最後から二番目の恋愛、成仏させます
「なに、ニヤニヤしてるの?」
車に乗って、ドレスが置いてあるブランドショップへ向かう車中で、お姉さんに言われた。
「ニヤニヤなんてしていませんよ」
「嘘よ。あの子と同じ顔で笑っていたわ」
「同じ顔ですか?」
「そうよ。子供のように笑っていたのよ」
いきなりお姉さんは真面目な顔になった。
「昔のあの子は、子供だからという逃げ場はなくて、怖いくらいに冷たい目をしていたわ」
「お姉さんは、そんな聖野さんを支えていたんですか?」
「私は、私で、色々あって、あの子を助けることができなかったのよ、あの頃はね」
「お姉さんも、聖野さんと同じような目にあっていたんですか?」
「私は、存在すら認めてもらえなかったのよ」
「えっ」
「私は女の子だから、跡取りにはなれないからって、私に話し掛けることすらしなかったわ、あの男は」
怒ってもいいのに、お姉さんは涼しい顔で言っている。
まるで他人事のように。
そうやって、自分の心を守っているんだと思う。
「だから私はメイドになって、あの子を守ることを思いついたのよ」
「それでメイド服姿なんですね? 聖野さんには、守っていることがバレないように、趣味だと言っているんですよね?」
「そうよ。あの子は優しいから、私をこの家の支配から解こうとするのよ」
「支配ですか?」
「私は存在すらしないから、結婚をすることも認められていないの」
「ヒドイです。どうして自分の子供にそんな仕打ちをするんですか?」
「あの男は、狂っているのよ。自分の父親を憎みすぎて、自分も同じ過ちをおかしていることに、気付いていないのよ」
お姉さんの目に怒りの感情が見えた。
やっと、お姉さんの本当の感情が出てきた気がした。
「お父さんには伝えましたか?」
「伝える? 何を?」
「お姉さんが苦しんでいること、お父さんもおじいさんと同じ過ちをおかしていることを」
「言える訳がないわ。あの男の前に立つだけで、睨まれて動けなくなるのよ? それに、前に立つことさえできないのが現状よ」
「聖野さんは、お父さんとはお話はするんですか?」
「どうかなぁ? あの子は仕事が忙しそうだからね」
「そうですね。夜、帰ってこない時もありますからね」
「みかんちゃんったら、あの子のお嫁さんみたいね」
お姉さんは、私をツンツンとつつきながら言った。
真剣な話をしていたのに、いきなりふざけるお姉さんの神経は凄い。
「みかんちゃんが、お嫁さんになれるかは、分からないけどね」
「お嫁さんなんて、そんなこと考えたこともないです。やめてくださいよ」
「でも、お嫁さんどころか、恋人にもなれないかもよ?」
「どういうことですか?」
「今日は、あの子とニイナちゃんの婚約発表のパーティーよ?」
そんなことは知らない。
そんなパーティーにどうして私を連れていくの?
私にニイナちゃんの、可愛いドレス姿を見せる為?
私があのドレスを気に入っているから、もう一度だけ着せてあげようとでも思ったの?
「あれ? あの子から聞いていなかったの?」
「はい」
「それなら言わない方が良かったわね? このことは
知らないことにしてね」
お姉さん、もう遅いよ。
私、惨めだ。
どうしよう。
行きたくない。
でも、聖野さんが遠くへ行っちゃう。
「私もパーティーには参加はするけど、メイドとして中に入るから、何かあったら言ってね」
「はい」
「それと、あの子から預かったモノがあるの。私とあの子のおばあさんの紙って言えば分かるわよね?」
「はい」
お姉さんの言葉なんて頭の中に入ってはこない。
帰りたい。
私はお姉さんみたいに強くないよ。
自分のことを他人事のように考えられない。
車はブランドショップの前に着いた。
あのドレスの前に立つと震えた。
怖い。
「みかんちゃん、私ね、ドレスなんて着たことがないのよ? お金持ちの家に産まれたのにね」
お姉さんは私の着るドレスを見ながら、羨ましそうに言った。
「このドレスはお姉さんの為にあるんですよ」
私はこのドレスを着れない。
それなら、お姉さんが着ればいいのよ。
そうすれば、私はパーティーへ行かなくてもいいのかもしれない。
「そんなことはないわ。このドレスはあの子が、みかんちゃんの為に見つけてきたのよ? それに色々とアレンジをして、そんな大切なドレスを私が着れる訳がないわ」
「でも私は、ここでドレスを一人で着たくはないんです。今も怖くて手が震えています」
私はお姉さんの腕に、震える手を乗せた。
「どうすれば怖くなくなるの?」
「お姉さんも一緒にドレスを着てください」
「でも私にはドレスなんてないわ」
「ありますよ。ここはブランドショップですよ?」
「でも、、」
「一緒に選びましょうよ」
そして私達はドレスを選ぶ。
お姉さんはスタイルが良い。
細い足を強調したいわ。
お姉さんには赤色のドレスが似合うはず。
それに、スカートの後ろの裾が前よりも長いものにすれば、細い足を強調できるはず。
私はお姉さんにドレスを選び、二人でドレスに着替えた。
お姉さんは、初めて着るドレスに緊張していた。
「お姉さん、とてもお似合いです」
「そうかな?」
「お姉さんは無敵です」
「それは、みかんちゃんよ」
「いいえ、まだメイクもしていないのに、ドレスだけでこんなに目を引くなんて、お姉さんは無敵ですよ」
「ありがとう、みかんちゃん」
お姉さんが嬉しそうに笑った。
私も嬉しくなって笑った。
「みかんちゃん、こんなことしている時間は無いのよ。パーティーに遅れちゃうわ」
「はい、早くメイクをしてもらいましょう」
それからバタバタと支度をした。
私は、大きな黒い宝石がついたネックレスを、またつけられた。
呪いの石なんてつけたくはないのに。
お姉さんにも、これは絶対につけなきゃダメだって言われたの。
車に乗ってパーティー会場のホテルへ向かう。
この前と同じ場所だった。
勝手に車のドアが開いたと思ったら、聖野さんが開けてくれていた。
「姉貴? 何で?」
「みかんちゃんが一人じゃ怖いって言うから、一緒にドレスを選んで着たの」
「でも姉貴は、、」
「分かっているわ。私はここまでよ」
「どうしてですか?」
私はお姉さんの腕を掴む。
嫌だ。
一緒にいてほしいの。
「みかんちゃん、ごめんね。私は目立っちゃダメなのよ。ずっと日陰で過ごしてきたわ。少しだけでも日向に出られただけで充分よ」
「お姉さん、貴女に意思はないんですか?」
「あるわ。だからここでお別れなのよ。みかんちゃんよりも、私はパーティー会場が怖いのよ」
「お姉さん、私がいます。私達は無敵なんですよね?」
「みかん、姉貴は無理なんだよ。解ってほしい」
私は聖野さんに腕を掴まれ引っ張られる。
前と同じになっちゃう。
怖いよ。
痛いよ。
「やめて!」
お姉さんが、聖野さんの手を払った。
「みかんちゃんが震えているわ。怖いのよ。みかんちゃんを怖がらせたら、弟でも許さないわ」
「姉貴、でも、早くパーティーに行かないと、遅刻したらあの人は、機嫌が悪くなるんだよ」
「でも、みかんちゃんに無理はさせられないの」
「お姉さんが隣にいてくれるのなら、私は大丈夫です」
私はお姉さんを頼るように言った。
「みかん、それは絶対に、、、」
「いいわ、行くわ」
お姉さんが聖野さんの言葉を遮って言った。
「でも、姉貴、大丈夫なのか?」
「どうせ、私のことなんて見ていないわ。それに、あの男は、私の顔も覚えてなんかいないわ」
聖野さんは心配そうにしているが、お姉さんの決意が固いことに気付くと、呆れ顔になった。
「みかんちゃん、歩ける?」
「はい!」
「元気が良いわね。さっきのは演技かしら?」
「違います!」
「そうね。演技だったら、みかんちゃんは女優さんになっているわよ」
お姉さんはニコッと笑った後、行くわよと言って、車を降りた。
背筋を伸ばし、高い身長に高いヒールがお姉さんの存在感を際立てていた。
お姉さんを二度見する人がたくさんいた。
お姉さんの美しさは、誰の目にも映って輝いている。
もう、お姉さんを日陰なんかには戻したくはない。
「お姉さん」
私はお姉さんを呼び、お姉さんの腕をしっかりと持って、隣を歩く。
お姉さんがいることで安心した。
聖野さんはやれやれという顔をしながら、私の隣を歩く。
エレベーターに乗って最上階へと向かう。
その間もお姉さんは、前を真っ直ぐと見ていた。
お姉さんが、一番怖いんだと思う。
だから私は大丈夫だよと言うように、お姉さんの腕に頬を寄せた。
エレベーターを降りて、大きな扉の前に三人で立つ。
大丈夫。
何も怖くはない。
お姉さんがいる。
聖野さんがいる。
「二人とも、何があっても前を見てろよ。二人とも俺が守るから。胸を張れよ」
聖野さんが扉を開けながら言った。
「お姉さん、私達は無敵です」
「うん」
扉が開くと、眩しくて目を閉じてしまう。
すぐに目を開けると、キラキラな世界が広がっていた。
私達が会場へ入ったのを誰も見ていない。
誰もが、自分をよく見せることで必死だから。
「あっ、ニイナちゃんがいますよ?」
「それならみかんと姉貴はニイナといてくれ。俺はあの人に、来たことを伝えてくるよ」
聖野さんは言いながら、会場の奥にいる男の人を見る。
あの人が聖野さんのお父さん。
怖そうな雰囲気はする。
威厳というより威圧感が凄い。
「ニイナちゃん」
「みかん、久し振りだね? そちらの方は?」
「聖野さんのお姉さんだよ」
ニイナちゃんの所へ行くと、ニイナちゃんは、お姉さんには気付かなかった。
「えっ、お姉さん? だってお姉さんは、、」
「みかんちゃんが怖いって言うから、変装して来たのよ」
「いつもはメイド服姿なのに、ドレスは本当にお似合いです」
「そうでしょう? みかんちゃんが選んでくれたのよ」
ドレスをヒラヒラとさせながら、お姉さんは嬉しそうにしている。
「おいっ、何でお前がいるんだ?」
いきなり大きな声が会場に響いた。
声のする方を見ると、聖野さんのお父さんが、恐い顔で見ていた。
私だよね?
部外者の私に怒っているんだよね?
どうしよう。
お父さんはどんどん近付いてくる。
そして私の前に立つ。
怖くて震える。
この威圧感は堪えられない。
「お前は、こんな所に来てはいけないんだと言ったよな?」
お父さんは、私じゃなくて、お姉さんに言っていた。
どうしてあんな遠くから、お姉さんだって気付いたの?
ニイナちゃんは、近くでも気付かなかったのに。
「早く出ていけ」
お姉さんはうつむいていて、表情は分からない。
でも震えている。
「何してんだよ。早く出ていけよ」
お父さんは、お姉さんの腕を掴み、引っ張る。
乱暴すぎよ。
「出ていかないわ」
お姉さんはお父さんを睨み付けて言った。
「お前は存在しないんだ。お前はここにいたらいけないんだよ」
「私は存在しているわ。今ここで、みかんちゃんやニイナちゃんの前に存在しているわ」
「うるさい。生意気な娘だな」
そしてお父さんは、お姉さんに向けて手をあげる。
しかし、その手はお姉さんには当たらない。
聖野さんが、止めたから。
「汚い手で姉貴に触るなよ」
聖野さんの怒っている顔を初めて見た。
お姉さんがそれほど大事なんだって分かる。
「お前は、親に向かってそんな口をきくのか?」
「親? 誰が? 自分の憎しみだけの為に、子供を犠牲にする親がどこにいるんだよ?」
「犠牲? ワタシはお前達の為を思ってやっているんだ。それなのにお前達は恩を仇で返すのか?」
「恩だと? それならアンタが言う、恩っていうやつを今から返してやるよ」
そして聖野さんは私に近付く。
「俺はみかんと結婚するよ。みかんのお腹には俺の赤ちゃんがいる。俺はこの聖野財閥を継いだりはしない。俺は一人の人間として生きていくよ」
聖野さんの言葉に皆が驚いていたけど、私も同様に驚いていた。
結婚?
赤ちゃん?
私と聖野さんって、付き合っていたかな?
私って妊娠していたかな?
聖野さんの力強い言葉に、一瞬だけ自分の中で確認をしてしまった。
「何を言っているんだよ。お前はニイナさんと結婚をして、この聖野財閥を今よりも大きくするんだよ。それが母さんへの償いなんだ。あの男のせいで、、、」
お父さんは崩れるように、座り込んだ。
そんなお父さんを見ていると、おばあさんの紙を思い出した。
紙を小さく畳んで、ドレスのポケットに入れていた。
その紙を取り出し、私はお父さんに近付いた。
「おばあさんは、おじいさんを、ちゃんと愛していましたよ?」
「君に母さんの気持ちなんか、分からないに決まっているだろう?」
「本当のところは分かりません。でも、この紙を読んで気付いたんです」
「紙?」
「おばあさんが、おじいさんを嫌っていた証拠の紙です」
「あの紙か。母さんの悲痛な叫びが書かれた紙だろう?」
お父さんはそう言うと、怒りで顔を歪めた。
「この紙は、おばあさんの悲痛な叫びに読み取れますが、よく考えてみて下さい。どうしてこんな紙に書いたのですか?」
「あの男にバレないように、チラシの裏に書いたんだよ」
「チラシの裏って、メモ紙として使う人が多いですよね?」
「そうね。私のお母さんは電話の横に小さく切って置いてあるわ」
ニイナちゃんが思い出すように言った。
「ニイナちゃん、そのメモ紙をお母さんはどうしますか?」
「すぐに捨てるわ。だからチラシの裏なのよ。買う必要なんてない、お金がかからないものだから」
「そうですよね。すぐに捨てるからチラシの裏なんです」
「じゃあ、その紙はすぐに捨てるつもりで書いたって言うのか?」
「そうです。その証拠がこのチラシの表部分にあります」
「表?」
お父さんにチラシの表の部分を見せる。
「五月五日、お寿司頼む。お父さんにはお分かりですよね?」
「あの男の誕生日だよ」
「はい。おじいさんの誕生日に、お寿司を頼むのを忘れないように、メモをしたんです。お寿司ってどの家庭もお祝いの時に食べますよね?」
「でもメモなら裏に書けばいいだろう?」
「先に裏には書いてあったんですよ。おじいさんに対する自分のヒドイ態度を」
「えっ、この紙には、あの男が嫌いってことではなく、母さんのあの男への態度の悪さを書いたのか?」
お父さんの頭の中は、訳が分からなくなっているのかもしれない。
だから私は一つずつ丁寧に伝えた。
おばあさんの想いを。
『あの人は私を散歩に誘った、私は部屋から出ない。あの人は私を花見に誘った、私は無視。あの人は私を旅行へと誘った、私は行きたくないと断った。あの人は私を蛍の泉へと誘った、私は蛍を持って帰ってきてと頼んだ。あの人は私を見張っている、私は逃げることもできない。あの人は私を食事に誘う、私は自分の部屋で食べる』
私は一度、読むのを止める。
だって、おじいさんがパーティー会場へ入ってきたから。
「その紙は、ワシが彼女に書くように勧めたんだよ」
おじいさんは、座り込んでいるお父さんと同じように座り込むと言った。
「彼女が、前の男を忘れたいと泣きながら言ってきたんだよ。だからワシが、一度紙に書いて整理したら良いと伝えたんだ」
「それなら何で、忘れたい相手のことを、書いていないんだよ?」
「書いたよ。ワシの目の前で読んだ後、ビリビリに破いたよ。その後、二人で出会った頃からのことを思い出しながら、その紙に書いたんだ」
「何でそんなことを、今になって言うんだよ?」
お父さんが、後悔するような顔でおじいさんに言う。
「ワシも悪いんだ。初めて会った時に、彼女を好きになってしまったから。その負い目で、お前に何も言えなかったから」
おじいさんも、後悔するような顔をしている。
「でも、孫達には関係ないことなんだよ。ワシの大事な孫達には自由に生きてほしいんだ。そして彼女が亡くなる直前まで、大事に抱き締めていたお前にも、関係ないことなんだよ」
「俺は子供達が、母さんのようには、なってほしくはなかったんだ」
「だから、お姉さんを見て、すぐに気付いたんですよね? お姉さんが誰かの目に映らなければ、おばあさんの様にはならないと思ったんですよね?」
私はお父さんに微笑みながら言った。
だって、お父さんにとって子供が、一番大事だと分かったから。
ただ、守り方が悪かっただけ。
「みんな帰ってくれ」
お父さんがいきなり立ち上がり、大きな声で言った。
その場にいた私達は首をかしげる。
お父さんは、拗ねたのかな?
「今から家族団らんの時間なんだ。関係ない者は帰ってくれ」
お父さんの言葉を聞いて、家族のみんなはホッとしていた。
家族団らんなら、私は帰らなきゃ。
「それでは私は帰りますね」
聖野さんにそう言って、帰ろうとすると、いきなり腕を掴まれた。
振り向くとお父さんが優しい笑顔で見ていた。
「君には本当にすまないことをしてしまったよ。君一人の体じゃないって言うのに」
お父さんの言っている意味が分からない。
すると、私の腕を掴んでいるお父さんの手を払い、聖野さんが私を引き寄せた。
私はバランスを崩して倒れそうになったが、聖野さんが後ろから支えてくれた。
「みかんに触るな」
「聖野さん。お父さんに、そんな言い方はないと思います」
私の上から言う聖野さんに、私は顔を聖野さんへ向け見上げて言った。
「でもな、みかんは、この前のパーティーでこの人に、お酒じゃなくて睡眠薬を飲まされたんだよ」
「えっ、、、だから眠かったんですね」
「怒らないのか?」
「お酒よりはマシです」
「はあ?」
聖野さんは私を見下ろし、眉間にシワを寄せている。
「お酒は頭が痛くなっちゃうので」
「みかんらしい答えだな」
「私のことなんて全く知らないですよね?」
「全くじゃないよ。一人で恋愛をしていたのは知ってるよ」
聖野さんは、ニヤニヤしながら言っている。
私をからかっているんだ。
「それでは、家族団らんのパーティーを始めよう」
お父さんの言葉で、会場に音楽が流れる。
料理も飲み物もたくさんある。
家族団らんの中に、私はいてもいいのかな?
あれ?
ニイナちゃんもいるんだね。
もしかして、婚約の話はなくなっていないの?
そうなると、私だけがここに居場所がない。
私、いてもいいの?
「みかん」
「ニイナちゃん、どうしたんですか?」
「これ、ジュースみたいだから飲んでよ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
私はグラスを受け取った。
可愛い淡いオレンジ色の飲み物。
「そのブラックダイヤの意味を知ってる?」
ニイナちゃんは、私のネックレスを指差す。
「ブラックダイヤなんですか? ダイヤなら高価ですよね?」
「ブラックダイヤは、普通のダイヤと比べると価値は低いのよ。昔は呪いのダイヤって呼ばれていたくらい、好まれなかったみたいよ」
「呪いのダイヤなんて聞いたら、誰でも嫌ですよ。でも今は、呪いのダイヤとは呼ばれてはいないんですよね?」
「そうよ。今では、、、みかん、それ美味しいから早く飲んでよ」
ニイナちゃんに話を変えられた。
このジュースを飲めば、教えてくれるかな?
私はジュースを一気に飲んだ。
「甘くて美味しいです。ニイナちゃん、このダイヤは今は何て呼ばれているんですか?」
「そんなに赤い顔なんてしなくても、教えるわよ」
「赤い?」
そういえば、さっきから頬が熱い。
「そんなに知りたいからって興奮しないでよ」
「それなら早く教えてくださいよ」
「分かったわよ。今の呼び名は、守りのダイヤよ。でもね、そう呼ぶのは、ここにある、このブラックダイヤだけよ」
「このブラックダイヤだけですか?」
「そうよ。普通のダイヤより価値が低いのは、人工物だからよ。でもこのブラックダイヤは、天然の物。そしてこんなに大きいのは、聖野財閥しか持っていないみたいよ」
「えっ、世界でたった一つですか?」
「そうみたいよ。だから聖野財閥が持つブラックダイヤは、守りのダイヤって呼ぶの」
「ま、、も、、り、、」
私、またお酒を飲んだみたい。
いつものように足に力が入らなくなる。
そんな私の体を聖野さんが支えてくれた。
「ニイナ! みかんにお酒を飲ませたか?」
「うん。だって、みかんは飲める歳だよね?」
「飲める歳でも弱いんだよ」
「えっ、ごめんね。大丈夫?」
「明日までぐっすりだろうな」
「そうね、眠そうよ」
「うん。俺とみかんは部屋で休むよ」
「そうした方がいいわね。でも、、、」
私は、ニイナちゃんの言葉を最後まで聞かずに眠くて目を閉じた。
聖野さんの私を支える手に、力が入る。
その手からは、優しさが伝ってくる。
とても安心する。
だから眠くて体も動かないし、目も開かない。
それでも聖野さんには、大事なことを伝えたい。
「おじいさんは、おばあさんの最後から二番目の恋愛を成仏させました。めでたしめでたし」
「みかん?」
「みんな幸せです」
「そうだな」
私の体はフワフワと宙に浮いている感覚になる。
温かい何かに包まれているようだった。
「おやすみなさい」
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
明日は最終話です。
明日の朝6時頃に投稿いたします。




