あなたの恋愛、成仏させます。~モリノみかんセイノ心~
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
「みか~ん。みかんさん。みかんちゃん。み・か・ん」
どれだけ私の名前を呼ぶのよ。
私は頭が痛いのに。
「静かにしてくださいよ!」
「おっ、起きたか?」
目を開けると目の前に、聖野さんのベビーフェイスがあって驚いた。
近過ぎよ。
「あれ? あそこにあるのは私が着ていたドレス? えっ、待って、もしかして、、、」
私は、部屋の隅に飾られるように置いてあるドレスを見つけた。
そして私は布団をめくり、自分の姿を確認する。
キャラクター柄の可愛いパジャマを着ていた。
また、お姉さんが着せてくれたのかな?
「ごめん。ドレスは俺が脱がしたんだ。でも、みかんが勝手に脱ぎだして、俺が手伝っただけだからな」
「私は、そんな迷惑なことをしていたんですね?」
「迷惑じゃないけど、みかんがベッドで眠ったから、姉貴をつれてきて、パジャマに着替えさせたんだよ」
「お姉さんにも迷惑をおかけしたんですね?」
「姉貴は嬉しそうにしていたよ。小さな妹ができたってな」
「小さな妹?」
「そうだよ。だってみかんは子供じゃん」
聖野さんはクスクスと笑っている。
「見たんですよね? 変態!」
「何でそうなるんだよ? みかんが自分から脱ぎ出したんだよ。俺は見たじゃなくて見えただけだよ、少しだけな」
「見えた? やっぱり見たんですね?」
「何? どうしたの?」
驚きながら、お姉さんが部屋へ入ってきて言った。
お姉さんもパジャマ姿だった。
「私のパジャマは、お姉さんとお揃いですか?」
私は聖野さんが言った、お姉さんに着替えさせたということが真実なんだと、ここで信じた。
「そうよ。今からパジャマパーティーをするわよ」
「えっ、でも今は朝ですよ?」
「そうだけど、みかんちゃんは動きたくはないでしょう?」
「あっ、そうですね。頭がガンガンするんです」
「だから、今日は二人でいろんな話をしようよ」
「二人ですか?」
「そうよ。だから、あんたは出ていきなさい」
お姉さんは、聖野さんを見て言った。
「俺はお邪魔虫かよ」
「当たり前よ。あんたは女子会には参加できないんだからね」
「はいはい。女子会ね。ただ、ゴロゴロする会だろう?」
「いいから、早く出ていってよね」
姉弟喧嘩が始まる前に、聖野さんは出ていく。
仲の良い姉弟を見ていると羨ましくなった。
お互いが頼れる存在だったんだと思う。
お互いを励まし合いながら、生きてきたんだと思う。
そんな二人には、幸せに溢れた毎日を過ごしてほしい。
「みかんちゃん大丈夫?」
「えっ」
「あの子に何もされてない?」
「何がですか?」
「男は狼だって言うじゃない?」
「えっと、それは否定できないですけど、そんな簡単には狼にはなりませんよ?」
「そうね。狼になるのは満月の夜だったわよね?」
お姉さんは何を言っているのだろう?
狼の意味を分かっていないのでは?
「お姉さん、その狼の話は、誰から聞いたんですか?」
「ん? マンガよ」
「マンガですか?」
「そうよ。私は学校なんて行かなかったから、友達なんていないのよ。だから、マンガで恋愛のことは学んだわ」
「学校に行っていないのなら、字は読めないのでは?」
「学校には行ってはいないけど、教員免許を持っている人に教えてもらったから、お馬鹿さんではないわ」
「それでも、恋愛のことは教えてもらえないですから、知らなくて当然ですよね」
「恋愛は知っているわ」
お姉さんは少し拗ねているようだ。
可愛い一面もあるお姉さんは、本当に魅力的だ。
「恋バナしましょうか?」
「恋バナ?」
「はい。いろんな人の恋愛のお話を教えてあげます」
「本当? フィクションじゃないのね?」
「はい。私が出会った人達の恋愛です」
「教えてよ。本物の恋愛、私もいつかはするでしょう? その予習よ」
お姉さんは目をキラキラとさせて、私を見ている。
楽しみにしているのがよく分かる。
私は、恋愛成仏をした人達のお話をした。
恋愛は楽しいだけではない。
苦しいこともあるし、悔しいこともある。
悲しいこともあるし、傷つくこともある。
お姉さんはそんな恋愛の話を聞いて、どう思うんだろう?
「恋愛をしてみたいわ」
「どうして、そう思うんですか?」
「だって、みかんちゃんが楽しそうに話すからよ」
「楽しそうでしたか?」
「うん。それに、人を好きになりたいって思ったわ。そして私と同じくらい、相手も私を好きになってほしいわ。等価交換みたいにね」
「等価交換ですか?」
「うん。私は、相手に同じだけの好きをあげたいわ。多くても少なくてもダメなのよ」
「どうして同じじゃなきゃダメなんですか?」
「それは、、、みかんちゃん、私と手を重ねてよ」
お姉さんは、私の目の前に掌を向ける。
私はその掌に、手を重ねた。
「みかんちゃんと私の手は同じ大きさね。余りもなく、足りないこともない。同じだから、全てを受け取れるのよ」
「そうですね。全てを受け取らなきゃ、伝わらないんですよね。そこからすれ違いや勘違いのズレが起きちゃうんですよね」
「でも、同じ大きさの好きを探すのは大変よ。だから恋愛には、苦しいことも悲しいこともあるのよ」
「それでも恋愛は生まれるんです。人間には心がありますから」
「そうね。みかんちゃんには心がい(・)るものね」
お姉さんはニコニコと笑っている。
「ところで、みかんちゃんって妊娠してるの?」
「してないですよ。それに聖野さんとはお付き合いもしていませんよ」
「そうなの? あの子ったら、、、が違うみたいね」
お姉さんはぶつぶつと小さな声で言うから、聞こえない。
「お姉さん?」
「何でもないわ。ところで、みかんちゃんに相談があるのよ」
「相談ですか?」
「そうよ。私、お父さんに、仕事を手伝ってほしいって言われたのよ」
「お姉さんは、もう日陰にいなくてもいいんですよね? 良いお話じゃないですか? もちろん、承諾したんですよね?」
「まだ返事はしていないのよ」
「どうしてですか?」
「だって、お父さんったら、私を近くに置いて、守ろうとしているのがバレバレなのよ」
迷惑そうに言っているお姉さんだけど、本当は嬉しいんだって私には分かる。
「お父さんは、最初からお姉さんを守りたかったんですよ。どんなに嫌われても」
「お父さんの愛は変な形なのよ。だから分かりにくいのね」
「そうですね。愛はいろんな形があります」
「みかんちゃんにも、あの子にもね」
「そうです。いろんな愛し方があるんですよね。いろんな恋愛があるように、、、」
この数ヶ月で私は、いろんなことを学んだ。
成長した気がする。
「ねぇ、そういえば、チョコレートをお父さんから貰ったのよね」
そしてお姉さんは、たくさんのチョコレートをベッドの上に並べる。
いくらするのっていうくらいに、高級そうな包装に包まれたチョコレートもある。
「女の子はチョコレートが好きだからって、こんなにくれたのよ? こんなにたくさん買って、私は子供じゃないわよ」
「でも、チョコレートは好きですよね?」
「好きよ。みかんちゃんも好きでしょう?」
「はい。大好きです。女の子はチョコレートが好きですからね」
「そうね。そこだけなら、お父さんの言うことは当たっているわね」
そしてチョコレートの包装を開け、いろんな種類のチョコレートをお腹いっぱい食べた。
明日からダイエットをしなきゃ。
「あっ、みかんちゃん。このチョコレートには、洋酒が入っているみたいよ」
「あっ、食べちゃいました」
「少しだけだから大丈夫かしら?」
「そうですね。なんともないです」
「それなら良かったわ。飲み物がなくなっちゃったから、持ってくるわね」
そしてお姉さんは部屋を出ていく。
私はオレンジ色のドレスを見たくて、ドレスが飾ってある部屋の隅へ行く。
「本当、綺麗なオレンジ色。私の色。みかん色。なんちゃってね」
嬉しいな。
聖野さんが私の為に選んでくれたドレス。
私にピッタリなドレス。
聖野さんに会いたいなぁ。
聖野さんにありがとございますって言いたいなぁ。
聖野さんに好きだって言いたいなぁ、、。
◇
「みかん。おはよう」
私を呼ぶ声で目を開けた。
目を開ける前に、聖野さんだと分かっていた。
「おはようございます。あれ? お姉さんはどこへ?」
「帰ったよ。みかんもな」
「私もですか?」
私は部屋を見て気付いた。
ホテルのスイートルームではない。
「聖野さんのお部屋ですか?」
「そう。みかんがチョコレートの洋酒で酔っ払ったから、そのまま連れて帰ってきたんだよ」
「また迷惑をかけちゃいましたよね?」
「いいよ、それがみかんだからね」
「私は、そんなに何度も酔っ払っていません」
「そうか? いつも、俺が起こしている気がするんだけどな?」
「気のせいです!」
聖野さんが私をからかうから、私は聖野さんに背を向けた。
「みかん、そのまま聞いてほしい」
聖野さんは私の背中に手を当てて言った。
「はい」
「俺の恋愛成仏の三つの掟を教えてやるよ」
「三つの掟ですか?」
「一つ目、どんな恋愛成仏でも安売り禁止」
「それって掟にしていたんですね。私はその掟を破っちゃいましたよ」
「二つ目、どんな恋愛成仏でも接触禁止」
「ん? それは依頼人に対してではないですよね?」
「三つ目、どんな恋愛成仏でも恋愛禁止」
「二つ目と三つ目の意味が、よく分からないんですけど?」
私は聖野さんの方を向こうとすると、聖野さんの背中を押さえる力が強くなったから振り向いたらいけないと思い振り向かない。
「聖野さん?」
「この掟、俺は全部守れていないんだ」
「守れない掟なんて作るからですよ」
「いいや、今までは守れていたんだ。この掟があるから、何も問題なんて起きなかった」
「何か守れない事情ができたんですか?」
「うん、、、」
なんだか、聖野さんが子供みたい。
私の背中に隠れて、何かを言いたそうにしているから。
「教えてください。その守れなかった事情を」
「それはみかんに出会ったからだよ」
「私ですか?」
「みかんにはお金は請求していないし、みかんには嫌がれるほど触れている。それにみかんを、、、」
「聖野さん、待ってください」
「えっ、何で?」
「その前に私の恋愛成仏をお願いします」
「何で今なんだよ?」
「今じゃなきゃダメなんです」
私は聖野さんの方を向く。
「私はまだ、聖野さんからは、あの言葉を聞いていません。だからまだ依頼は成立していないんですよ?」
すると、聖野さんは私から離れてベッドの横に立ち、私を見下ろした。
「あなたの恋愛、成仏させます」
聖野さんの真剣な眼差しに、目が離せなくなった。
「やっぱりベビーフェイス」
私は思ったことを口にした。
「みかん、お前は最初の頃と何も変わらないな」
聖野さんは呆れ顔で言った。
聖野さんは変わったみたいね。
最初は怒っていたのに。
「私は変わりましたよ」
「どこがだよ?」
「私の恋愛、成仏しましたから」
「えっ」
「それと、聖野さんも変わりましたよ?」
「俺が?」
「聖野さんは知らない人から、お隣さんに昇格です」
「部屋が隣だからお隣さんってことだろう? それって喜んでいいのかよ?」
「喜んでいいんですよ。お隣さん」
私はそう言うと、聖野さんの腕に抱き付いた。
私の隣にはいつも聖野さんがいる。
だからお隣さん。
聖野さんには秘密だよ。
「ところで、さっきの続きは何だったんですか?」
「ん? さっき? 覚えていないな」
聖野さんは忘れたフリをしている。
私がせっかく、掟を守れていることを教えてあげたのに。
「掟は、ちゃんと守ってくださいよ」
「ん? それはみかんに誓うよ」
「私にですか?」
「掟はみかんがお隣さんである限り、守り続けるよ」
「その誓いが守れなかったら、聖野さんは知らない人に格下げですからね」
「それは絶対にないよ。だって無敵のみかんがお隣さんだからね」
聖野さんは、お隣さんの意味を分かっているのかもしれない。
でも、もしかしたら違う解釈で、私がお隣の部屋に、住み続けるんだと思っているのかもしれない。
「なあ、みかん」
「何ですか?」
「みかんの恋愛は俺が成仏させたのか?」
「そうですよ。他に誰がいるんですか?」
「だって、みかんに何かした記憶がないんだよ。紙に書かせて思い出の整理をさせたのも、みかんをお姫様扱いしたのも、意味がなかったみたいだし」
「そんなことはありません。聖野さんは凄いです。ですので助手として、これからも宜しくお願いします」
「お隣さんの助手でいいんだよな?」
「はい。お隣さんの助手のみかんです」
「みかんちゃん」
ドタバタといきなりお姉さんが、聖野さんの部屋へ入ってきて、私と聖野さんは急いで距離をとった。
「お姉さん、どうしたんですか?」
「それが、お父さんが一緒に寝ようとか、一緒にお風呂に入ろうとか言ってくるの。私は大人なのよ。そんなの無理だから逃げてきちゃったよ」
「だから走ってきたんですね。でもお父さんは、取り戻そうとしているんですよ。お姉さんとの失った時間を」
「でも、子供じゃないんだから、限度があるわよ」
「少しくらいは許してあげてくださいよ。一緒にお風呂はダメですけどね」
「お風呂はみかんちゃんと入るわ」
それは無理ですよ。
子供体型の私がお姉さんとお風呂なんて、惨めですよ。
恥ずかし過ぎです。
「だから、心は出ていきなさい」
「はあ? ここは俺の部屋なんだよ」
「それなら心は、外で待っていなさい。お風呂から上がったら呼ぶわ」
「隣のみかんの部屋で入れよ」
「そうね。みかんちゃん、行こうよ。心なんて置いてさ」
お姉さんはそう言いながら私を見た。
お姉さんは私の顔を見て、どうして不思議そうにしているの? と訊いてきた。
「あの、心って名前ですか?」
「えっ、私ったら、心って言っていたかしら?」
「はい。聖野さんを心と何度も言っていましたよ」
「心と二人の時だけ名前で呼ぶんだけど、どうしてみかんちゃんがいるのに言っちゃったのかしら?」
「姉貴、みかんはいいんだよ」
「えっ、でも、、私は、心が自分で伝えてほしかったわ」
お姉さんは、申し訳なさそうにしている。
「姉貴、ありがとう。伝えるきっかけをくれて」
「私は帰るわ。心がみかんちゃんに、全てを話さなきゃいけないものね」
「姉貴、父さんに、明日そっちに行くからと伝えててくれないか?」
「いいわよ。みかんちゃんとのお風呂はまた今度ね」
お姉さんは、私をギュッと抱き締めて帰っていった。
「台風みたいな人ですね?」
「うん。姉貴は昔から隠れて生きてきたから、動きは速いんだよ。もし姉貴が人に見られたら、母さんが父さんに怒られるからね」
「もしかして、お母さんがお姉さんと、ずっと一緒にいたんですか?」
「そう。姉さんは一人じゃなかったから、生きていけたんだよ」
「お姉さんには、ずっと笑っていてほしいです。もし、お姉さんを傷付ける人がいたら私が許しません!」
「そうだな。でも姉貴には、ずっと味方が傍にいるから良かったよ」
お姉さんには傍に味方がいた。
でも、聖野さんには?
子供なのに大人扱いをされた、幼い頃の聖野さんには味方はいたの?
「みかん、俺は大丈夫だよ」
「えっ」
「俺にはみかんが味方だから。姉さんも母さんも父さんもおじいさんもな」
「今はそうでも、、、」
「今が大事なんだ。俺には今、この瞬間さえ大事なんだよ」
「私も大事です。今、この瞬間さえ忘れたくはないです」
「みかん、ありがとう」
聖野さんが笑った。
ベビーフェイスのせいじゃない。
本当に子供のように、心から笑っている。
それから、聖野さんの名前の秘密を教えてもらった。
聖野さんのお母さんは、男の子が産まれたら心と名前をつけることを決めていた。
お姉さんには愛情を示さないお父さんに、男の子なら大切に育てると言われたから。
自分の心を失うことがないように、そしてお姉さんやお母さんの心も一緒だという意味を込めて心と決めた。
そして男の子が産まれると、お父さんはお母さんから赤ちゃんを奪った。
名前だけはつけたかったお母さんは、お父さんに心と書いた紙を渡した。
お父さんはその紙の心をシンと読んだ。
お母さんは自分で出生届を出した。
心という名前で。
だから聖野さんはシンと呼ばれているが、お母さんとお姉さんにはココロと呼ばれている。
名前と同じで、心はいつも一緒。
そんな絆ができていた。
「どうして私は、シンさんと呼んだらダメなんですか?」
「それは、みかんがオレンジ色のドレスとブラックダイヤのネックレスを身に付ける相手だからだよ」
「それって、答えにはなっていないですよね?」
「みかんが、お隣さんの助手ってことだよ」
「そうですね。これからは、いろんな人にシンさんじゃなくて、本当の名前のココロさんって呼ばれるんですよね? だから、私がシンさんなんて呼ぶ必要はないですよね」
「うん。だから、それを父さんに明日、伝えようと思っているんだ」
「明日? それは今から伝えてください。そんな大事なことは早く言わなきゃダメです」
私は聖野さんの腕を引っ張りながら言った。
「分かったから、みかん落ち着けよ」
聖野さんは私を引き寄せ抱き締めた。
「みかんは、いつも良い香りがする」
「変態!」
私は聖野さんから離れる。
「いいじゃん。みかんは、お隣さんの助手なんだからさ」
「ダメです。今はダメです」
「だったら、いつならいいんだよ?」
「昇格したらです」
「昇格? お隣さんの助手の上は何なんだよ?」
「それは、、、考えておきます。ですので、お父さんの所へ行ってください」
「今から行く必要ってあるのかよ?」
「今行かなかったら降格ですよ?」
聖野さんは、仕方がないと行って部屋を出ようとする。
でも、出て行く前に振り向いた。
「みかんが名前を呼んでくれたら行くよ」
「心さん、いってらっしゃい」
「いってくるよ」
聖野さんは照れながら出ていった。
私まで照れちゃったよ。
◇◇
「聖野さん、大変です」
「朝っぱらからうるさいんだよ。みかんは」
寝起きの聖野さんは、私の腕を引っ張り、私はバランスを崩し、ベッドに横になっている聖野さんの胸へ顔からダイブした。
「もう! これじゃ、手錠の意味が無いですよ」
「手錠は、両手につけるのが本当の使い方だからな」
「今の本物の警察官みたいでしたよ?」
「みかん、俺をバカにしているだろう?」
「してませんよ。本物のお巡りさん」
聖野さんは、警察官だったの。
いつも忙しそうにしていたのは、刑事さんだからなの。
昨日も遅くまで、お仕事だったみたい。
昨日は、私が聖野さんの部屋で帰りを待っていたら、いつの間にか眠っちゃってたの。
だから、私達のお隣さんの掟に従って、聖野さんは手錠をして眠ったの。
「みかんの良い香りがするよ」
「変態!」
「いいじゃん。もう、いい加減、昇格してもいいんじゃないのか?」
「ダメです。聖野さんはまだ、お隣さんです」
私は聖野さんの胸を押して顔を上げ、体を起こす。
「そんなことより、依頼です」
「依頼の方が大事なのかよ?」
「大事ですよ。困っている方がいるんですよ?」
「そうだな。それで、どんな恋愛を成仏させるんだ?」
「それは、依頼人さんが幼馴染みへの想いを、成仏させたいそうです」
「まずは、話を聞こうか?」
「そうですね。彼女とは九時に、あのカフェで約束をしています」
「そうか。それならまだ時間はあるよな? 俺は寝る」
聖野さんはそう言って、私を抱き締め目を閉じた。
でも聖野さんの私を抱き締める力は弱い。
私は簡単に、その腕から逃げることはできるけど、逃げない。
だって、この場所は落ち着くから。
「みかんちゃん、聞いてよ」
お姉さんの叫ぶ声に気付いて、私は聖野さんから離れる。
聖野さんは、またかよと言って寝たフリをする。
「お姉さん、今日はどうしたんですか?」
「それがね、お父さんがドレスをたくさん用意して、私をパーティーに出席させたがるのよ。私を見せびらかしたいんだってよ」
お姉さんは、迷惑と付け加えたけど、嬉しそうに言っている。
「お姉さんは綺麗なんですから、自慢したくなるのは分かります」
「それなら、みかんちゃんも一緒に来てよ」
「私は無関係の一般人ですので、パーティーなんて参加できません」
「みかんちゃんは関係者よ。あのブラックダイヤのネックレスは、関係者しかつけることができないのよ?」
「あの時は、私が聖野さんの助手だったからですよ」
「ちょっと、心。狸寝入りなんてしないで、ちゃんと説明しなさいよ」
お姉さんは聖野さんのお腹を叩く。
「痛いなぁ。俺はまだ、みかんのお隣さんなんだよ」
「意味の分からないことを言うのは、やめてくれるかしら?」
「その壁に貼ってある、『みかんのお隣さん掟』を見ろよ」
そして壁に貼ってある、『みかんのお隣さん掟』をお姉さんは読む。
「第1条、お隣さんはみかんの部屋へは勝手に入らないこと。第2条、お隣さんはみかんと一緒に寝る時は手錠をすること。第3条、お隣さんはみかんに門限を作らないこと。第4条、お隣さんはみかんに禁酒なんて言わないこと」
お姉さんは全部を読む前に、呆れて読むのをやめた。
「みかんちゃんのお隣さんへの苦情ね」
「苦情? みかんが?」
「これって、徐々に増えていったでしょう?」
「そうだよ。最初は二個だけだったんだからな」
「これを見て何も気付かないなら、お隣さんのままね」
「えっ、何だよそれ?」
お姉さんは気付いたみたい。
この掟の一番下に、小さく書いてあるのよ。
『この掟はお隣さん専用。お隣さんから昇格すれば、全て無効です』
「あっ、聖野さん。依頼人さんとの待ち合わせ時間に遅れそうですよ」
「えっ、もう時間なのか? 俺、ほとんど寝てないんだけど?」
「それなら私が一人で行きましょうか?」
「いいや、俺も行くよ。みかんはボランティアで依頼を受けるだろう? 俺は依頼人の本気度をみたいんだよ」
「聖野さんの想いは分かっています。だから私は、聖野さんのお手伝いができる助手がちょうど良いんです」
私の言葉を聞いて、聖野さんは笑った。
ベビーフェイスで子供のように。
「みかん、行こう」
「はい」
私は聖野さんの隣で、あの言葉を聞いていたい。
聖野さんが、救いたいという想いの言葉を。
「あなたの恋愛、成仏させます」
私も救いたい。
みかんと心さんの二人で。
森野みかんと聖野心の二人の関係は、まだまだ未完成。
あなたの恋愛、成仏させます。~モリノみかんセイノ心~
みかんと心が、あなたを救います。
あなたは、どのくらい本気ですか?
あなたは、いくら払えますか?
あなたの恋愛成仏に。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。




