エピローグ
本日2話更新です。
これはその2話目です。
弟のアシュヴィトの勧めに従い、兄のアシュヴィトに会いに行くと、拗ねられて少々面倒なことになっていた。
用が済んだら「はい、さようなら」なんて薄情な性格はしていないつもりだ、と頬を膨らませて怒られてしまったのだ。
少年の姿をしたアシュヴィトの怒り顔は非常に可愛らしかったのだが、実際には弟のアシュヴィトと同じ歳(神相手に歳を数えるというのもおかしな話だが)の青年がしていると思えばあざとすぎて呆れもする。
これは弟のアシュヴィトも同じ考えだったようで、兄のアシュヴィトを軽くあしらっていた。
改めて兄の方のアシュヴィトと会った私はというと、正式にネクベデーヴァへと留まれることになった。
条件はこれまでと変わらない。
ホームシックになれば兄か弟のどちらかのアシュヴィトに頼んで日本へと里帰りさせてもらえ、アニメも漫画も日本にいるのと変わらない環境で目にすることができる。
異世界でスローライフを送りながら、日本で暮らしていた頃の利便性や娯楽を失わずに済むという、本当にいいところだらけの異世界転移だ。
正確には異世界転写だったが。
故意に自分たちで水増しした借金返済のため、神域の家に暮らし始めた弟のアシュヴィトは、意外に深夜アニメが気に入ったようだ。
というよりも、私がアニメを見て、相棒のコットンがアニメを見て、暇を見つけてはメイド妖精のメイもアニメを見ている。
こんな環境に暮らすようになって、アニメを見はじめない方が逆に不自然だろう。
兄のアシュヴィトは私を調べる過程でレトロゲームに嵌ったようだが、弟の方は何でも見るがロボットアニメが特に気に入ったようだ。
手慰みに「こんにちは」と言うだけの球体型ロボットを作り出した時には驚かされた。
そのうち自立思考型の漫才までこなすロボットでも作るのではないだろうか。
少しだけ楽しみだ。
この思わぬ弟の充実っぷりに、近々兄の方も押しかけて来そうな気がする。
兄の方のアシュヴィトと言えば、彼は原本の方の私とそれなりに親密な関係らしい。
らしい、というのは、本人たちからははっきりとした言葉を聞いていないからだ。
ただ、時々日本の我が家へ帰ると青年の姿をした兄のアシュヴィトが寛いでいたり、父と盤上遊戯をしていたりとするので、両親公認の仲であることは間違いないだろう。
何がどうなっているのか、心中複雑すぎた。
そして私はと言うと、時々料理を作る。
やはり家事手伝いを仕事としているメイたちに任せた方が美味しい物ができるのだが、私だって一応は女の子なのだ。
好きな人に手料理を振舞いたいという欲ぐらいは持っている。
……惚れ薬、私は口に含んだだけで、飲んではいないはずなんだけどね?
いつまで経っても効果が切れてくれない。
弟のアシュヴィトに対し、側にいれば心臓がバクバクと煩いし、逆に姿が見えなければつい探してしまう自分を自覚していた。
すぐにキスをしてくるところは気恥ずかしいし、つい逃げ出してもしまうのだが、決して嫌だというわけではない。
このことに気が付いた時は、少しどころではなく落ち込んでしまった。
いくら顔が好みだからといって、惚れっぽすぎる、と。
ならば、と惚れ薬の効果から逃れようとアシュヴィトの悪いところを探す。
結果は惨敗だった。
少し寝起きが悪いだとか、たまに意地悪な時があるだとか、嫌な部分はいくらでも見つけられるのだが、それらすべてを愛おしいと飲み込んでしまっている自分もたしかにいるのだ。
それに気が付いてからは、無理に感情に逆らうのはやめた。
とっかかりは確かに顔だったかもしれないが、嫌なところを見つけてもまだ好きだと思ってしまったのだ。
これはもう諦めるしかない。
認めるしかない。
惚れ薬など関係なしに、私自身がアシュヴィトに惚れているのだ、と。
……借金を返済するまで、って期限はあるけど。
相変わらず彼らは思いつくままに借金リストへと項目を増やしていく。
これはもう、完済するつもりなど元からなく、借金を理由として私の側にいてくれるつもりなだけなのだろう。
さすがの私にもそれが判った。
……幸せだなぁ。
好きな人が側にいて、趣味の時間を諦める必要もなく、適度に働くこともできる。
これを幸せと呼ばずして、なんと呼ぶのか。
何一つ失わず、異世界でまったりとしたスローライフを手に入れた。
ルズベリーの魔法薬師、これにて完結です。
あとで活動報告にでもあとがきの類似品でも置いておきます。