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オレたちエクソシスト  作者: 地野千塩


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悪霊ストーカー編(3)

 その夜、篝火はリビングのソファで体育座りしながら、悠一に電話をかけていた。


 ストーカーの正体はわからなかったが、スーパーから帰ると、ポストの中に薄い冊子のような本が入っていた。


 そこには生々しいBL漫画が描かれていた。しかも篝火と悠一をモデルにし、今住んでいる教会の間取りも再現されている。タイトルは「恋する牧師はエクソシスト」というものだったが、なぜか牧師役にあたるキャラは、信仰が堕落し、同性愛に耽っていた。


 漫画ではあったが、ページを開くたびに性的不品行の悪霊が煙のように飛び出し、篝火が最後まで読み進める事ができなかった。


 何より気持ちが悪い。書いてある事も気持ち悪いが、なぜこの家の間取りも知っているのか。真緒から聞いたストーカーの事もあり、はっきりと自分はストーキングされているという自覚をもった。おそらくこの漫画を描いた人間が、篝火をストーカーした人物と見て良いだろう。


 その人物については、さっぱり見当がつかないが、真緒に情報だと20歳ぐらい、ユニセックスの人物。漫画を書いている。


 それに当てはまる人物をもう一度考えたがわからない。


 とりあえず家の戸締まりをしっかりした後、送り付けられたBL漫画から漂う悪霊を追い払った。


 意外としつこい悪霊で、『悠一がいないと寂しいね? 実は彼に心の繋がりを求めているんでしょ?』などと同性愛をそそのかしてきた。


「うっさい! イエス様の御名で命令する、でてけ!」


 そう言い、しばらく讃美歌をアカペラで歌った。これでようやく、このBL漫画にくっついている悪霊は出て行ったが、安心してはいられない。


「どーしよ、悠一さーん!」


 こうして篝火は、涙目になりながら悠一に電話をかけた。まるでドラえもんに泣きついたのび太のような情け無い姿だったが、篝火はこの状況にま参っていた。


 家の中まで見ているストーカーなんて怖すぎる。


「うわぁ、マジかい」


 事情を話すと、悠一はドン引きしていた。悠一は、依頼人のエクソシストがひと段落したようで、今はホテルで休んでいるという事だった。


「どうしよ、これストーカーだよな」

「いや、しかし漫画を描くなんて手が込んでるな。ちょっとそのBL見てみたい。オレの事はイケメンに描いてるか?」


 悠一は余裕で大笑いしていた。


「冗談じゃないっすよ。こんな妙な妄想されるなんて、超キモい。っていうか家の中覗かれてる可能性大なんですけど。悠一さんは心当たりないですか?」

「そうだな」


 ようやく悠一は、事の重大さがわかって来たようで、笑いをおさめた。


「一応うちは戸締まりやってるし、誰かに覗かれている気配は感じない。っていうかここ1か月ぐらいは、オレはずっと教会にいたし、誰かが侵入した気配はない」

「という事は盗聴ですか?」


 そういえば、ミュージシャン時代の先輩で、ファンにストーキングされて盗聴器を仕掛けられた人がいるのを思い出した。ファンからのプレゼントのなかに盗聴器が仕掛けられていたらしい。幸い、スタッフが盗聴器を見つけて被害はなかったが、思い出すと怖い。


 篝火はそういった被害には遭った事はないが、よく聞いた話だった。ミュージシャンを辞め、スッピンで眉毛をボサボサにし、シャツやジャージで過ごしている自分に今だにファンはいるだろうか? 


 その可能性も考えたが、自分のミュージシャン時代のファンは、マナーの良い連中が多かった。まさか、自分のファンの中にストーカーがいるとは考えたくない。


「 盗聴もないんじゃないか。っていうか普通の人は、教会に盗聴器なんて仕掛けられるか? 神様が怖くて、できないだろう。特に日本人は、天罰とかめっちゃ気にするじゃん」

「そうかなぁ。イエス様はめっちゃ優しそうなイメージじゃん」


 篝火は信仰心を持つ前は、イエス様はとても優しいイメージがあった。実際、聖書を読むとパリサイ派、神殿で商売する不届き者には、すごく厳しく接していたが。弟子にも厳しかった。ユダに裏切られても反論しなかったのは、その時には十字架を背負う事をご存じだったのだろう。


「いや、父なる神様はめちゃくちゃ厳しいぞ。ノアの洪水やバベルの塔ぐらいは日本人でも知ってるし、教会に盗聴器なんて仕掛けるバカはいないだろう。罰当たりすぎる」

「じゃあ、どういう事さ。悠一さん」


 篝火は、盗聴器の確率の方が高い気がしたが。


「たぶん、悪霊だ」

「悪霊?」

「悪霊は教会にも時々邪魔しに来てるからな。というのもここ1か月ぐらいは、雑魚悪霊が来てたんだよ。すぐ追い返したが」

「どういう事? もしかしてストーカーが、悪霊を使役して家の様子見てたって事?」


 自分で言いながら篝火の顔は、青くなってきた。


 悠一に詳しく聞くと、占い師のはファミリアスピリッツというものがいるらしい。悪霊の一種だが、占い師の客の様子を監視したりする。そのおかげで占い師は、客の事を言い当てる事ができる。魔女の使い魔も、このファミリアスピリッツに該当する。


「じゃあ、そのファミリアスピリッツにこの家が監視されたってこと?」


 話を詳しくきいて、悠一の顔はさらに青くなる。悪霊を使えば確かに指一本動かさなくても、ストーカーが可能だ。


「可能性は大だな。占い師の知り合いとかいるか?」

「いないよー」


 ミュージシャン時代でも占い師の知り合いはいなかった。


「あの悪魔崇拝者の卓弥がなんかやってる可能性は無い?」


 篝火はその可能性も考えたが、悠一はわからないという。その口調は、かなり呑気だった。悪霊がストーカー可能という事で、怖くなっていた篝火だが、悠一の声を聞くと、だんだん落ち着いてきた。


「まあ、オレとしてはミュージシャン時代のファンじゃないかって思うんだよ。今の篝火くんにストーカーする価値ないでしょ」

「ちょ、何気に悠一さん、辛辣なんですけどー」

「とにかく、戸締まりと悪霊祓いをしっかりやる事だな」


 ここで初めて悠一は、心配しているような声を出したが、残りのゴールデンウィークは、北海道で観光を楽しんでくるという話だった。函館で修道院も見てきたいらしい。


「じゃあ、あとは自分で何とかしろよ。お土産は、白い恋人とトラピストクッキーでいいな?」

「ちょ、お土産なんてどうでもいいっすよ」

「じゃあな、篝火くん。頑張って!」


 ここで電話が切れた。


 悠一は終始呑気なものだった。やはり、この問題は自分で解決しなければならないようだった。


 不安になりかけたが、目の前に雑魚悪霊が現れた。すぐ祓ったが、悪霊を使ってストーキングされている可能性が高まった。


「冗談じゃないわー」


 情け無い篝火の声が響いた。

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