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エピローグ

 わたしが女王に即位してから三年の月日が流れました。


 グリトン王国は今のところ平和です。

 大雨で一部の田畑がダメになってしまったときもありましたが、こんなこともあろうかと備えておいたので大事には至りませんでした。

 また、近隣諸国からの侵略の気配はなく、関係も良好です。今はメーテルシア帝国の内部がごたついているので、こんな小国に構っていられないのでしょう。

 そう、シュナグ様がついに帝位争いに名乗りを上げたのです。姉のリィン様と帝国民の支持が強く、あっという間に巨大勢力になっているようですよ。


 グリトンは内乱もなく平和なのですが、実は少しずつ変わってきました。


 一番大きな変化は新しい学校ができたことでしょう。

 昼は子どもたちに、夜は大人たちに少し高等な学問を教える学校です。わたしも極力通うようにしています。

 ちなみに初代校長はルイス先生です。教壇の上に立つと人格が変わったように熱血になり、居眠り生徒には伝説のチョーク投げを披露してくださいます。


 城内では有志による音楽隊が結成されました。

 合奏によりみんなの結束や向上心が高まっていて、良い感じです。お祭りや国の行事のときには大いに活躍しています。もちろんわたしも練習に参加しています。

 発起人はダグさんです。元々音楽に対する憧れがあったらしく、嬉しそうにラッパを吹いています。


 ああ、そうそうミカルドさんが考案した「妖精マンジュー」というお菓子が大ヒットし、飛ぶように売れているんですよ。外交の傍ら、熱心に宣伝していましたものね。

 包み紙がくじになっていて、当たりを十枚集めるとわたしの肖像画がもらえるんです。いらねーって感じですけど……まぁ、味がいいので売れるのでしょう。

 グリトン国内限定のフレーバーを売り出したおかげで、観光客も以前より多く訪れるようになりましたよ。


 城下町は以前よりも活気が出てきて、人々の顔が引き締まっています。


「ダメ女王が心配だからな。俺たちがしっかりしないと」

「追い詰めればやる子だもの。心配ないわ。女王は生かさず殺さず」

「ボク、また楽がしたいから、お野菜がたくさん収穫できるように肥料の研究する!」


 なんて、ちょっと残念な声も聞こえてきます。 

 ……ま、こんな国があってもいいですよね。

 それに自惚れかもしれませんが、最近わたし、愛されているような気もします。



「あ、あれ? 明日の会議で使う資料……嘘」


 執務室でわたしは青ざめます。大切な書類を紛失とか、ヤバいです。宰相に怒られる。


「もー、仕方ないな……」


 まさかと思ってゴミ箱を漁っている途中、ぼそりとそんな声が聞こえました。

 ふと気づくと、机の上に探していた書類が置かれているではありませんか。


「ありがとう」


 妖精たちは、なんやかんやで手を貸してくれます。素直に現れてはくれませんけどね。お礼として窓辺にクッキーを置いておきました。


 お父様曰く、「あんまり頼られなくなって寂しいんだよー」とのこと。あ、両親は森の別荘で仲良く隠居していますよ。

 お母様ったら、シトロンにはちゃんとした嫁を迎えると張り切っています。懲りませんね。もちろんわたしはシトロンの意志を尊重しますよ。結婚も王位の継承も、もう少し大きくなったら相談するつもりです。


 資料に目を通し、気になったところをチェックして予習し、ようやく今日のお仕事は終了です。

 ふらふらになりながら、わたしはエミルの部屋を訪れます。


 あの日から未だに目覚めない最愛の人。

 わたしは毎日朝と夜にエミルに会いに来ます。そして、痣だらけの頬や手に触れ、命じるのです。


「エミル、いいかげん目を覚ましなさい!」


 返事がない。まるで屍のよう……じゃありません!

 わたしはため息を吐き、ベッドサイドに腰かけます。そのまま寄り添うように倒れ込みました。


「まだダメですか……」


 エミルは十年以上辛い思いをしていました。たった三年の頑張りじゃ釣りあわないのは分かっています。


「でも、早くしなきゃ……」


 エミルの大切な時間がこぼれ落ちていきます。

 早く目覚めてほしくて、わたしはがむしゃらに働いてきました。日に日に焦りが募っていて、心細くて仕方なくなる瞬間があります。

 公共事業の計画、税率の調整、法整備……未熟なわたしには難しいことばかりです。完璧を目指すほど自分の至らなさを思い知るというか……。

 それでも泣き言は言いません。どれだけ大変でも、毎日楽しく笑って過ごすようにしています。それがエミルの望んだことだから。

 でも、ふとエミルがいないことに気づいて、いたたまれなくなるのです。

 ちょっとだけ、ちょっとだけ、甘えさせてください。明日からまた笑って頑張りますから……。






「姫、こんなところで寝ないで下さい。一応年頃の女性なんですから」


「うぅ、だって眠いんだもん。あと五分ー」


「……子どもみたいな言い訳するな、ダメ姫が」


「ひっ」


 冷たい声にはっと飛び起きます。茶色の瞳とばっちり目が合いました。痣も消えています。


 夢を見ているんでしょうか。

 だとしたら、なんていい夢……。

 ううん、だから、夢オチは嫌なんだってば!

 

 わたしは思い切って叫びました。夢なら覚める前に伝えなきゃ。


「エミル! 寂しくて死にそうなの! わたしと結婚して!」


 その言葉に彼は呆れ、ほんの少し視線を泳がせてため息を吐き、小さく微笑みました。


「……我が姫君の仰せのままに」




最後までお付き合いいただき、ありがとうございました


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