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妖精の湖  作者: 葵生りん
4章
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エピローグ

「この湖にはね、妖精が棲んでいるんだよ」



 きらきらと光あふれる虹色の湖の畔に佇む元リベーテ家の別荘だったお屋敷は、今はここを訪れる賑やかな家族連れや仲睦まじい恋人達のために開放されている。

 束の間恋人に戻って湖の畔で寄り添っている両親を水遊びしながら待っていた兄妹が、遊び疲れ待ち疲れて先に屋敷に入ってくる。すると、薄く銀の輝きが残る白髪の老婆がこっそり秘密を教えてあげると言って密やかにそう言ったのだった。


「妖精さん?」


 目を輝かせた女の子に、老婆はゆっくりと頷く。


「そう。とってもやきもちやきで悪戯好きな妖精で、この湖に来た夫婦や恋人に喧嘩させる魔法をかけちゃうんだよ」


 子供達は顔を見合わせ、それから心配そうに両親を盗み見た。


「ふふ、だけど大丈夫。ちゃんと仲直りができたらね、永遠に続く絆を結ぶことができるって言われてるから。ご両親もきっと、ずっと仲良くできるように祈ってここにきたんじゃないのかねぇ」


 ふたりはほーっと息をつき、それから女の子が元気よくきらきら輝く顔を上げる。


「ねぇ、お婆さんは妖精さんを見たことあるの? 手のひらくらいの大きさで、蜻蛉みたいな羽があったりする?」


 老婆は再びふふっと小さく笑った。


「水の妖精だからね、人とあまり変わらない姿をしているんだよ。最後に妖精に会ったのはもう百年近くも前、あのご夫婦だったと言われているよ」


 老婆はその屋敷の大玄関から望むホールの正面にかけられた大きな絵を指した。

 線の細い綺麗な顔立ちの夫と、可憐な美貌の妻と、そのふたりのどちらにもよく似た兄妹の、家族4人の肖像画だった。下にはこの屋敷の開放を決めたリベーテ家の嫡男夫婦と、その子供達と書かれたプレートがある。


「彼らが妖精のかけた魔法をやぶったから、以来妖精は姿を現さなくなっちゃったんですって」


 ふぅんと子供達はその両脇、ホール中央から両袖に延びる階段に沿ってかけられたその家族の肖像画を眺めた。中にはゴールデンレトリーバーと幼い子供が遊んでいる写真も混ざっているが、どれもこれも幸せそうな笑顔で溢れている。


「ねぇ、あの人オバケみたい!」


 そのうちの一枚を指して、少年は声を上げた。

 仲良く寄り添う夫婦が描かれたうちの一枚だけ、まだあどけなさが残るほど若い頃の妻の顔の左半分がひどい火傷を負った姿で描かれていた。


「でも、ほかの絵は怪我なんかしてないよ?」


 十数枚の肖像画中にその描かれた年代は若い頃から老いた後まであるけれど、火傷を負っているのはそれ一枚きりだった。


「あ、わかった! 妖精さんがやきもちで怪我させちゃったんでしょう? だけど仲良しのままだったから、魔法で元に戻してくれたんだ!」


 少女が元気よく指を突きだし「ねぇそうでしょ?」と重ねてきて、ふっと老婆が笑った時、子供達を探す父の声が届いた。

 少年は返事をして走っていく。

 少女は一度後ろ髪を引かれ老婆を見たが、笑顔で行きなさいと促され、両親が呼ぶ声が再度聞こえたので「またあとでお話きかせてね」と言い残して駆けていった。






「わざわざこの傷を後世に残すなんて、あなたは強い人ですねぇ」


 ひとり残った老婆はサファイアのような深い青の瞳を細め、火傷を負っていても誇らしげな絵の中の少女を見上げて呟く。

 しかししばらくすると疲れたのかふっと老婆は俯き、独白する。


「……ずっと心配をおかけしてしまいましたが、私はとても幸せでしたよ……」


 老婆は苦しげに息をつくと、もう一度眩しそうに絵を見上げた。


「だから最後に、これももう治してしまいましょうね」


 老婆がそっと絵に触れると、絵の中の醜い火傷はなくなり、妖精のように可憐で美しい少女へと変わる。

 老婆はその少女の誇らしげな笑みを、満足そうに眺めた。


「……娘にとって、母が美しいと誇らしい気持ちになるものですからね」






 少女が妖精の話をもっと聞きたいとせがみながら母の手を引いて屋敷に戻ってきた時、老婆はどこにもいなかった。

 誇らしげな笑みを浮かべる美しい少女の絵の前に、氷が溶けたような小さな水溜まりが残っているだけだった。









 *END*











 まずは最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございました!

 呪いに翻弄されながら夫婦の絆を結んでいく物語、いかがだったでしょうか?


 正直、この「妖精の湖」は私の中では異色で、色々と挑戦してみた思い入ればかりの作品となりました。

 ヒーローのはずのアレス様がダメダメな人であったり、イマイチ活躍しきってなかったり。ヒロインが泣いてばっかりで後ろ向きだったり。(だからこそ、ディーネがブチ切れたシーンは個人的に爽快でしたが)彼らの人間性はこれからの成長に期待してください、といったところでしょうか。

 艶めいたシーンや展開も好き嫌いがはっきり分かれると思いますし、ディーネが娘を手放す決断にも賛否あるかと思います。でも人間は理想や理屈や綺麗事だけで人生を生きていけないわけですし、このお話ではそういう泥臭い人間味を重視しました。またそれに対比するように、舞台となる湖は美しく麗しい世界であるよう心がけたつもりです。

 よろしければ、忌憚のないご意見やご感想などいただけましたら幸いです。真摯に受け止め、よりよい作品になるよう尽くす所存です。




追伸

 番外編「新しい日常の始まり」完結しました。もっとはっきり甘々なハッピーエンドがお好みの方はそちらもどうぞ。

 そして悲壮な結末でも構わない方はディーネの両親ロランとマルティナのエピソード「birthday」をどうぞ。

 初めましての方に念のため申し添えますと、R15ギリシーンは妖精シリーズのみで、ほかの作品にはございませんのでご期待なさいませんようお願いします。




 そして最後にもう一度、ここまで読んでくださった方に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました!!



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