↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災いの招き猫、『元』掃除屋に拾われる~不運をすべて引き受けると笑った死神は、今日も私のために料理する~  作者: サハラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/81

78:深夜の包囲網

 ーー自分の身体じゃないみたい。何で止めてたんだっけ……。


 背中を撫でる手も、耳にかかる吐息も、口内をなぞる舌も、全部きもちいいコトなんだって教えられる。

 なにこれ……頭とは別に身体が勝手に、カシムを受け入れちゃってる。


 考えないといけないことも山積みで、本当はこんなことしてる場合じゃないのに。


 彼に触れられると思考がふわふわして考えが纏まらない。頭の中は繰り返し同じところを行ったり来たりぐるぐる回ってる。


 ーー好き。

 恥ずかしい。……でも、やめないでーー。


「カシムっ……だ、め……カシム……ンァ……ゃぁ」


 もう、自分でも分かるくらい媚びた声になって彼に甘えてる。

 抵抗の声もポーズだけ。本当はやめて欲しくないってきっとバレてる。

 全身燃えてるみたいに熱い。心臓はずっとバクバクしてるし、呼吸の仕方なんて忘れたみたいに上手く吸えない。


「カシ、ム……っん……ぁ……それ、だめ……」


「嘘つき。 ダメじゃないよ。そんなかわいー声で言われて離すわけないでしょ。ミオ……ほら……きもちーね?もっと俺に声、聞かせて?」


 彼の手が私の身体を撫で、至る所に所有印を刻む度、カシムの執着の深さを分からせられる。

 攻められてるのに、縋られてるって感じるのはどうしてだろう。

 意地悪で余裕たっぷりな態度のくせに、声は湿度を帯びて、その銀の瞳は獣みたいにギラついてる。私を食べようと舌舐りしてるみたい。

 それが何だか嬉しいって思う私はどうかしてるのかな。


 身体が意志とは無関係に跳ね、恥ずかしい声が出る。自分じゃなくなるみたいな未知の感覚が怖くてシーツを掴む手に自然と力が籠り、少しでも声を抑えようと唇を噛んだ。


 ーー食べて。カシムになら私の全部、あげるから。










 ミオの瞳が潤み、熱に溶けていく。額に滲んだ汗を拭ってやり、官能を引き出すように身体を徐々に慣れさせる。


「あーあー。唇噛んじゃダメだよ。……ねぇ、口開けて?」


「ぁっ……カシムっ……カシ、ム……ンンッ」


 浅く、深く幾度となく口付けを重ねる。

 奥で縮こまっていた舌を誘い、口内を擽ってやれば鼻にかかった甘い声をあげるミオ。

 やがて、彼女も拙いながら自ら舌を絡めてきた。


 満たされながらも、それ以上の飢餓感が襲う。渇いて、飢えて、際限なく渇求する。


「はぁ。……全然足りない。ミオ、もっと俺にちょーだい?」


 彼女はシーツを握り締め、俺に応えようとしているが狭量な心がそれにさえも嫉妬する。


 ーー縋るなら俺にすればいい。


 シーツを掴んだ彼女の手を引き剥がし、俺の背中へと導く。


「だーめ。掴むのはそっちじゃないでしょ?ほら、おいで」


「んぁっ……カシム……。やぁっ……身体あつ、い…ぁん、ぅ…」


 ミオは嬌声をあげ、俺の背中に爪を立てた。彼女からの甘美な痛みに浮かされ、求められている実感に溺れる。

 ミオに引き摺られるように俺の呼吸も浅く、早くなっていった。


 俺の手で堕ちていく彼女は最高に美しい。


 熱に蕩けきったミオをこれ以上焦らす理由はもうない。その細い腰を抱き上げ、今度こそ邪魔な寝衣を脱がそうと裾へ手をかけた。




 …………。

 ……。



「…………チッ」


「カシ ム?……ど、した……の?」


 俺の急な変化に、ミオが潤んだ瞳を瞬かせながら、見上げてくる。まだ、彼女は気付いていない。だからといって、このまま放置も出来ない。


(どいつもこいつも邪魔しやがって)


 大きく息を吐き出すと、彼女の乱れた寝衣を素早く整えてシーツで包んだ。ぼんやりとしたままの彼女の額に軽く口付けを落とし、熱の残る敏感な耳元へ出来る限り苛立ちを抑え、落ち着いた声を掛ける。


「んー?ちょっと、ね。…… 少し外が騒がしい気がするから、戸締まり見てくる。ついでに……水も持ってきてあげる。……いい子に待ってて?」


「え、あ……うん」


 まだ頭が回っていないミオの返事を聞きながら、ベッドサイドのチェストへ手を伸ばす。

 ホルスターに収まったナイフをいつもの位置――指先が最短距離で届く腰の後ろへと差し込んだ。ミオに背を向け、部屋のドアを開けて一歩外に出る。


 全て台無しにされた。この報いは必ず受けさせてやる。


(クソが。最悪だ。遠くないうちに来るとは予想していたが、よりにもよって今か)


 腸が煮えくり返る思いだが、呼吸を整え、周囲の空間へと意識の網を広げる。

 人数は十人……いや、十一人か。


(家の周囲を取り囲むように、均等な間隔で六人。玄関前に、三人。屋根の上に、監視用に一人。……そして、そこから一段、距離を置いた位置に、全体の動きを統括しているのが一人)


 包囲網の連携、気配の薄さ。ただの物盗りや、行き当たりの賊ではない。訓練された明確な戦闘集団だ。おそらく、目的は『メグル』の奪還か、あるいはーー。


(……いや、どちらでも構わないか。俺の楽しみを邪魔した命知らずのゴミに変わりはない)


 こいつらには聞きたいこともある。だが、生かしておくのは距離を取っている最後の一人――リーダー格だけで事足りる。誰の邪魔をしたのか、その身を持って思い知ればいい。尤も、ゴミ共の命を足したところで、欠片も穴埋めになりはしないが。


 足音を消し廊下を渡り、外の死角にあたる位置の窓へと足を向ける。

 気配を周囲の闇へと同化させ、鍵の軋みさえも殺して夜気の中へと、滑り出た。


 建物の影、包囲の一角を担っていた二人の視線が、俺の姿を捉えるより早くナイフを放つ。

 狙い通り、標的の喉元へと真っ直ぐに吸い込まれていった。

 奴らが頽れる前に魔力で強化した脚で、懐まで一気に距離を詰め、静かに死角になる影へと横たえる。


(まずはふたり。次に潰すべきはーー)


 標的は上。

 俺は屋根へと軽く跳躍した。月明かりの下、こちらに背を向けて玄関側を監視している影が一つ。


 背後から気配を消して接近し、顎と後頭部を両手で挟み込むようにして、一気に首を捻り折る。

 一瞬の痙攣と鈍い手応えの後、男の身体が完全に脱力した。絶命した肉塊をさっさと肩に担ぎ上げ、素早く地面へと飛び降りた。

 本当はもっと痛めつけて、全身の骨を折って生皮を剥いでやりたい位だが生憎、今は時間との勝負だ。

 魔力で着地の衝撃は分散させ、微音を潮騒に紛れさせる。

 最初に処理したゴミが転がっている窓際の死角へと戻り、三つ目をその隣へと並べた。


(まだ、残りの奴らは動いてない……まったく、ノロマの愚図どもで助かった)


 残る外周の四人は、こちらの異変に誰も気付いていない。


 そこからは、ただの退屈な作業だった。


 死角から死角へ。魔力で加速した俺の移動速度に、雑魚が反応できるはずもない。背後から近づき、声を上げる暇すら与えず、ナイフの一閃と頸椎の破壊だけで順番に息の根を止めていく。


 五分と経たずに、外周の四人は物言わぬ肉塊へと変わり、先ほどの窓際へと積み上がった。


 血のついたナイフの刃先を、最後に殺した男の衣服で拭い去ると、未だに呑気に正面に佇んでいるであろう、玄関前の三人へと意識を向ける。


 ーー誰に牙を剥いたのか、身の程を教えてやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。