ホワイトデー
春休みだというのに、私は朝早くから段ボールにラッピングを施していた。
はぁ、面倒くさい。
でも、カイルがホワイトデーのお返しを貰うために我が家へ来かねないんだよ。
「ホワイトデーのお返しを貰いに来た」
本当に自分から来たよ……。
ホワイトデー当日、あわよくば配送で済ませてしまおうと思っていた矢先にカイルは我が家にやって来た。
くそ、先手を打たれたな。
「はい、どうぞ」
仕方ないので、私は段ボールに詰めた土を手渡した。
勿論、嫌がらせではない。
何が一番喜ぶかを一生懸命考えて出した答えが土だっただけなのだ。いや、まじで。
現にカイルは少しだけ目元を綻ばせている。
「……ありがとう。いい土だな」
「さいですか」
いい土って何?
ミミズがいるとか?ダンゴムシがいるとか?
……ちょっと嫌だなぁ。
「ところで、その土はどうするの?」
「……ゴーレムを作って、フェリシアにプレゼントする」
ミミズ&ダンゴムシが入っている土(暫定)が巡り巡って、私の元に戻ってくるのか。
普通に嫌だな。
「やっぱりこの土は我が家の庭に戻すね。かわりにクッキーを」
「フェリシアの手作りか?」
食い付きえげつないな。
私の言葉を待たずに何か言うなんて珍しい。
「違う」
シャーロットみたいに料理の才能があれば良かったんだけどね。
生憎と前世も今世も料理には縁がなかったもので。
簡単な作業、つまり切ったり混ぜたり焼いたり茹でたりしか出来ないのだ。
まぁ、それが出来る分、エリザベートよりマシなのだが。
彼女は厨房ごと爆発させるからね。食材を。
「……そうか、違うのか」
先程とは打って変わって、曇った顔のカイル。
私の良心をえぐるには十分過ぎる破壊力だ。
イケメンはこういう時に得するよね。けっ。
「少し時間をくれれば」
「待とう」
やっぱり食い付きえげつないな。
私の言葉に間髪入れず返してきたカイル。
心なしか目がキラキラと輝いている。
本当に心なし程度にね。
さぁて、作るとするか。素人(但しエリザベートは覗く)なら誰でも出来る白米にツナ・マヨネーズ・醤油をぶっかけて、混ぜる料理をね。
え?これは料理ではない?これが料理じゃないなら、私は一生料理が出来ないってことでいい。
場所は我が家のキッチンを使う訳にもいかないので、図書館で行うことになる。
「アシスタントは勿論我輩じゃよ!」
「うーん、不安」
不安だ。
「まずは米を炊いていくよ」
「我輩に任せよ!」
お父様とお母様が大量に取り寄せてくれたお米をナツメは火の魔術で直接燃やしていく。
鍋で水と一緒に熱するという発想がどうしてないんだろ?
真っ黒焦げになったお米は、時間を巻き戻す風呂敷的なあれで真っ白な状態に戻す。
ナツメは青いタヌキが大好きなのだ。
流石は名作。時代・国どころか世界を超えて愛されるとは……。
そしてナツメが魔術で作った鍋にお米と水を入れ、これまたナツメの作ったコンロで熱していく。
この作業に一番時間がかかるけど、図書館はあちらの世界とは時間の流れが違う。
それを利用し、当然カイルは我が家の応接室で1人ぼっちで待ってもらっている。
ごめん、許せ。
「次は何をするのじゃ!?」
「私がツナとマヨネーズと醤油を混ぜて、ご飯にかける」
「我輩の作業は!何じゃ!?」
「味見係」
「うむ!任せよ!」
よし。体よくナツメを隅に追いやった私はツナ(両親が大量に作らせた)とマヨネーズ(両親が以下略)と醤油(以下略)を混ぜ、熱々のご飯(略)に乗せる。
うーん、美味しそう。いや、絶対に美味しい。
「我輩の出番じゃな!」
そう言ってナツメはかなりの量を頬張った。
カイルに残された分は五口くらいが良いところだろう。ごめんね。
「旨いのぉ!これならバッチリじゃ!」
「まぁ、元々美味しく調理されたものしか使ってないからね」
庶民的なこれが生粋のお坊ちゃまであるカイルにどこまで受けるかは分からないけど、フェリシアちゃん全肯定Botカイルくんなら大丈夫でしょ!
「お待たせしました」
図書館から戻ってくると、カイルの向かい側の席には我が愛する妹・クロエと我が愛する弟・アンリの姿があった。
後ろではシリル、サラ、ソフィが控えている。
何てこった。カイルしかいないし良いだろうと高を括っていたために大降りの茶碗に少量のご飯という暴挙に出たのに。
流石にこれは幻滅されるか……!?
「……なるほど、これがワビサビというものか」
「……えぇ、侘び寂びですわ」
ワサビしか知らない私だったが、丁度良くカイルは勘違いしてくれたので、神妙な顔でそれに乗っかることにした。
ちなみに私はワサビが苦手だ。
「ワビサビ!流石ですわ!お姉様!」
「なるほど!これがワビサビなんですね!」
尊敬の眼差しを向けてくる妹弟達を見るに転生ボーナスならぬ転生寸志は健在のようだ。
良かった。姉としての矜持だけは何としても守りたい。
勿論、主人としての矜持もだ。
恐る恐る、後ろで控える三人を見ると、その瞳は侮蔑の色ではなく、尊敬の色が浮かんでいた。良かった。
転生寸志、万歳!




