坂本彰二 銭湯
日曜の朝、彰二は、居間で倒れている二人の人間を発見した。
あんまり驚いて、声を上げそうになったが、よく見ると、一人は作業着の儘、無精髭を伸ばした周二で、一人は学生服の紘一だった。
確か、二人共、昨日は外泊だった筈なのだが、此の早朝に、揃って居間で爆睡しているというのは如何いう事なのだろうか、と、彰二は首を傾げた。
彰二は、周二の傍に正座した。
安酒と、女物の化粧品の臭いと、煙草が混じった様な臭いがして、如何にも、汚された、という有様で疲弊していて、気の毒な気がした。
彰二は、紘一の傍にも座ってみた。
無精髭こそ周二程では無いが、疲弊の具合は周と変わらない感じがした。
紘一の傍らに、学生帽と、本の束ねてあるブックバンドが落ちている。
周二は二十歳の工場勤務。紘一は十九歳、大学生になったのだ。
しかし、此れは気の毒だな、と彰二は思った。
社会の洗礼を受けた、という感じに見えるのである。
彰二は去年、二人の身長を追い越してしまって、今年は静吉と同じくらいの身長になってしまった。しかし、やはり二人は兄で、再来年は自分も、こういう目に遭うのかな、と思うと、何が二人の身に起きたのか、聞きたいような、聞きたくないような、複雑な気分になった。
「おや、彰。お早う」
「お早うございます、父さん」
「おやー、こりゃ派手だなぁ」
静吉は、居間に倒れて爆睡している二人を見て、おっとりと、そう言った。
暢気だな、と彰二は思った。
「外泊だと聞いていたのですが」
静吉は、そうだなぁ、と穏やかに言った。
「…逃げてきたかな。彰、朝食の後にでも、二人を銭湯に連れて行ってやりなさい」
「はい」
銭湯で、紘一は、絶対、大学の寮には入らないし部活もしない、と言った。
周二は眠そうにしていた。
二人共、終電過ぎに、歩いて帰ってきたらしい。
彰二は、益々、二人が気の毒になったので、細かい事情を聞かない事にした。
そして、今日は日曜日で良かったですね、と言った。
月曜日まで、ゆっくりすればいい、と彰二は思った。