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片想いの恋愛、成仏させます。

ブックマーク登録や感想、いいねや評価など誠にありがとうございます。

執筆の励みになります。

「あっ、着信だ」


 私が大学から車で家へ帰っている途中、スマホに着信が入った。

 登録をしていない番号に、不信感を持ちながら出た。


「はい、もしもし」

「あの、みかんちゃんのお電話ですか?」

「はい、そうですが?」

「僕は、りんこちゃんのお姉さんの同僚の者です」


 りんこのお姉さんが言っていた依頼人さんだ。


「あっ、依頼人の方ですよね?」

「そうです。お金はあります。どうか僕の恋愛を成仏させて下さい」

「分かりました。お電話では長くなると思うので、一度お会いしませんか?」

「そうですね。仕事が五時に終わるので、五時半頃に、みかんちゃんの大学の近くにあるカフェでいいですか?」

「はい、大丈夫です」

「それでは、また後で」

「はい、それでは」


 電話を切って、聖野(せいの)さんに連絡をしようと思ったけど、帰って話せばいいと思って連絡はしなかった。

 一度家へ帰り、五時まで暇潰しの為、外の景色を見た。


 こんな景色をいつも見られるなんて、羨ましいなぁ。

 でも聖野さんって、この景色を見る暇はあるのかなぁ?

 こんなに綺麗なのに。

 今夜、一緒に見ようかなぁ?


 スマホを見ると、家を出なければいけない時間になっていた。

 いつの間に、時間が過ぎたんだろう?

 素敵な景色は時間を忘れさせるみたいね。


 私はバタバタと準備をして、家を出た。

 大学へ行く訳じゃないから、車には乗らないで、自分の足で向かう。


 五分ほど歩くとカフェに着いた。

 このカフェは、最初の依頼人であるお姉さんが、ガムシロップを最低彼氏にかけたところ。


 なんか懐かしく感じる。

 そんなことを思いながら、カフェの中へ入り、入口から一番遠い席に座る。


 この場所が、約束をした依頼人さんとの待ち合わせ場所。

 まだ依頼人さんは来ていないようだ。


 すると、私のスマホが鳴った。

 大きな音に私は焦る。

 後でマナーモードにしようと思いながら電話に出る。


 電話の相手は依頼人さんだった。

 依頼人さんは少し遅れると連絡をしてきた。

 私は大丈夫ですよと言って電話を切った。


 それからスマホをマナーモードにして、持ってきていた本を読む。

 依頼人さんが来るまで本を読むことに集中した。



「すみません。遅くなりました」


 集中して本を読んでいたら、依頼人さんが声をかけてきたので私は本を閉じた。


「お仕事がお忙しいんですね?」

「そうなんです。こんなに遅くなって、申し訳ありません」

「大丈夫ですよ。私には、暇な時間が沢山あるんです」

「それなら良かったです。それでは本題に入ってもよろしいですか?」

「はい、よろしいです」


 依頼人さんの言葉遣いがうつってしまい、私はクスクスと笑ってしまった。

 それに気付いた依頼人さんも笑っていた。


「僕には好きな人がいます」

「好きな人って恋人ですか?」

「いいえ。彼女は、上司です」

「上司の方ということは、年上の方ですか?」

「はい。十歳くらい年上です」

「それで、どうして恋愛を成仏させたいんですか?」


「それは、もし、この恋愛が成就すれば、不倫になってしまうからです」


 依頼人さんは、困った顔をして言った。

 恋愛成就は、誰でも嬉しいこと。

 でも依頼人さんにとっては嬉しいけれど、成就してはいけないことだと分かっている。


 不倫になるからと気持ちを押し殺す、依頼人さんの気持ちは、どんななんだろう?

 苦しいだろうなぁ。

 私は経験なんてないから分からないけど。


「毎日彼女に会って、彼女が優しく僕に笑いかけてくれて、土曜日と日曜日は、彼女は何をしているのかなあって考えて、また月曜日から彼女に会う。そんな毎日を過ごしていて、彼女への想いを断つことができないんです」


 依頼人さんの苦しさが伝わってくる。

 こんな恋愛もあるんだ。

 自分が、想いを断てばいいのだと毎日思いながら過ごすなんて、、、。


「そんな悲しい顔を、みかんちゃんはしなくていいんだよ?」

「えっ」

「あっ、すみません。みかんちゃんが僕のせいで泣きそうになっていたものですから」

「敬語はいらないです。だから貴方の心をちゃんと聞かせてください」

「僕の心?」

「貴方は苦しい想いを抱え込み過ぎなんです。誰にも言えない想い、私には言ってください。貴方の恋愛、成仏させます」

「ありがとう。みかんちゃん」


 依頼人さんは嬉しそうに笑った。

 まだ心から笑えないのかもしれないけれど、どうか少しでも心が軽くなりますように。

 私は依頼人さんの顔を見て、そう願うことしかできなかった。


「今日は、遅くなったから、家まで送るよ」

「いいえ、すぐそこなので大丈夫です。それに最近、太ってきているので歩きたいんです」

「それじゃあ、また明日ここで五時だね?」

「はい。仕事を優先してくださいね。私は暇潰し用の本があるので大丈夫です」

「それじゃあ、また明日だね」

「はい。また明日です」


 そして私はカフェを出た。

 外は暗くなっていた。

 スマホを見ると八時半を過ぎていた。

 そして着信が入っていた。


 聖野さんが電話をしてきていた。

 それも、たくさん。

 私は急いで家へ帰る。


 エレベーターで最上階へ向かう。

 エレベーターの扉が開くと、怒った顔の聖野さんが、仁王立ちで腕組みをしていた。


「ただいま戻りました」

「今、何時か分かってる?」

「もうすぐ九時ですね」

「遅くなるなら連絡はどうしてしないんだよ?」

「えっと、遅くなるとは思わなくてですね、、、」

「心配するだろう? それに送迎はするって言ってたよね?」

「はい。でも大学とは関係なかったので、送迎は遠慮しました」

「遠慮なんてしなくていいんだよ。みかんには不自由はさせないから」


 聖野さんは本当に心配している。

 でも私は成人した大人だよ?


「私は大人です。門限なんてないし、何をしてもいいと思います」

「それで何が起きたのか忘れたの?」

「そっ、それは、、、」

「みかんには門限はないし、何をしてもいいけど、俺にだけは連絡はしろよ。何かあった時に守れないだろう?」

「はい。分かりました。ごめんなさい」


 聖野さんがお父さんみたいに見えてきた。

 聖野さんといると息が詰まりそうね。

 不自由はさせないって言ったけど、今みたいに聖野さんの考えを押し付けられたら不自由よ。


 聖野さんは言い終わると、1番の部屋へ入っていった。

 私はお昼に見ていた景色を見た。

 夜はお昼と違って真っ暗。

 とても寂しいと思ってしまう。


 私は2番の自分の部屋へ入る。

 聖野さんとは玄関も違うから、その後は顔を合わさなかった。





 次の日は、私が起きるのが遅くて、聖野さんはお仕事へ行った後だった。

 大学で講義を受けて、家へ帰らず、そのままカフェへ向かった。


 運転手さんには、帰りはいつになるのか分からないと伝えた。

 運転手さんは連絡をくださいと言って帰っていった。


 カフェへ入り、昨日の場所に座る。

 今日も依頼人さんはいない。

 聖野さんはお仕事が忙しいみたいだから、この依頼は私が成仏させるわ。


 依頼人さんは今日も遅刻をしてきた。

 お仕事で忙しいはずなのに、依頼人さんはニコニコとしている。


「いつも遅くまでお仕事で、疲れないんですか?」

「疲れるよ。でも彼女がいるからね」

「好きな人がいると何でも頑張れるんですよね?」

「そうなんだよ。今日は、彼女がコピー機が動かなくて困っていたから、僕がなおしてあげたんだ。ただ紙が詰まっていただけなんだけどね」

「困っていた上司さんは助かったでしょうね?」

「うん。ありがとうって、ふんわりと笑ったんだ」


 依頼人さんは本当に嬉しそうに笑っていた。

 こんなに純粋な想いなのに、伝えてはいけない。

 どうして、こんな苦しい恋愛をしてしまうのだろう?


 たくさん人はいるのに。

 どうして、出会ってしまうのだろう?

 どうして、好きになってしまうのだろう?


「明日は土曜日だから、どこか連れていこうか?」

「えっ、いいんですか?」

「うん。みかんちゃんには、話を聞いてもらっているからね」

「それなら、プレゼントを買いに行きたいんです」

「プレゼント?」

「はい。昨日、彼を怒らせちゃったんです」

「みかんちゃんって恋人がいたの?」

「恋人じゃないです。今は、まだ知らない人です」

「何それ? 二人の中では通じる言葉かな?」

「そうですね」

「みかんちゃん、ニヤニヤしてるよ」

「そんなことはないですよ」


 依頼人さんにからかわれた。

 ニヤニヤなんてしていないもん。

 明日は聖野さんへ、ごめんなさいのプレゼントを買いに行くの。

 朝から出かけるわ。


 家へ帰ると、聖野さんはまだ帰っていないみたい。

 お風呂に入った後、夜景を見ながら聖野さんを待った。

 この前の景色とは違って感じた。


 星がキラキラと光って、三日月が見えてとても綺麗。

 下を見れば、車のライトやネオンが街を照らしていた。


 聖野さんはまだ帰っては来ない。

 明日は早いのに。

 昨日の夜から聖野さんには会っていない。

 一緒の家に住んでいるのになぁ。


 聖野さんを待ったけど、帰ってこないから、私はベッドに入った。

 会いたかったなぁ。




 朝になり、私はバタバタと準備をする。

 聖野さんは帰ってきたかなぁ?

 聖野さんのことは気になったけれど、待ち合わせの時間が迫っていた。


 運転手さんには、待ち合わせ場所のカフェまで送ってもらうの。

 エレベーターのボタンを押して、エレベーターを待つ。


 最上階だからエレベーターが来るのが遅い。

 エレベーターが到着して扉が開くと、聖野さんがいた。

 疲れているみたい。


「これから出かけるのか?」

「はい。ちょっと、りんことお出かけです」

「気を付けて行けよ」

「は~い」


 嘘をついてしまった。

 本当はりんこだけではない。

 エレベーターに乗って、罪悪感が押し寄せていた。

 あんなに疲れた顔の聖野さんに、罪の意識を持ってしまった。


「あっ」


 私は叫んで閉まりそうな扉を開けた。


「どうした?」

「お帰りなさい、お疲れ様です」


「なんだよ、そんなことで大きな声を出したのか?」


 聖野さんはそう言っていたけど、嬉しそうに笑っていた。

 本当は聖野さんとたくさん話をしたかったけど、今は時間が無い。

 帰ったら、たくさん話そう。


 それから私は、カフェまで運転手さんに送ってもらい、帰りは連絡をすると伝えた。

 そして依頼人さんの車で、りんこと私の三人で少し遠いお店へ向かう。

 

「着きましたね」

「そうだね。山道は狭くて困ったよ」

「すみません」

「いいんだよ。みかんちゃんもナビをしてくれたり、彼の話をしてくれたから楽しかったよ」

「それなら良かったです」

「ところで、ここは何のお店なの?」

「ここは、『もりのミカン』畑です」

「もりのミカン畑? でも蜜柑の季節じゃないよね?」

「蜜柑の花の時期なんです」


 そして私達はお店の中へ入る。

 お店の中は蜜柑の香りが漂っている。

 良い香り。


「すみません、蜜柑のお花のアロマをください」


 私は店員さんに言った。

 店員さんは素早く紙袋に包んでくれた。

 私はバイトで稼いだお金で支払う。


 依頼人さんに、支払うよと言われたけど、これは私のお金で払いたかった。

 私が彼の為にプレゼントをする物だから。


 今の時期に蜜柑のお花のアロマを買うと、蜜柑のお花がついてくるの。

 可愛い白くて小さなお花。

 聖野さんに、そのお花を見せたかった。


 依頼人さんもアロマを買っていた。

 もうすぐ上司さんが誕生日らしい。

 蜜柑のお花の時期に誕生日なんて、ぴったりのプレゼントだと思う。

 りんこはミカンジュースを買っていた。


 その後、近くのレストランで食事をした。

 その時は、依頼人さんに奢ってもらった。

 それからまた長い道のりを帰る。


 いつもの風景が見えた頃には夕方になっていた。

 夕陽が見えている。

 夕陽といえば、、、海。


「海に行けますか?」

「今から? もう暗くなるよ?」

「いいんです。夕陽を見たいんです」

「すぐそこだから大丈夫だよ」


 それからすぐに海へ着いた。

 りんこは車の中でぐっすりと眠っていた。

 砂浜を歩いて波打ち際まで行く。


「そんなに近付いたら濡れるよ?」

「濡れてもいいんです。この景色を見られるなら」

「綺麗だね。海がたまに夕陽に照らされてキラキラと光るんだね」

「はい。私はこんな海を表したドレスを着たんです」

「オレンジ色のドレス? みかんちゃんに、お似合いだろうね」

「彼が選んでくれたんです」


「彼はみかんちゃんを、ちゃんと見ているんだろうね。そしてみかんちゃんの喜ぶ顔が見たかったんだよ」


 依頼人さんの言うように、聖野さんがそんな風に思っていてくれたらいいなぁ。



「今日は、本当にありがとうございます」

「僕の方こそありがとう。みかんちゃんが教えてくれた恋愛の話は、僕には叶えられないことだらけだけど、僕まで幸せな気持ちになるよ」


 依頼人さんは本当に幸せそうに笑っていた。

 少しは心が軽くなっただろうか?

 私は役に立っているのだろうか?


 暗くなってきたから、帰ることにした。

 カフェで降ろしてもらい、運転手さんに迎えに来てもらった。


 家へ帰ると、聖野さんが私を待っていた。

 聖野さんに会いたかったから嬉しかった。


「今日は楽しかったのか?」

「はい。とっても素敵な一日でした」

「そっか」


 聖野さんの顔は疲れているようで、見ていられない。


「疲れているのなら、ゆっくり休んでくださいね」

「みかんの顔を見たら疲れも吹っ飛ぶよ」

「それでも、しっかり休んで下さい」

「そうだな。じゃあ寝るよ」

「あっ、寝るなら良い物があるんです」


 私は聖野さんの部屋へ入り、ベッドの横にあるテーブルの上にアロマを置いた。

 一瞬で部屋が、蜜柑の香りに包まれる。


「やっぱり、蜜柑のお花は可愛いです」


 私はアロマと一緒に飾った蜜柑のお花を、人差し指でつつく。


「蜜柑の香り? みかんとは違うんだな?」

「えっ」


 聖野さんは、また私に鼻を近付けて匂う。


「また、そんなことをしないでください」

「だって、みかんの香りの方が眠くなるよ」


 聖野さんはアクビをしながら言った。

 そんな仕草が幼く感じた。

 なんか、可愛いなぁ。


「眠いなら寝てください。眠るまでいますから」

「そう? じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 聖野さんはすぐに眠った。

 本当に疲れていたんだと思う。

 寝顔は本当に可愛い。

 ベビーフェイスの聖野さん。


「いつもありがとうございます」


 私は眠っている聖野さんに言った。

 今度は、ちゃんと起きている時に言うわ。



 依頼人さんの恋愛成仏を試みて、二週間が経った。

 それでも依頼人さんの恋愛は成仏をしていない。

 私には無理なのかな?


「みかんちゃん、聞いてよ。彼女に言われたんだけどさ」

「はい、何ですか?」

「最近、恋人ができたのか訊いてきたんだ」

「どうして訊いてきたんですか?」

「若い女の子と一緒にいる所を見たんだって」

「それは私ですね。勘違いさせてますよね?」

「それでいいのかもしれない」

「どうしてですか?」

「僕に恋人がいても、彼女は焦りさえ見せないんだよ? 彼女には僕なんか見えていないんだよ」

「貴方がそう思うのであれば、そうなのでしょうね」


 依頼人さんは諦めると言っているが、浮かない顔。

 何も解決なんてしていない。

 成仏なんてしていない。

 私に何ができるの?


 依頼人さんが帰っても、私はカフェに残った。

 依頼人さんのことを思うと、悔しい。

 これはもう、聖野さんに説明をして、手伝ってもらうしかない。


『ガシャーン』


 お店の中で何かが割れる音がした。


「えっ、どうしよう。割れちゃった。すみません、すぐに片付けます」


 お客である女性が焦りながら、自分が割ったコーヒーカップを片付けている。

 そんなに焦ると危ないよ。


「痛っ」


 女性の指から血が出ていた。

 私は女性に近付いた。


「大丈夫ですか? 絆創膏をどうぞ」

「あっ、ありがとうございます」


 女性は絆創膏を貰ってお礼を言ってくれたのに、私を見ようとはしない。

 私を見らずソワソワしていて、何か隠し事でもしているように感じてしまう。


 私は目の前にいる女性なんて見覚えはない。

 それなのに、女性は顔を見られないように、隠しているみたい。

 私はそんな女性をじっと見た。


「あの、何か?」


 女性は見られていることに堪えきれず、私に訊いてきた。


「貴女は私を知っているんですか?」


 私は思ったことを、女性に訊いた。


「えっと、その、いいえ」

「そうですか。変なことを訊いてすみません」

「いいえ、違うんです。私は、貴女と一緒にいた彼を知っているんです」


 私は女性の言葉を聞いて、女性をちゃんと見た。

 女性はできる女のような雰囲気がある。

 スーツを綺麗に着こなし、隙なんてない、強い女性に見える。


「もしかして、彼の上司の方ですか?」

「はい。彼が最近、早く帰りたそうにしていたので、気になっていたんです」

「ただの部下の彼が気になるんですか?」

「それは、、仕事はちゃんとしてほしいからです」

「彼はちゃんとしていますよね? ちゃんと仕事を片付けてから帰っていますよね?」

「そうですね。彼は気配りができて、誰よりも覚えがよくて、嫌な顔なんてせずに私の手伝いをしてくれます」


 上司さんは依頼人さんをすごく褒めている。


「だから、彼をお願いします。たまに子供っぽいところもありますが、それが彼の良い所なんです」

「どうしてそんなに、私に彼の良い所を教えてくれるんですか?」

「貴女が彼の大切な人だからです」

「私が大切な人ですか?」

「そうです。貴女と話をしている時の彼は、本当に嬉しそうにしているように見えたからです」

「あの、上司さん。結婚はしていますか?」

「えっ、いきなりどうしたのですか?」


 上司さんは焦りだし、ソワソワとしている。

 私はすぐに、何か隠し事があるのだと気付いた。

 秘密なんて持てないタイプの人のようだ。


「結婚はいつしたんですか?」

「二年前です」


 この質問には、普通に答えた。

 結婚したのは二年前で間違いないようだ。


「旦那さんってどんな人だったんですか?」

「最初は私の性格に理解のある人でした」

「性格ですか?」

「私は、白黒をちゃんとはっきりしたいのですが、彼はどっちでもいいよと言うようになりました」

「でもそれは、君が決めていいよということではないんですか?」

「そうかもしれないですが、恋人だとそんなに気にしない私でも、夫婦になると、小さなことでもコツコツと溜まっていくのです」

「それが爆発したんですね?」

「そうですね」

「指輪が無いのは、その爆発のせいですか?」

「そうです。指輪を外さなきゃ、言えなかったので」


 上司さんは、かつて指輪があった指を撫でている。


「いつ、離婚をしたんですか?」

「それは一年前くらいですね、、、あっ」


 上司さんは自分の口を手で押さえて、困った顔をしている。


「やっぱり、そうでしたか」

「どうして分かったのですか?」

「貴女は、隠し事ができない方です。そして、私は貴女に、過去形での質問しかしていないんです。それでも貴女は気にもせず答えてくれたので、そこで気付きました」

「そうなのですね。職場ではバレないのですが、貴女にはお見通しでしたか?」

「職場では、プライベートのお話は、しないのではないですか?」

「そうですね。仕事には関係ないので」


 上司さんが離婚したことを、誰かに言う必要はない。

 それに、離婚をしたのか訊くのは、失礼だと思う。

 私が離婚をしたのか訊いたのは許してほしい。

 私は二人の為にしたことなのだから。


「明日お仕事が終わったら、ここに来てください。そして彼が話をしている内容を、よく聞いてください」

「盗み聞きですか?」

「大丈夫です。彼は怒らないので」




 次の日、待ち合わせのカフェに上司さんが先に来た。

 依頼人さんに後片付けを頼み、自分は先に退勤したみたい。


 上司さんには、依頼人さんが座る席の真後ろに座ってもらった。

 依頼人さんの声が届く一番良い場所。


「あっ、みかんちゃん、今日も待たせてごめんね。彼女が、僕を頼ってくれたから断れなくてね」

「遅刻はいつものことですよね? 誰でも好きな人とは、長く一緒にいたいものですから、仕方がないですよ」

「そんな風には思ってはいけない相手だけど、やっぱり心は正直で、ずっとドキドキしているんだよ」

「もし、その相手が、好きになってもいい人だったらどうしますか?」

「えっ、それは、、彼女は上司で、十歳も年上で、僕には手の届かない人だけど、諦めない。諦めたくないんだ」


 依頼人さんの気持ちは固い。

 その言葉をちゃんと本人に言ってほしいよ。


「それなら諦めないで」


 上司さんが依頼人さんの後ろから言った。

 依頼人さんが振り向くと、上司さんが顔を赤くして見ていた。


「えっ、どうして?」

「今、私は結婚していないの。指輪だってしていないでしょう?」

「指輪は、仕事の邪魔だからしないんですよね?」

「私、結婚をしているって言ったかしら?」

「会社のみんなが、既婚者だって言っていましたよ?」

「そうよね。離婚をしたなんて言っていないものね」

「そうですよ。会社のみんなが噂していることが、僕にとっては真実なんです。貴女が残業までして仕事を終わらせるのは、二人の仲が冷えきっているからだとか、貴女はいつもお弁当を二人分作っているだとか、僕にはどの噂を聞いても、嬉しくなるものなんてなかったんです」

「そうね。どんな噂が聞こえても、私は既婚者だものね」


 上司さんは依頼人さんの気持ちを分かっている。


「僕は年下だし、まだまだ新人の部下ですが、貴女を悲しませることはしません。貴女を幸せにしてみせます」

「幸せにしてください」

「えっ、それって、、僕でいいんですか?」

「貴方がいいの」


 私は立ち上がり、私の席を上司さんに譲った。

 二人で向き合って話をしてほしい。


「お二人に一言いいですか?」


 二人は顔を見合わせた後、二人でどうぞと言ってくれた。


「あなたの恋愛、成仏させます」


「成仏?」


 上司さんは首をかしげる。


「前の恋愛は成仏しました」

「良かったです。どうか次の恋愛は成仏させないようにしてくださいね」

「次の恋愛は生涯続きます」

「そうですね」


 私達の会話の意味が分からない上司さんは、依頼人さんに訊いている。

 私には分かった。

 生涯続く恋愛。


 それは結婚、そして家族になるということ。


 私は、そんな生涯続く恋愛を見つける手伝いをしたい。

 だから恋愛成仏をしてあげたい。

 次へ進む手伝いをしたいの。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

次のお話は、明日の朝6時頃に投稿いたします。

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