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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
7章 雌伏する企業

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116話 暗躍

 セリカは周囲に散らばる元人間だった肉塊をまるで小石でも見るかのように平然と見渡して、つまらなそうに鼻を鳴らす。


「あまり強くなかったなぁ。スキル持ちがもう少しいたら、もっと良い実験もできたんだけど残念だな」


 半壊している黒スケルトンを見て嘆息する。予想よりも脆い。もう少し圧倒できると考えていたのだ。


 そんなセリカの横にもう一体、空間から滲み出すように黒スケルトンが現れて、手に持つ物を投げ捨てる。血溜まりに投げ捨てられたのは、離れた場所で狙い撃とうとしていたスナイパーたちの生首だった。


 黒き洞穴のような眼窩に青白い炎を燃やし、不吉なるオーラを纏う黒スケルトンがセリカを見てくるが、気にすることはない。


「スキル持ちが少なすぎる。動きも普通だったし……」


 そっと血溜まりを避けつつ、武技を使った人間だったものへと近寄り手を翳す。あまり参考にならなかった。銃持ちの一般兵では相手にならないので、頭数にも入らなかったし。


『合成』


 マナを手に溜めてスキルを使う。純白の光が死体を包み込み、やがて消える。転がる死体はそのままに。


 その結果に舌打ちして、肩を落とし呟く。


「やはり人間は何度やっても合成できない。と、すると妖精も駄目だな。昔もできなかったし仕様変更はなし、か。クラフト対象は魔物と無機物関係だけかぁ。もしかしたら仕様が変更されているかと繰り返していたけど諦めるか。もう充分だ、近道はないということだね」


 思わず嘆息してしまう。妖精や人間を弄れれば、時間を大幅に短縮できたはずだが、それは許可されていない。いや、許可されていないというよりも、そもそもスキルの対象外となっている。ダンジョンの力の限界なのだろう。


「あ〜、昔の施設があればなぁ……。でもあれはそもそも失敗だったから、頼るのは危険だよね。やっぱりまったく違うアプローチでいこう」


 黒スケルトンを見て、すぐに気を取り直す。やはり長い目で見る必要がある。


「試作品ができただけでもいっか」


 さて、とあくびをして、トランプのような大きさのカードを取り出すとマナを通す。魔法道具はその力に反応して、気の抜けた声がカードから聞こえてくる。


「終わったにゃ〜?」


「あぁ、終わったよ。来てくれて構わない」


 お互いが連絡をとりあえる通信のカード『双子のカード』。携帯のほうが便利だが、もはや使えない地域の方が多いので、仕方なく使っている。これ一つで3000万円はするが消耗品ではないので、こういう場合の使い勝手は良い。


「あ、砕けた」


 花梨と話している中で、ピシリピシリと音がするので、音の発生元を見ると黒スケルトンであった。


 ダメージを負っていた黒スケルトンが砂のように砕けていき、サラサラと禍々しい粒子となり地面に吸い込まれていった。ポツリと数ミリ程度の黒いシミが地面に生まれたが、セリカはそのままに腕組みをして顔を顰める。


「脆くて困るなぁ。やっぱり固定化は上手くいっていないと考えるべきだね。と、すると肉を作っても意味がない? いや、試すだけはしておきたいよね。脆すぎる骨を支えてくれるかもしれないし」


 スッと白魚のような手を翳して、小さく呟く。


人形家ドールハウス


 その一言で、空間が裂けて西洋の屋敷風の2メートル程度の大きさの玩具の家がズズズと現れる。数分かかるのはアイテムボックスと一緒だ。そうしてカチャリと正面玄関の扉が開く。開いた入口が光り、黒スケルトンはその中に黒き光となって吸い込まれるのであった。


「あ、そうだ。この時間をメモしておこう。どれだけの時間でダンジョンが発生するか、もっと検証したいしね」


 周りは空き地であり、遠くに森林が見える。人気がない場所を選んだのだから当たり前だが。


「昔みたいに好奇心に釣られて、場所も考えずに実験をしたりしないなんて、僕も成長したもんだよ、うん。………生まれるダンジョンはどれぐらいのランクかな? うまく素材が手元に来るように根回ししておかないとね」


 クスクスと笑って、遠くから車のエンジン音が聞こえてきたので、そちらに歩き始める。そうして、ちらりと黒いシミのある地面へと目を向けて口元を曲げて微笑む。


「電気を使えるようにしたエジソンや、飛行機を作ったライト兄弟、物理学のアインシュタインから始まり、核ミサイルの理論を研究した科学者たちに罪はない。彼らはその時点で自分たちの発明や理論がどう使われるか、想像力を働かせることはなかったし、また、その必要もない。研究が全てだったんだ」


 フンフンと綺麗な声での鼻歌を歌いながら、近づく車を見る。花梨が迎えに来てくれたのだ。


「僕も研究が全てなんだ。まぁ、今のところは。成功したら使う予定だけど、研究している間は研究者という立場で問題ないよね。だから不幸な事故が起きても仕方ない。失敗は成功のもとというし」


「迎えに来たにゃ〜」


 大切なお友だちが車から出てきて手を振るので、セリカも手を振り返し、車に乗ってその場を離れるのであった。


 少女たちが去った後には、僅かに盛り上がり始めた地面が残っていた。




 しばらく走り続けて都心に入る。道路には多くの車が走っており、綺麗に磨かれたガラス張りのビルや、カラフルな看板を掲げるレストランの前を通り過ぎる。ブティックのガラス越しには、マネキンが今年流行させたい服を着ている。


 並木通りには、多くの人々が歩いている。スーツ姿で足早に忙しなく歩くサラリーマン、制服を着込んだ学生たちが肉まんを齧りながら、楽しそうにおしゃべりをしながら歩き、おばちゃん連中が高級そうな服を着て余裕の笑みを浮かべていた。


 車の窓から外を見て、セリカはその平和な様子にニコニコと笑顔を浮かべて、運転席に座る花梨へと話しかける。


「平和そうだよね〜。内街の人たちは」


「ここの連中はぎりぎりの中流階級か下流階級にゃ。車で移動していない時点でわかるにゃん」


「政争があっても、流されるまま。頭を悩ます必要もない。そこそこの金を持ち、されど上を狙うほどの才能も気概もないから、心穏やかに思考停止をして暮らしている」


 笑顔で皮肉げに言うセリカに、花梨は運転をしながら苦笑をしてしまう。


「その方が楽に生きられるかもにゃ〜、内街で税金に頭を悩ますことなく、美味しい料理と平和な暮らし。最高かもにゃん」


「良いよ、それならここで上を目指すのを止めても。残念だけど、親友の幸せの方が大事だしね」


 からかうように言ってくるセリカの言葉だが、その言葉が半ば本気なのもわかる。花梨が頷けば止めることはないだろうと薄っすらとだが理解している。


「ここで頷いたら、セリカはきっと困るにゃ」


「そりゃ困るけど、なんとかするよ」


「親友が困るなんて、あちしも困るにゃ。ポケットにもっとお金も欲しいし、セリカには恩返しをしなくちゃにゃし」


 花梨の言葉に、セリカは優しい顔で微笑むと髪をかきあげる。さらりとした純白の髪が流れるようにかきあげられて、クスリと紅い目をした美少女は微笑むのであった。


 駐車場に到着して、車を降りて研究所に戻る。自分の部下である研究者たちに挨拶を返しながら、自室へとエレベーターに乗り移動をする。


 少し前と違って多くの研究者たちが働いており、忙しく作業に精を出している。最近の神代研究所は頭角を現す時点は通り過ぎて、台頭している最中だ。勢いがあり、下層階級の人間を多数雇い入れて、いっぱしの勢力を作り上げていた。警備会社も自前で保有しており、この間の雪花事件にて、力も示した。下層階級の人々には人気があり、久しぶりの期待の星と神代一門は見られていた。


 この数カ月で一気に力を増した神代セリカは、自室にてコーヒーを二人分入れながら花梨に話しかける。


「それで今回の暗殺にもならない、おそまつな襲撃部隊はどこの家の者だったのかな?」


 ソファに座る花梨の前にコーヒーをコトリと置く。テーブルに置かれたコーヒーカップを持ち上げて、冷ましながら猫娘は答える。


「相手は和田家。落ちぶれ始めようとする一門にゃん」


「落ちぶれ始めようとする? それはまた……未来の話?」


 変な言い回しをするんだねと、セリカは首を傾げてしまう。それに対して、フーフーとコーヒーに息を吹きかけながら花梨は肩をすくめる。


「和田家は土蜘蛛召喚の固有スキルを持つ者が数名いる一門にゃ。もちろん、今まではそんなスキルに和田家は見向きもしなかったにゃん。でも、状況が変わったにゃんこ」


 その説明で、セリカはピンときて、冷たく嘲笑う。ハッと息を吐いてコップを手にソファに座る。


「防人だね。使い魔関係だよね。もしかして自分たちも同じように使えると考えた?」


「当たりにゃ。レベルを上げれば、使い魔だけでダンジョン攻略ができると言いふらして、スキルアップポーションを集めているにゃんこ。ダンジョン攻略をローコストで行える。そして来る未来に備えましょうってことにゃ」


 なるほどとセリカは納得した。使い魔でダンジョン攻略。防人ならDランクダンジョンならば使い魔のみで攻略できるかもしれない。いや、きっとできる。


 源風香率いる部隊がその可能性を見た。そして、源家は誰を天津ヶ原コーポレーションの窓口にするか迷っており、セリカに今のところは、任せている。平家の息のかかっている道化の騎士団のメンバーを洗い出している最中だからだ。風香はどうにかして窓口になろうとしているらしいが、力不足は否めない。


 その間に使い魔の力を聞いた和田家が、今更ながらに自身のスキルの力に期待を持ったということだ。


「馬鹿らしい。防人の使い魔は異常な力を持つ特別なタイプだ。きっとあれに対抗できる力を持つんだろうよ」


「対抗にゃ?」


「いや、なんでもないよ。で、和田家は使い魔の力を独占するために、僕を殺しに?」


 セリカを殺しても、防人が死ぬわけではない。意味がわからない。


「ついでにゃんこ。本命は防人にゃんね。集めた情報では、甘い言葉で死蔵していた各家のスキルレベルアップポーションを掻き集めて、レベル5までスキルレベルを上げた奴が殺しに向かっているにゃ。使い魔を使う防人を自分たちで倒して、より優れた使い魔を持っているとアピールするためにゃ」


「あぁ、僕を邪魔に思った連中がついでにねじ込んだのか。なるほどね。……それよりも使い魔の力を見せつけるねぇ。時代錯誤、いや、モラルとかが退化していないかい? 江戸時代の浪人じゃないんだしさ。刀を振り回して、我こそは〜って?」


 ふざけるように手を振ってセリカは笑う。


「あちしに言ってもにゃあ」


 花梨もセリカの言葉に同意して呆れているが………。


「それだけ内街に混乱が広がってきたということか……上流階級が沈んだら下の者も引きずられる。悲喜こもごも、少なからず………」


 これは手始めだろう。全てはコアストアのお陰だとセリカは思いながらコーヒーを飲み干す。コアストアの齎す利益に目が眩み皆は行動し始めている。良きにしろ悪しきにしろ、混乱が生み出されている。内街にも外街にも。


 人口が多い場所での混乱は感情というエネルギーを生む。そのことにセリカは嬉しく思い薄く嗤う。


「防人は今どこに?」


「橋を渡って北東に市場を開拓に行くと言ってたにゃん」


「そっか。和田家を倒して領土を奪うなんてことは戦国時代ではないからできないけど、裏でうまく立ち回れば、少しは良い結果になるはずだよね。源家に連絡を入れよう。それと……防人には別に教えないで良いよね。聞かれたら答えれば良いや」


「……セリカ、それが防人にちっとも信頼されない理由にゃよ?」


 ジト目で見てくる花梨にチロッと舌を出して、小悪魔のように微笑みながら考える。


 新たなるエネルギー集積装置を作るかと。きっとまた新たなるエネルギーが抽出できるはずだ。


 セリカの瞳には人が見たら恐れを覚える光が宿っていた。


「僕は僕の力で解決できる道を。あいつは博士の勧めたプロジェクトを進める道を。救世できる方法を自身のスキルに任せて見つけようとするあの子はどこにいるのかなぁ。はてさて、誰が世界の救世主になれるのやら」


 呟く言葉は小さすぎて、さしもの花梨も聞き取れなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 7章、読了。ようやく少し追いついて来ましたw 雪花を採りに行ったら、ボスがフローキスちゃんで、倒したらいつの間にか残機になって、名前が雪花になってた件。雪花とは一体・・・w [気になる点…
[気になる点] セリカは仕様変更は無いってわかってるから、過去の経験からコアストアが誰かしらのスキルによるものだと気づいてるのかな?誰のスキルによるものか気にした様子がないから、どう考えてるのか気にな…
[一言] 幼女に名前をつけない理由がだんだんみえてきた 設定的には強力なスキルが発動していて防人を始めとしたみんなが名前を知らない事に気がついてない感じかな? キャラ的には防人はまだ名前を覚えるに値し…
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