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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
7章 雌伏する企業

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115話 実験

 吹いてくる風が暖かい。セリカは空を仰ぎ、う〜んと伸びをした。肺に入る空気が気持ち良い。


「あぁ、冬が終わると春が来る。その到来を教える風はとっても胸に来るよ」


 くるりと体を回転させて、その可愛らしい顔をニコリと笑顔に変えて、目の前の男に話しかける。その姿は絵になり、春の訪れを喜ぶ妖精のような姿であった。


「血生臭いこんな場所でもそれを感じ取れる。そう思わないかい?」


 血塗られた大地の上で踊っていなければ。


 可愛らしいピンクのワンピースの裾を翻し、舞うように再びくるくると回転をする。雪解けして、ぬかるみの中から青々と雑草が生え始めている。少し経てば草原になるだろう開けた場所でセリカは機嫌良く踊りながら、辺りを見渡した。


「くそっ、ここまで強力だったとは!」


 それを見て目の前の男は忌々しそうに怒鳴る。周囲一帯には大勢の人間だったものが倒れ伏しており、立っている無事な人間はたったの4名。


 皆、黒い戦闘服を着込み自動小銃や軍用ナイフ、はてはワンドまでをも手に持っている。セリカを見る目は憎々しげで、そして恐怖に彩られていた。


 先程までは余裕ぶっており、薄笑いを浮かべていた者たちもいたはずなのに、今はそんな余裕は欠片もない。


「当然さ。『木人形作成の巻物』を実験しに、本当に僕がたった一人で外に出かけたと思っていたのかい? 大笑いだ、そんなことを僕がするとでも? 武器も防具も一切持たずに?」


 純白の髪の毛に紅いルビーのような瞳を持つ少女はからかうように言いながら、無事な人間を虫でも見るような無関心な瞳で睥睨する。


 神代セリカは先日増えたコアストアのアイテムを調査しに、日々無防備に車に乗って一人で内街の森林地区へと通っている。そんな噂が流れた。


 冬の社交界。人々が暇を持て余し噂話に精を出す。真偽のわからぬ噂話は時に人に利益を、時に破滅を齎す。今季は有力家の足利、源、三好が雪花のイベントで多くの人材を失ったために勢力の変動が少なからず起きるのではとも囁かれている中での、神代セリカの噂話。


 人材を失ったとはいえ、それは政治に長けて金儲けが得意な者たちではなく、たんなる重火器の代用品の戦うことしかできない奴らだ。軍を動員できる将軍階級を抱え込んでいるので、あくまでも影響は多少。所詮スキル持ちはその程度の扱いでしかない。


 そう思われていた。トップのスキル持ちを多数失っても、焦る必要はなかったのである。


 年明けまでは。


 去年突如として現れたコアストア。年が明けてそこに新たに魔法の道具が加わったのだ。


 下級ポーション、木人形作成の巻物。それまでコアストアの可能性に気づいていなかった者たちにも、ようやく理解できる物を売り出した。


 すなわち、未来では、いや、遠くない将来に、健康を齎す、ともすれば若返りの力を持つアイテムを売り出すのではないか、人の代わりに働いてくれるゴーレムを販売するのではないかと。


 源九郎はそのことに気づいていたし、他の者も薄々はそうなるのではとも考えていた。だが、それはまだまだ数十年も先ではないかと、そう考えていた者たちがほとんどであったのである。


 それはなぜか? そこには自分たちの既得権益が大きく削がれるだろう可能性も含まれていたからだ。人は見たくないものは、目を逸らし楽観的に考えてしまうものだ。特に魔法などという不可思議な理を持つものに対しては。


 しかし僅かに1年に満たない中での下級ポーションの売り出し。木人形作成の巻物という魔法のアイテムがラインナップに加わった。


 5年も経たないうちに、人々が望む健康や若返りのポーションが売り出されると考え、ようやく危機感と期待感を人々は持ち始めたのである。


 特に内街の者たちは。金を持ち、権力を持ち、贅沢三昧に暮らせる。つまるところ、そんな連中が求めること、恐れることは決まっている。求めることは不老長寿、恐れることは自身が落ちぶれることなのだ。


 現状、ダンジョンの高ランクコアはそれほどない。ほとんどないと言っても良いだろう。コアというものは魔物が生きている間は高い硬度を誇るが、死ぬと同時にガラスのように、石英のように脆くなり簡単に壊れる。


 高レベルダンジョンはミサイルや爆発物で破壊するために、武具などは残るがダンジョンコアは溶けて消えるし、モンスターコアもそのほとんどが砕けてしまう。手に入らないのだ。


 今まではそれで良かった。魔物のコアなど使い道はなくて、魔物の素材もスキル持ちのための武具の素材。ミサイルや戦車を持つ軍にとってはそこまで大事には思われなかったのだ。


 だがコアストアのラインナップに高ランクのコアを必要とするアイテムが売り出されれば、状況は一変する。高ランクのダンジョンへと侵入できて、モンスターを倒しコアを手に入れることができる者たちは重要な存在となるだろう。


 この内街を。そして日本を牛耳ることが可能となるかもしれない。いや、それは大袈裟ではあるが、現実的に見ても、かなりの勢力になるだろうことは確実に予想できる。


 そのため、有力な家は、次々と強力なスキル持ちを厚遇しスカウトし始めたのである。


 その中でも噂されるのが、道化の騎士団だ。平家が育てたとも、源家の特殊部隊だとも言われており真相は不明。されど、どうやら一枚岩ではなく、内紛らしきものもあるという噂。そして、騎士団は強力なスキル持ちを何人も抱えている。


 その筆頭が神代セリカの恋人だと噂されているのだ。なので、一部の人間は考えた。神代セリカを懐柔や脅迫すれば、子飼いにできるのでは?


 神代セリカを殺せば、恋人を守ってもくれない源家に愛想を尽かし離反して、他家に来るのでは?と。


 様々な思惑が飛び交ったのである。


 そんな中での噂だ。神代セリカの、一人でのこのこと外に出ての実験。食いつく者がいるのは当たり前であった。たとえ、罠だとわかっていても、それを潰す戦力があると確信していた部隊だ。


 暗殺者にはらしからぬ重装備と人数で襲撃をかけた。その数は20人。情報どおり、彼女がたった一人で人気のない空き地へと向かったのを見て、襲撃をかけたのだ。スキル持ちも含まれる集団。離れた場所にはふたりのスナイパーも伏せており、たとえこれが罠で数人の高レベルスキル持ちがいても、問題なく処理できると考えていたのだったが……。


 今はぬかるみは泥ではなく、血でぬかるんでいた。胴体が爆発したように下半身と分かれているものや、心臓部分だけに穴が空いている者、首がねじ切られている者など、見るもおぞましい死に方をした死体がいくつも転がる。


「正直に言おう。実験はするつもりだったんだ」


 小首を傾げて、見惚れるほどの笑顔でセリカは告げる。


「引っ掛かった君たちを使っての実験さ。やはりまずは弱くても人間を相手にしたかったんだ。経験値は弱い敵を倒して稼ぐ。ゲームの基本だよね」


「俺が囮になる! お前らはこのマッドサイエンティストを殺せ!」


 一人が軍用ナイフを横に持ち、怒鳴りながら走り出す。


加速脚アクセラレータ


 突進する男は切り札を使うことに決めた。武技によって身体が加速されて残像を残し、一気にセリカへと迫る。


「援護しろ!」


「了解!」


 隊長らしき人間が突進する男を援護するために自動小銃を腰だめにして、引き金を引く。他の部下もその指示に従い、狂ったように撃ち続ける。その弾速は音速であり、威力は鉄板をも軽々と貫く特別製。AP弾だ。


「らしくない。暗殺者らしくない。せっかく隠蔽系統のスキル持ちと戦えると思っていたのに残念だな。ただの軍隊ふぜいか」


 音速の銃弾が嵐のようにセリカを襲うが、飄々としており、微動だにせず焦りもその表情には浮かんでいない。銃弾はセリカに近づく中でどんどんと速度を失っていき、最後には目の前でぽろりと力なく落ちていった。


「『減衰』と『魔力障壁』の魔法さ。五重に掛けてあるから、AP弾じゃ威力を殺されてこのように届きもしなくなる。対応方法は簡単。僕の1メートル内から撃てば障壁の展開が間に合わず当たるよ。あ、ちなみに魔道具だから破壊しても同じかな」


 腕をまくって見せつけるようにセリカは嗤う。そこには宝石が散りばめられた腕輪がつけられており、魔法の力を仄かに光らせている。


「なら、射程範囲だな! 『閃光撃フラッシュブレード』」


 ナイフを光らせて、閃光のようなナイフでの一撃をセリカに喰らわそうと、後ろに手を引いてナイフを振ろうと強く踏み込みさらに加速して


 ドスン


 と、音をたてて、走る姿はそのままに男はセリカの横を通り過ぎる。その首を地面に落として。


 その場には空気から滲み出るように死神のような黒い骨のスケルトンが姿を現していた。その手に血が滴る長剣を持って。


「いやぁ〜! よくもよくも!」


 首を斬り落とされた男がよろりと地面に倒れ込むのを見て、女が悲痛の叫びをあげ自動小銃を捨てて、軍用ナイフを手に駆け出す。


「くそっ! 行くしかないか!」


「ま、待て!」


 隊長が制止しようと声をあげるが、二人はセリカへと駆け出して止まることはない。そのセリカを守るように黒いスケルトンは前に立ち進路を阻む。その頭蓋骨の目の部分に、幽鬼のような青白い炎めいた瞳を宿しながら。


「どきなさい!」

「合わせろ!」


 二人は闘気をナイフへと注ぎ込み、その力を闘技として解放する。


蛇撃スネークストライク

強撃ハードスラッシュ


 女の持つナイフがグニャリと曲がったように見えて、蛇のような剣ではあり得ない動きをして黒いスケルトンに振るわれる。


 男の方は突風を生み出し力強い一撃にて、斬るというより砕くといった威力で黒いスケルトンに剣を叩きこもうとする。


 が、


円陣剣サークルブレード


 黒いスケルトンに女のナイフは突き刺さりヒビを入れて、男の方は左半分の肋骨を砕くが、それで終わりであった。攻撃を受けても怯むことなく、黒いスケルトンは闘技を使用する。振るわれた長剣は円の軌道を描き、女の片手と片足を切り飛ばし、男の頭と胴体に深手を追わせるのであった。


「グウッ」


 女が血溜まりの中で倒れ込み、男はそのまま命の灯火を消して虚ろな眼差しとなり、死体の仲間入りをする。


 その様子を見て、セリカは僅かに眉をしかめる。


「ありゃ。結構なダメージを負ってしまったね。まぁ、まだまだ試作品もいいところだ。また作れば良いか。とりあえずその女にトドメをさしてね」


 黒いスケルトンは無感情に頷くと、恐怖の表情を浮かべてなんとか逃げようとする女の頭を踏み潰す。グシャリと嫌な音をたてて鮮血が飛び散っていく。


「おっとっと。汚れないようにしないと。血って、汚れはとれにくいんだよね」


 着ている服が汚れないようにとセリカは平然とした表情で後退り、そのあっけらかんとした言葉に隊長が思わず怒りを覚えて叫ぶ。


「このマッドサイエンティストが! 人の命をなんだと思ってやがる」


 隊長の怒りの言葉に、セリカはキョトンとしてすぐに笑い始めた。何を言っているのだろうと。


「いやいや、僕は不思議に思うことがあるんだ。アニメや小説だとよくあるよね? 殺しにいった相手に兄弟やら恋人を殺されて逆恨みをする奴。殺された仲間の仇とか言ってさ。なんとか逃げて主人公の仲間に入って、私の恋人は酷い殺され方をしたの……とか、まるで自分が殺しにいったことを忘れたかのように」


 小首を傾げて、キョトンとした顔で、白い肌と紅い目を持つ美少女は言う。


「どんなに酷い殺され方をしても自業自得さ。そう思わないかい? 殺しに来た時点で、その人間は何をされても良いと意思表示をしているのさ」


「くっ!」


 その可愛らしい表情に、人間を人間と見ていないようなモルモットを見るような目つきと、それに似合わない可愛らしい笑顔に怖気を走らせて隊長はナイフを構える。


「だから、僕の実験体になっても仕方ないことなんだ。反論は閻魔様に弁護士を雇えるか聞いてね? それじゃ、さようなら」


 ニタリと口元を三日月のような笑みに変えるセリカを見て、隊長は決死の覚悟で立ち向かい……。


 少しして苦しげな断末魔の悲鳴が響き渡るのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひえっ、セリカには逆らわないようにしよう… スケルトンはスキルなのかなんなのか。謎が多いですね。
[一言] ドールハウスに骸骨( ゜□゜) 木人形に魔物の骨を合成? 死体剥ぎ(装備)しないの勿体無いw
[良い点] 廃墟の中でもほのぼのとした天津ヶ原本社ビルと違い、本来の世界観にもどったような内街での惨劇。普段平穏な内街でのコレは読者の背中をブルリと震えさせます。 [気になる点] かなりセリカたちの手…
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