キスをしよう
緊張でなかなか寝付けず、朝日が登ってから寝たので寝不足だ。寝不足だけど、それでも眠りたいという欲求はない。ドキドキして早く早くと気がせいてしまう。
沙耶も同じようでいつにもまして化粧もばっちりで、きびきびと掃除をこなしている。午前中に家事を済ませてしまうつもりらしいので、私もせめてと自分の部屋を掃除した。
このベッドで…ごくり、となったけどスルーする。よく昨日はベッドに気づかなかったな。
「はっ」
布団、汗臭くないよな?
「…よし、干すか」
ベランダいっぱいに敷き布団と上布団をほし、枕は竿にのっけた。よしよし。……。
「はぁぁ、緊張するなぁ」
こんなに緊張するなんて、合格発表日…いや、それ以上かも。
○
「ごちそうさま…」
「う、うん。あたしも、ごちそうさま」
11時をすぎてから、朝食兼昼食を食べる。起きてから食べてないことを考えると普段ならぺろりと食べれる量のはずだけど、明菜さんもあたしも食べきれなかった。
料理を作ってるときから、もうすぐだすぐだと意識して顔まで熱くなっていて、もう隠せない。明菜さんも少し顔が赤い。
明菜さんも同じ気持ちなのだ。嬉しい。
かちゃかちゃと食器を洗う音が響く。明菜さんがテレビをつけないからだ。
これが終わったら、だ。手が震える。ドキドキしすぎてクラクラする。
「お、終わりました」
「そう…行こうか」
「はい」
目が回りそうだ。激しい動悸に体がばらばらになりそう。
明菜さんの部屋に入る。いつも通りすすめられるままベッドに座ると、いつもより暖かい。あれ、これは錯覚じゃなくて、ほんとにあったかいかも。
おもわず体を倒して布団に顔をつける。いいにおい。あったかくて、ほわほわする。ほのかに明菜さんのにおいもして、落ち着くと同時にドキドキする。
「沙耶」
明菜さんがあたしの隣に寝転がって、ぎゅうと抱きしめてくる。抱きしめかえして明菜さんの首筋に頭を埋める。
ああ、明菜さんだ。明菜さん。
興奮しすぎているのか、なんだか意識がもうろうとしてるというか、ぼんやりする。
「明菜さん…」
「ん…」
顔を持ち上げられ、目をとじる。
キスをする。明菜さんの舌がはいってきて、あたしの口の中をなめられる。
「ん、ふん、んんっ」
あたしの舌はどうするべきかまだよくわからなくて、とにかく明菜さんに向かって舌をだす。
「んふっ、ぅんん」
舌はなめられるだけじゃなくて、軽く噛みつかれたりもするけど、それがすごく気持ちいい。
「っはぁ」
ふわふわする。気持ちよくて、心地良くて、息が苦しいことも何故か気持ちいい。
「あ、あきな、さんん」
キスに一息がつき、あたしは体から力を抜く。今まで緊張してたぶん、一気に脱力して楽になった。
全身がきもちよくて、何だか現実ではないみたいだ。
「沙耶」
ちゅ、と優しく額にキスされた。気持ちよくて、あたしはまた目を閉じて力をぬき、明菜さんに身を委ねる。
あれ、なんか、でも、力を抜きすぎなような……まあ、気持ちいいし、いいか。
○
ご飯を食べ終わり、沙耶が片付けを終えるのを待つ。手伝いたい気持ちもあったけど、今日に限っては言うのは別の意味が含まれてしまうので自重する。
「お、終わりました」
「そう…」
沙耶が振り向く。声が高くなっていて、まるで危険を前に怯える子犬みたいだ。うずうずと心がうずいた。気取られないよう平静を装う。
「行こうか」
「はい」
部屋にはいりベッドに座らせると、沙耶はぱたりと体を横たわらせた。ベッドに転がるから、スカートから太ももがよく見える。大胆な誘い方だ。そういうのは嫌いじゃない。
「沙耶」
隣に寝転がって抱きしめると沙耶もすぐに私に腕をまわしてくる。沙耶の頭に顔をうずめる形になる。沙耶の髪のいい匂いがする。
「明菜さん…」
胸一杯に沙耶の匂いをかいでいると沙耶が私の名前を呼んだ。顔をあげ、沙耶のあごに手をあててあげさせ、そっと唇をあわせる。
「ん…ん、ふん、んんっ」
舌をいれると沙耶もぎこちなく、私の舌とからめようとしてくる。
「んふっ、ぅんん」
くちゅくちゅと唾があふれてなる音がして、ますます興奮する。舌をからませ、甘噛みし、歯のすみずみまでなめあげる。
「っはぁ」
息苦しくなったので中断する。最後に唾を流してやろうかとも思ったけど、最初だし優しくしてあげようと思い、半分は自分の口の中のまま唇を離し、のみこむ。
ただ唾がたまってるだけのはずなのに、沙耶の唾液がまじってるのだと思うとなんだか美味しかった。
「あ、あきな、さんん」
沙耶は脱力して力の抜けた声で私を呼ぶ。キスしただけなのに、ずいぶんとふにゃふにゃだ。なんだかおかしくて、可愛い。
「沙耶」
そっと額にキスをする。沙耶はまた目を閉じる。キスをしながら沙耶のお尻をなでる。
「ん、んん」
鼻にかかった声をあげる沙耶。私はそっと起き上がり、沙耶の服に手をかける。ひとつ、ふたつとボタンを外し、
「……沙耶?」
異変に気づく。なんだか沙耶の様子がおかしい。なんでまだ目を閉じている?
「沙耶?」
頬を撫でながら名前を呼ぶと、沙耶はんん、と首を振る。
「んー、明菜、さん」
むにゃむにゃと言いながら寝返りをうつ沙耶。
「…おいこら、目を開けろ」
言いながら頬をつねるけど、ちょっとむずがるだけだ。
完全に寝ていた。一瞬怒りがこみあげる。どれだけ楽しみで、どれだけ待ったと思ってるんだ。だけど、よくよく見ると沙耶の目元は化粧でも隠しきれないクマがあった。いつもよりこい化粧は、クマ隠しだったらしい。
沙耶は楽しみと緊張で、私よりよっぽど眠れなかったんだろう。そう思うと怒るのが馬鹿らしくなる。
「…ったく、馬鹿沙耶」
無邪気な顔して寝て。そんな顔されたら、起こすわけにもいかない。全く、楽しみで眠れなくて当日寝るとか、小学生か。
頬をつついても熟睡してる沙耶は殆ど反応しない。よほど寝ていなかったらしく、あっという間に深い眠りに入ったみたいだ。
仕方ないやつだ。全く、馬鹿め。こいつほどのアホもなかなかいないだろう。でも仕方ない。そんな馬鹿を好きになったんだから。また今度にすればいい。
時間はいくらでもある。沙耶はまだ中学生だ。全然ガキだ。仕方ないから、ゆっくりと、そのうちに、沙耶にあわせて付き合ってやるか。
諦めてベッドにまた体を横たえると、日向のいい匂いがすることに気づく。ああ、なるほど、確かにこれは、眠くなる。
自覚すれば、私だって昨日はろくに寝ていないので眠い。あくびをかみころしながら、沙耶を抱きしめなおす。
沙耶が起きたら、今度は途中で寝ようなんて思わなくなるくらい強烈な、目が覚めるキスをすることを決めて、ゆっくりと目を閉じた。
○
これにて完結です。読んでくださりありがとうございます。
ネクタイをひっぱってキスをさせたかったので、できて満足です。




