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檻の中の少女編(8)

 火曜日、会社の最寄りの駅で充希と待ち合わせをした。


 充希は、いつもよりアイシャドウが塗られていた。ビジュアル系バンドマンだったので、女性のアイシャドウやアイラインもちょっと気になる。意外とアイシャドウを塗るのは難しいので、女性のメイクをアレコレ言うのは、かなり失礼な行為だと感じる。


 先日、悠一と一緒に悔い改めをしたためか、充希に憑いている悪霊がはっきりと見えてしまった。


 篝火についているロシア美女と全く同じ悪霊をつけていた。悠一の予想は全部当たっていたとう事の証拠だろう。


 少し混み合っている電車に乗り、悠一の教会まで住宅街を歩いた。


「私、教会行くのって初めて」


 少し浮かれている充希の声を聴くと、篝火の気分はどっと落ち込んでしまった。


「充希先輩は、教会行った事ないっすか?」

「ないわね。カルトのせいであんまり良いイメージはない。でも教会で結婚式あげるのは憧れている」

「まあ、女の子の夢だね。ウェディングドレスって実は聖書由来っていう説もあるよ。イエス様の血の贖いの証拠として、ウエディングドレスを着せるっていう」

「へぇ。初耳ね」

「だからクリスチャンはキリストの花嫁って言うんだ。人間の男女は、神様とクリスチャンの関係を比喩してる存在だって牧師さんが言ってた」

「へぇ。そう思うとけっこう面白いわ」


 そんな会話をしつつ、教会の礼拝室に向かった。もう既に悠一は来ていて、準備できているようだった。


 軽く自己紹介をし、礼拝室の隣にある多目的室で三人で話す事になった。


 テーブルの上には、以前桜が持ってきてくれたアイスティーとバームクーヘンが置かれていた。甘いもの好きな充希はご機嫌でバームクーヘンを食べていたが、彼女の笑顔を見ているだけで、篝火は罪悪感を持ってしまい、心は重い。


「で、篝火くんも牧師さんも今日はなんで教会へ? 勧誘ですか?」


 充希の質問に悠一も篝火も顔を見合わせた。


 とても言いにくい雰囲気だったが、篝火が口を開いた。


「実は充希先輩、悪霊ついてる」

「は?」


 こんな事を言われて目が点にならない日本人はいないだろう。


「霊感商法? ちょっと怖いんですけど」

「充希さん、恋愛で重い感情を抱いていませんか? 一人の人に執着したり」


 悠一が冷静に事実を説明した。篝火に恋愛感情持ってる事は伏せたが、充希は目を白黒させて動揺し始めた。充希というよりはロシア美女の悪霊が動揺し、ついには充希の思考を乗っ取ってしまった。


『篝火ちゃーん! 私と付き合う? 付き合おうよ』


 充希の身体を借りた、ロシア美女の悪霊が話し始めた。普段地味な充希には全く見えない感じの妖艶な表情を見せていた。


「おまえ、悪霊か?」

『そうだよーん。姦淫の悪霊でーす! 喪女に取り憑いて、片思いの相手を攻撃するのが大好きでーす!』


 篝火はすっかり腰を抜かしてしまったが、悠一はとても冷静だった。


「でてけ! 姦淫の悪霊よ。イエス様の御名前で命令する、でてけ!」

『嫌だ〜!』


 ロシア美女の悪霊は、立ち上がり、ストリッパーのような妖艶な踊りを見せ始めた。


 姿形は充希なので、篝火はさらに居た堪れな気持ちになる。


 それでも挫けるわけにはいかない。


 悠一と一緒に神様の御名前をかり、大声で追い出しを試みた。


 かなりしつこい悪霊だった。1時間ぐらい汗だくで追い出しを試みたが、全く出ていく気配がしない。


『充希ちゃんはねー、繊細なのよねー。傷つきやすくて、自己否定ばっかり。そのくせ自信がないから男子に積極的に行けずに、念だけ積もらせてるのよーん。情け無い人間の娘〜』


 とりあえず変な踊りをやめたロミオ美女の悪霊だが、礼拝堂の隅に座り込み、充希を批判し始めた。


「充希先輩の事悪く言うな!」

『じゃあ、君はこの念だけ積もらせる重い女好きになれるー?』


 その瞬間、篝火は充希の身体を借りたロシア美女の悪霊に首を絞められ、意識を失った。

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