゃぁぁぁぁぁあ!何ですの、これ!?カイル様、た、助けて……」
よく見るとミレーヌぱいせんはその魔方陣に吸い込まれている。
カイルに助けを求めているが、当の本人はややあって顔を背けた。
ミレーヌぱいせんは更に悲鳴を上げる。
「た、助けて!フェリシアさん!今までは助けてくれましたよね!?だから、今回も助けて!いえ、助けてくれるでしょう!」
ミレーヌぱいせんは今度は私に助けを求めてきた。
いや、求めてきたというよりも助ける事が当然だと言わんばかりの態度だ。
まぁ、ぶっちゃけると時空の狭間には送らないから安心していいよ。
勿論、私とナツメ以外は知らない。
名付けて、「バレる前に時空の狭間に送ると偽って遠い異国へ送っちゃおう大作戦」!
「さようなら、ミレーヌ様。もう二度と会う事はないでしょう」
「え……い、いやぁぁぁぁぁぁあ!助け」
だって、異国に送っちゃうからね。
殺されかけたとはいえ、凶器が毒、しかも私には効かない毒だったからあんまり恐怖もないし、実感も湧かない。
それなのに、処刑はちょっと後味が悪いというか何というか……。
でも、この方法なら私もエドワードという名の国の重鎮もWin-Winだもんね。
やっぱり有耶無耶にするのが一番だ。
「では、我輩は戻るぞ」
そう言って、ナツメは来た時と同じように音もなく消えた。
(どうじゃ!?我輩の演技は!中々に"くぅる"な大精霊っぷりだったじゃろ!)
あぁ、さっきのナツメ曰くクールな大精霊であったらどんなに良かったか。
まぁ、今回も助かったから感謝してるけど。




