箸を持つのは難しい
「……では、頂こう」
そう言って、カイルは神妙な顔持ちでツナマヨ醤油丼に箸を伸ばした。
芸術的とも言える持ち方で。
「あの、カイル様?持ちにくくありませんか?」
な、何それ。え、何それ。手首どうなってるの?箸の向きどうなってるの?
何とも言い表すのが難しい箸の持ち方は突っ込みどころ満載だ。
「……すまない、箸とやらを持つのは初めてなんだ」
そりゃそうだ。文化形態が西洋寄りな国に生まれ育った人間がいきなり箸という東洋の文化を扱いこなせる訳がない。
そもそも東洋人でも箸を持つのが苦手って人も多いし。
私も幼い頃は四苦八苦した覚えしかない。
「でしたら、スプーンをお使い下さい」
だから、スプーンを知った時の感動と言ったら!
こんな食べやすいものがあるのかと感激したね。
うちの両親は綺麗に持てるまで、箸を使わせない教育方針だったから。
しっかりしていたのだ。今の両親と違って、色々と……。
「しかし」
「食事は美味しく食べる事が先決です。箸の持ち方なら後で教えてあげますから、冷めない内に召し上がって下さい」
まぁ、冷めても美味しいだろうけど。
「……そうさせてもらおう」
スプーンを口に運んだカイルの顔が少しだけ綻ぶ。
良かった、THE・庶民の味は受け入れられたようだ。
後で料理長にレシピを進言しておくとしよう。
可愛い妹弟と使用人達のためにもね。
「……ありがとう、旨かった」
「お粗末様でした」
本当に素人の手作り料理、いや手抜き料理で恐縮ですが。
いや、美味しいけど!
「……では、早速箸の持ち方を教えてくれるか?」
あれ?何かさっきよりイキイキとした顔になってない?
フェリシアちゃんが好きだから?そんな好きなフェリシアに教われるから?
「あっ、私も!」
「えぇと、悪いのでは……?」
「……構わない」
「じゃあ、私達もついでお願いします!お嬢様!」
「お勉強させてください!お嬢様のメイドとして!ほら、シリルも!」
「え!?あ、はい!じゃあ、よろしくお願いいたします!」
うん、まとめて教えてあげようじゃないか!
「では、まず一本の箸をペンを持つように持って見てください。もう1つは中指と薬指の間に入れて固定して下さい。」
私の言葉通りに皆が箸をぎこちなく持ち始める。
さて、その間に私はお皿と大量の豆を調達しに行こう。
箸の練習と言えば、やっぱりこれだよね。
「失礼します、料理長。皿を12枚と、豆を大量にくれませんか?」
「構いませんよ」
理由を聞く事なく、料理長は快く私の欲しいものを用意してくれた。
基本的に私が大好きで、突拍子もない私の行動に慣れているが故の対応、いや神対応なのだろう。
本当にいつもすみません。感謝してます。
「おまたせしました」
「あわわ、すみません!お嬢様に雑用をさせてしまいました!」
シリルに謝られるが、この場合私が自ら赴いて正解だったと胸を張って言える。
何か知らんが、最近のシリルはドジが多い。ゲーム補正か?
アンリが巻き込まれるタイプのドジなので、シャーロットがアンリルートに入ったのかな?
うーん、まぁ、可愛い弟の相手がシャーロットなら別に良いよね?むしろ、welcomeだ。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!お、お嬢様に私達は何て事を……!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!お嬢様の細腕が折れてしまいます!」
しかし、それがサラとソフィとなれば話は別だ。
彼女らの悲鳴に私は自分の軽率な行動を後悔した。それはそれは切実に後悔した。
「「書くなる上は切腹をば……!」」
ごめん、本当にごめん。もう二度としないからそれは勘弁してくれない?
というか、それどこで知ったの?
そんなこんなで波乱の状態から始まった箸の持ち方講座はずっと波乱だった。
サラとソフィはずっと嘆いているし、その割には箸の持ち方は綺麗だし、豆の移動がやたらと速いし。
途中、エリザベートとエドワードが参戦してくるし。
カイルは骨折した。致命的に箸を持つことが向いていなかったのだろう。
そうだ、そうに違いない。だって、骨折したのだ。骨折。は?
あっ、箸の練習用に使った豆は料理長に美味しく調理されました。美味しかったです。
煮豆最高!




